その世界では、精霊には害も益も判断がなかった。その世界では、そこにあって精霊であるということだけが精霊のささやかな在り方であった。
人々は精霊に期待した。それが実ったか、あるいは朽ちたか。人々は人々としてそれぞれがどのようにも捉えた。精霊はあくまで精霊であった。
緩やかな風が吹いた。人々は見た。聞いた。何を? 精霊を。
豪雨の中、見た、聞いた。
都市は精霊の声を聞いたか。聞いただろう。姿は? 見ただろう。風が吹けば、吹かずとも、精霊はいつでも精霊であっただろう。
(人々は精霊を開墾し開拓している)
精霊は始まりを知るだろうか。知るだろう。精霊はいつでも精霊であっただろう。原始の宇宙は孤独であろうか。都市は生命をもてなすだろうか。文明は、人は、笑み、涙し。
精霊は頷くだろうか。何も言わない、顔。
(2022.5.1)
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