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むげんくん

むげんくん

むげんくんは とぼとぼ あるく

とぼとぼ どこへ?
とぼとぼ どこへも

あっちへ とぼとぼ
こっちへ とぼとぼ

「ぼくの いるばしょ わっからないんだ」

とぼとぼ どちらへ?
とぼとぼ どちらへも

きのうも とぼとぼ
あしたも とぼとぼ

「ぼくの いるばしょ みいつけたいんだ」

むげんくんは とぼとぼ あるく

むげんくんは むげんです
おとなや だれかが ちがうと いっても
むげん

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ペンパルは地下へ行く

ペンパルは地下へ行く

 ペンパルは地下へ行こうと思った。そういえば生まれてこのかた9年も過ごしたこの家には地下室があるのだということにペンパルは今の今まで思い当たらなかった。なんせ、そんなこと、母親も父親も先生も友達も誰も教えてくれなかった。

 教えなかったのにはわけがあった。誰も地下室なんて知らなかった。いや、知っていた。知っていたけれどわからなかった。見えなかった。見えたところで、どうせそれは、埃にまみれて、コウ

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眠り

眠り

眠る眠る眠る。
深く深く。
消えてしまうまで。
誰かと誰かが溶けてしまうまで。
眠る眠る。
眠る。
窓、外、街灯、夜、アンテナ、街路樹、シグナル、電線、ビル、私、都市。
表面張力、弾力、日々、日常、悲喜、交々、水、嬉しさ、どうにもならなさ。
夢。
喰べてくれるのは天使か貘か。
眠る眠る眠る。
眠る。
みんな眠っても誰かが起きる。
忘れないようにと見る。
思い出したとき伝えられるよう

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静かな病

静かな病

 女は泣いていた。夜の静けさがそれを聞いた。迷い込んだ夜光虫は無神経だった。部屋は冷めたまま青白い月灯りに照らされた。

 男は黙っていた。長い夜が早く終わればいいと思った。静けさは不健康な他人だった。彼は何も聞かなかった。

 彼女らは病んではいなかった。静かな病は夜を浸していた。遠くでは街が華やいだ。彼女らには知る由もない。

 私たちはそれを見ていた。

(2021.3.2)

わたしたちの街の天使

わたしたちの街の天使

 わたし、天使を見た。クリスマスの夜に。とっても光っていて、夜の闇を柔らかく溶かしていた。綺麗だな、って思った。そう思った。

 天使は何をしにきたんだろう、私たちの街に? きっと、夢や優しさや素朴な豊かさを届けにやってきたんだろう。そして光を。

 わたしはわたしのことを知ることはできないけれど、天使のことなら少しずつ知れそうな気がした。それは記憶。不思議な記憶。わたしが生まれる前から、お母さん

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精霊

精霊

 その世界では、精霊には害も益も判断がなかった。その世界では、そこにあって精霊であるということだけが精霊のささやかな在り方であった。

 人々は精霊に期待した。それが実ったか、あるいは朽ちたか。人々は人々としてそれぞれがどのようにも捉えた。精霊はあくまで精霊であった。

 緩やかな風が吹いた。人々は見た。聞いた。何を? 精霊を。

 豪雨の中、見た、聞いた。

 都市は精霊の声を聞いたか。

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海と海底都市

海と海底都市

 透明な海の底は、きっと、柔らかな気持ちで溢れているんだろう、と、ふと、海は思った。ワンルームの部屋の窓際、少しずつ夜に沈む、ぼんやりと開けた瞳、その奥、街灯、が、揺らぐ、溶ける、微睡み、とろっとした肌触りの静けさ、泣きそうな、深い。

 こんな夜の入り口では、心の形がなんだかわかる、それは、小さな海みたいで、丸く、ぬわぬわと揺れ動く、胸のあたりに浮かぶ、流れる水の音、柔く、そうして丸く——それは

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月

 あなたに会いたい。この身が焦がれ、焼き尽くされる程に。あなたに会いたい。わたしは炎。そしてささやかな海。あなたにとっての。雨であり、涙。あなたへの。

 さようなら。さようなら。わたしが死ぬ時、わたしはあなたに反射する鱗でありたい。そして、月。わたしはそれをこの命よりも深く願っている。透明な夢。そのひと欠片。わたしの愛。そのすべて。あなたの囁き。声。そのすべてをわたしは覚えている。わたしの身体が

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クラゲ

クラゲ

 輪廻ってあるのかなあと君が言う。どうだろう、わからないなと僕。もしもあったら、私の前世はクラゲだと思うと君。クラゲ? クラゲって、脳がないでしょう? だから今世は、前世の分もいろいろたくさんのことを考えろって神さまに言われている気がするんだよね。私、たくさんのことを考え過ぎている気がするの。どう思う? 僕は君の心の痛みを痛い程に感じていたから、広大な海に優雅に浮かぶクラゲになった君を想像した。そ

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太陽と雄牛

太陽と雄牛

 太陽と雄牛は競合している。互いに何かを試し合っている。そのことに僕が気づいたのはつい最近のことで、それまではそんなこととは無縁の生活を送っていた。

 気づいてしまってからは気づいてしまったという日常が反復される。太陽と雄牛の競合。僕は気づいてしまった。

 特段、雄牛を意識的に見やったことはない。ヘミングウェイの小説にその記述を見たことはあれど、それ以上に何かしらの思いを抱いたことはなかった。

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金星人

金星人

 僕は見た。金星人を。

 冬の静けさが深く鳴り響く深夜、彼は寝ぼけ眼の僕の枕元に突然現れて、僕を揺り起こしてこう言った。

「ねぇ、僕は金星人だよ」

 僕はぼんやりとした頭でそれについて考えてから、ゆっくりと答えた。

「金星人?」
「そう、金星人」

 金星人。僕の頭は突然の出来事に処理が追いついていなかった。金星人?

「君にメッセージがあるんだ」金星人は僕の曖昧な状態なんて気にも留めずに

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UFO

UFO

 わたし、宇宙船見たんだよ、と彼女が言ってから僕らの関係はよくわからないものになってしまった。

「宇宙船って、あの宇宙船? UFO?」

 僕が尋ねると彼女は答える。

「そう、UFO」
「どこで見たの?」
「この部屋で、よ。窓の外を眺めてたら」
「UFO?」
「うん」
「ふうん」

 僕は彼女がどうかしてしまったんじゃないかという方面からこの物事を捉えてみようと試みていたが、どこから眺

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