メンタル崩壊の日々 ハケン営業の品格① 音に共鳴して発狂する派遣スタッフ編
ハケンの品格が終了し、1週間程が経った。
あのドラマは様々なスキルを持つ派遣スタッフである、大前春子さんが会社のピンチを救う爽快なストーリーだった。
派遣関連だとどうしても派遣スタッフにフォーカスされやすいが、実はその営業担当にも濃厚なヒューマンストーリーが詰まっているのである。
私は以前、10年近く派遣会社で営業をしていた。今回は、その時のエピソードについて話をしよう。
人材派遣について
世の中には様々な商品があり、大きく無形商材と有形商材に分けられる。
有形はパソコンや食材などの物を売る営業。
無形は人材や研修などのサービスを売る営業だ。
派遣会社の商品は言うなら「人」になる。
くくりでいくと、法人営業になるのだが、派遣スタッフさんは派遣元を通して働いて“頂いている”わけなので、個人営業の側面もある。
派遣先の会社が様々であれば、そこへ派遣される人も様々だ。人と会社のマッチングが100%上手くいくことはまず不可能である。
よって、現場では様々なトラブルが起こる。派遣業は別名、クレーム産業とも言われていた。
ほぼ毎日といっていいほど、派遣先と派遣スタッフの板挟みになるのだ。
この10年の間に蓄積されたエピソードをこれから紹介していきたい。
ハケンの品格ならぬ、ハケン営業の品格として!!
※大前提として、派遣スタッフさん達は本当に良い方ばかりでした。みなさん真面目に頑張って頂いて尊敬するべき人ばかりです。ただ、時としてトンデモスタッフに遭遇する事があり、今回はそのエピソードの一つのご紹介です。
音に共鳴して発狂するスタッフ
私はある施設の受付にスタッフを派遣していた。通常の派遣ではなく、直接採用を前提とした、紹介予定派遣での就業だ。
そのスタッフは受付として、内覧者への案内や備品の準備、事務作業などを行なっていた。
就業開始2ヶ月後程した時、派遣先から私宛に電話が掛かってきた。
「おたくのスタッフ、会社来なくなっちゃったからちょっと来てくれるかな?」
派遣先担当者よりお呼び出しがかかる。
殆どのスタッフが辞めるとしてもちゃんと連絡があるが、2ヶ月に1回くらいはこんな事が起こる。
このシチュエーションは新卒の時よりはドンと構えられるようになったが、いつでもドキドキハラハラしてしまう。
私は慌てながら派遣先に向かった。
派遣先へ到着し、息を飲み施設の中に入り、担当者へ事情を聞く。
「○○さんさぁ、前から職場に馴染めて無かったんだよね。
相当ストレスたまってたのか分からないんだけど、ある日配膳台が運ばれる音でキィーーッて音がしたのね。
そしたら○○さんが、その音に共鳴してキィーー!!って発狂しちゃったんだよね。」
「それは大変ご迷惑おかけしましたね、、、」
「それだけじゃなくてわ続け様に手に持ってたペンをパソコンに叩きつけて、
ダッシュでトイレに篭ってしまったんだよ。
で、トイレで大泣しちゃって、仕事にならないから帰らしたんだよ。
それが昨日の事で、今日になったら無断で出社しなかったってわけ。」
「そうでしたか、、それは大変申し訳ございません。」
「他のスタッフ達もビックリしてたし、困るよこれじゃ。無断で来なくなるなんて社会人としてどうなの?」
「ご迷惑をお掛けして大変申し訳ありません。。。」
エピソードとしては、こんな事があった。
派遣の営業は、今回はさーせん!そんじゃ、次の人派遣します!とならないのが辛い所だ。
まず、派遣先には、働いた期間分は料金を請求しなくてはならない。これがなかなかハードなのだ。
派遣は派遣元が雇用しているわけなので、バックれられたとしても、そこまでの給料は必ず支払わなければいけない。
だから派遣先から請求ができないと、丸々赤字になってしまう。
「教育期間でバックれてんだからむしろこっちがお金貰いたいくらいだよ!」
「迷惑かけといて金は払えってどんな神経してんだよ!」
「お前の会社は不良品を納品して、それに対して金を払えと言ってくる会社なのか!」
などの罵声に対し、
◾️派遣先の環境にも問題があったのではないか?
