「あそこ!イルカ!」
「どこどこ!?あ、あいつか!」
「え、マジでおるん?」
「インスタあげよ」
都会の海と空気の濁りから解放されて数時間の後たどり着くこの地にて、潮風を満喫していた。
いくら海が綺麗であってもイルカは場違いである。
ここは砂浜だ。
サーフィンをして、ビーチバレーをして、砂の山をつくるところだ。
私たちが泳ぐために海があるのではない。
彼らが優雅に泳ぎ暮らすための海である。
あそこにいたはずのイルカは、徐々に砂浜へと近づいてきて、イルカの浮き輪の如き自然な佇まいで漂着した。
「生きてる?元気?」
砂浜の哺乳類の海洋生物といえば瀕死のイメージが強い。もうすぐ死ぬのではないか。ビニール袋を喉に詰まらせて苦しいのだろうか。明らかに元気がない。
水族館でイルカに心惹かれる要因のトップ3に入るであろう、あの愛くるしい声を発した。
「どうしよ。元気ないみたい。死んじゃうのかな。」
「悲しいこというなよ。お腹空かせてるだけだろ。ほれ、ししゃもうまいぞぉ。焼いた方が好きか?」
「やめとけって。腹空かせてるだけならこんなとこおらんやろ。」
「じゃあ、俺に何ができる?俺たちに何ができるんだ?獣医はいないんだぞ」
「ChatGPTがあるじゃん!天才!」
「圏外な。お疲れ。」
「いや!死なないで、いーちゃん!生きよ?私も頑張って生きるから!」
「いーちゃん…あばよ」
「いーちゃん。元気でな。いーちゃんは永遠にストーリーにいるからな。」
「インスタが墓なのかよ」
「せめて埋めてあげようよ!天国にいけるように。」
「スコップなくね?」
「砂浜に干しとけばそのうち干上がるやろ」
「それか、俺らでイルカ肉食ってみるか?生命への感謝を込めてさ。」
「そんな…いーちゃんを食べるなんてできないよ。そんな酷いことできない。」
「じゃあ、どうするんだよ。石でもくくりつけて海に沈めるか?海底の墓ってのも乙なもんだろ」
「うん。いーちゃんには、せめて、安らかに眠って欲しいの。海の底でもいい。」
「紐はテントから拝借するとして、石を取りに行かないとだな」
「いーちゃん。ちょっと待っててね。ちゃんとお墓作ってあげる。」
海の底を探るのは危険と判断して、林の中を手分けして探す。
道端に転がっているありふれたはずの石たちが見当たらない。
綺麗に土だらけである。
そう思いつつもちらほらと石が転がっており、かき集めた。
化学繊維でできたシューズバッグに石を詰め込んで、若干の生命への愛の軽量化によって海豚を締める。尾と頭と念の為お腹も。
「バイバイ。いーちゃん。私たち、ここにいるからね!見守ってるから!」
「見守るのはあっち側やろ。」
「だってここにしかいられないもの。そこにはいけないもの。ここで見守るっていう思いは永遠にここにあるから。」
「おう、どうした急に。スピリチュアル強いな。」
「ここにある想いのことを言ってるの!見えないけど、確かにここにない?いーちゃんはの想い。」
「ああ。あるともさ。」
「いーちゃんは、ここにいる。そこにもいる。いーちゃんの重さも伝わってくるよ。」
「はやくー。いーちゃん重いって。」
そこにいるか?
そこにイルカ。
底にイルカ。
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