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静かな病
女は泣いていた。夜の静けさがそれを聞いた。迷い込んだ夜光虫は無神経だった。部屋は冷めたまま青白い月灯りに照らされた。
男は黙っていた。長い夜が早く終わればいいと思った。静けさは不健康な他人だった。彼は何も聞かなかった。
彼女らは病んではいなかった。静かな病は夜を浸していた。遠くでは街が華やいだ。彼女らには知る由もない。
私たちはそれを見ていた。
(2021.3.2)
わたしたちの街の天使
わたし、天使を見た。クリスマスの夜に。とっても光っていて、夜の闇を柔らかく溶かしていた。綺麗だな、って思った。そう思った。
天使は何をしにきたんだろう、私たちの街に? きっと、夢や優しさや素朴な豊かさを届けにやってきたんだろう。そして光を。
わたしはわたしのことを知ることはできないけれど、天使のことなら少しずつ知れそうな気がした。それは記憶。不思議な記憶。わたしが生まれる前から、お母さん