【夜宵★日記97】『木挽町のあだ討ち』(永井紗耶子)
2023/8/6
第169回直木賞受賞作。
「敵討」ではなく「仇討ち」でもなく「あだ討ち」。
そのわけが読み終えてわかる。
「己の想いを貫くことの難しさも、道理のままに行かぬ割り切れなさも、この世の中には数多ある。それを嘲笑うのではなく、ただ愧じるのでもなく、しなやかに受け止め生きる人々がいる。そのことが私の背を押し、己の心に従う力を与えてくれた。」
終盤のこの一節が物語のすべてのように思われる。
もがいて苦しんで、その末に「しなやかに受け止め生きる」人の眼差しは深く、やさしい。
有限の時の中で、人の生がきらりと光る。
何人かの人物が、あだ討ちについてそしてその人自身の道について、一人称で一人語りする文章構成。
説明書きもないが、語り口だけでそれぞれの人となりや佇まい、表情まで浮かび上がってくる。
そしてその人生の機微に釣り込まれて一緒に身悶えする。
それが、語り口の軽妙さ、リズム感で、またするすると気付けば読まされている。
途中から筋書きが見えたが、それでも胸のすく結末。
過不足ない、心地よい読後感に浸れる。
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