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春深くなりゆく日に『源氏物語』の桜台詞を

四月。旧暦では今日は三月一日。晩春です。
『源氏物語』より、音読したい三月の場面。

光源氏の後半生を描く第二部の実質的な最終章「幻」。
最愛の人・紫の上が亡くなって(享年43)半年余り。
52歳の源氏はふさぎ込んでいます。

二月、紫の上の形見の紅梅が咲き、三月、紫の上遺愛の桜が咲く。
紫の上のことを思い出しては後悔がつのる源氏。
6歳になった若宮(匂宮)のみが心を慰めてくれています。

「まろが桜は咲きにけり。いかで久しく散らさじ。木のめぐりにちゃうを立てて、かたびらをあげずは、風もえ吹き寄らじ」と、かしこう思ひえたり、と思ひてのたまふ顔のいとうつくしきにも、うちまれ給ひぬ。

源氏物語 幻

意訳:「私の桜が咲いた。どうにかして散らないようにしたい。木のまわりに几帳きちょうを立てて、帷を上げないでおいたら、風もピューッと花を吹き飛ばせないはず」と、いいこと思いついたとばかりにおっしゃる匂宮の顔がなんともかわいいので、源氏は顔をほころばせなさった。

そして、源氏の台詞。

「おほふばかりの袖もとめけむ人よりは、いとかしこうおぼし寄り給へりかし」

源氏物語 幻

意訳:「『おほふばかりの袖』をほしがった人よりもはるかにいいことを思いつきなさったね」

『おほふばかりの袖』は、

大空におほふばかりの袖もがな春咲く花を風にまかせじ

後撰集

意訳:大空に桜を覆うほどの袖があればなぁ。せっかくの春に咲いた花を風にまかせて散らしたくはない。

という歌を踏まえています。

どこを読んでも和歌の花が二重、八重と咲いている。
それが『源氏物語』の楽しいところ。繰り返し読んでしまうのです。

#古典がすき

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