◾️派遣先でも面接して貰ってる上での派遣採用なので、そっちでもしっかり選考して貰っている。
◾️今回のような事があっても、契約を終了させられるのが、直接雇用よりリスクが低いメリットだ。
◾️ここで請求する事は、法律上特に問題はない。
このようなことをやんわり伝えて交渉を行うのだ。
折り合いが付かない場合は、割引対応をしたり、最悪請求ゼロになる場合もあったりする。
請求ができない場合は、上司にこっぴどく怒られる。
それで凹んだ時は、同期や優しい先輩が一番の支えだった。
飛んだ派遣スタッフの対応
派遣料金についての対応と並行しながら行うのは、飛んだ派遣スタッフの対応となる。
これもそのままにしていくわけにはいかない。
なぜなら、急に来なくなったからといって、勝手に契約終了にしてしまったら、後からやっぱり働きますと言われた時に、派遣元の持ち出しで休業手当を支払わなくてはいけないからだ。
無断欠勤しといてよくそんな事が言えるなと思うが、稀にそうゆうケースが発生する。
同時に、本人の安否確認もしなくてはいけないため、何が何でもコンタクトを取る必要がある。
今回のスタッフの場合は、まずは何度も電話をかけた。
電話に出ないので、メールを送った。
それでも反応が無かったので、直接家まで出向いた。
そのスタッフは女性の1人暮らしだったので、男性1人だと警戒されてしまうため、女性の先輩と一緒に家まで向かった。
まずは電気が付いていて、家にいるかのチェック。電気は付いていない。
電気メーターは回ってはいるが、遅い。
もしかしたら不在かなぁ、、、
やっている事がまるで探偵のようだ。
ピンポンを押す。反応がない。
ノックする。反応がない。
もういないかなぁーと思い、ドアノブに手を掛ける。
すると、
ドアが開いた!!
ドア開くんかい!
女性の一人暮らしで無用心だなぁ、、、
○○さぁーーん!!いらっしゃいますかーー?
玄関で呼び出す。
すると部屋の奥から人が出てきた。
○○さんだ。
憔悴した表情で無言でこちらに近づいてくる。
「○○さん!急に会社来なくなって連絡付かなくなったから心配してたんですよ!体調はどうですか?」
「あぁ、すみません。」
「今の仕事、これからも続けていけそうですかね?」
「いや、もう無理ですね、、、」
「分かりました。派遣先には私から話を付けておきますので、これを書いて下さい。」
と、派遣契約が途中で終了されたことを確認するための確認書という書類を取り交わす。
前述の通り、前言撤回されないためのリスクヘッジだ。
あとは社会保険脱退に必要な書類を渡して、私物が派遣先に無いかと、貸与されているものが無いかを確認。
私物がある場合は、破棄していいか、着払いで送るかを確認して対応する。
貸与されているものがある場合は、回収して営業担当が届けに行く。
今回のケースは、制服は派遣先に置いてあり、私物は破棄していいとの事だったので、後日私が回収をして破棄をした。
この私物回収の瞬間が何とも悲しい瞬間だ。
あ、迷惑かけた派遣スタッフの営業担当だ!という目線を送られ、「すいません。すいません。」と言いながら私物を回収する。
場合によっては他の派遣スタッフから、
「なんであんな人を派遣したんですか!私たちの印象も悪くなるじゃないですか!」
と言われる事だってある。
その後の対応は私はどうしても事務的になってしまっていた。
本人の事を考えると、おそらく田舎から1人で上京してきて、慣れない東京暮らし、慣れない仕事、そして周りには友達が1人もいない。
そんな環境の中できっと思い詰めてしまったのだろう。
とても不安で辛かったと思う。
だけど、その感情に寄り添って一喜一憂していたら、今度はこちらの気持ちが持たない。
表面上ではそうでないように取りつくっていても、心の中はなるべく無であろうとしていた。
その後は、よっぽど酷いクレームにならない限りは、後任スタッフを人選する事になる。
しかしながら、派遣スタッフが飛んでしまう職場は、派遣先の環境が良くない事も多く、連続で飛んでしまうケースもある。
これが続いた日にはホント、目も当てられなくなる、、、
今でこそ禁煙しているが、そんな後は喫煙所で無心でタバコを吸って気分転換をしていたものである。
気持ちの行き場がなくて、バッティングセンターにそのまま行った事だってある。
こうして負の感情を押し殺し、新しいスタッフを紹介する時は満遍の笑みでレクチャーをするのだ。
ストレスフルな派遣営業
トラブルが起きたときの派遣営業の辛さといったら、ストレスが尋常ではない。
これに加え、毎日朝早く出社して、22時過ぎまで残業していた。
21時頃から会議スタート。23時に会議終わる。飲みに行く、2次会まで行ってタクシーで帰る。そんなのは日常茶飯事だった。
派遣営業の仕事は派遣スタッフのケアだけではなく、当然、新規既存顧客の開拓を行う。
飛び込み、テレアポ、ひたすら新規ローラーを暑い日も寒い日も、雨の日も風の日も、パンパンになったカバンを持ちながら、お客さんを回るのだ。
そして、数字がいっていないと上司からゲキ詰めされる。
あの頃は若さで乗り切れたが、今はもう出来ないと思う。体力的にも精神的にも(笑)
毎日家と会社の往復のみ、休日は死んだように眠り続ける。
目の隈と首回りのできものが良くならない。たった3駅くらいの区間でも眠れる。
こんな日々が派遣営業時代の毎日でした。
今はきっと環境も良くなっているとは思いますが、あの頃は過酷な毎日でした。
人を扱い、人の人生を支えてるといっても過言ではない仕事だからこそ、様々なトラブルが派遣営業には発生します。
こんなヒューマンドラマで溢れる派遣営業は、ハケンの品格の次回作でぜひフォーカスして貰いたいと思うのだった。
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