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【詩人の読書記録日記】栞の代わりに 9月12日~9月18日
はじめに
こんにちは。長尾早苗です。みなさんお元気でしょうか。色々なことが日々あり、たいへんですが一息つきながら進んで行きましょうね。
9月12日
作品群の推敲。もうそろそろ順番など練る時期かなあ。小池昌代『影を歩く』、伊吹有喜『風待ちのひと』予約。七月堂さん、豪徳寺に移転しても応援しています!! わたしも出版、とてもお世話になったので……。
・田辺聖子『光源氏ものがたり上・中・下』角川文庫
語りによる源氏。それは朗読ではなく解説の「おしゃべり」として受け継がれていきます。田辺さんのこの講義は3年間月一回で続きましたが、なんとも貴重な講義がまとまった3冊です。以前NHKらじるらじるのある番組で田辺さんの肉声を聞きましたが、「現代の若い女の子たちにぜひ『源氏ってなんか面白いじゃん』と思っていただければさいわいです」と語っていたことを思い出しました。もちろん知識があれば原文も素晴らしく美しいので「耳で聞く」ということも素晴らしく良いです。源氏とピアノは親和性が高いと思う。それだけ音楽的な要素があるんですね。わたし自身は更級日記の女の子のような立場だったので苦笑 楽しんで読ませていただきました。文学少女は永遠です。
9月13日
今日は新作は作らず、作品群の順番をひたすら考えていました。小池昌代『影を歩く』回送中。
・白洲正子『白洲正子自伝』新潮文庫
どうしてわたしが白洲正子に憧れるのか、分かった気がします。彼女は不機嫌な少女時代を過ごし、最初に覚えたことばは「バカヤロウ」だったというエピソードに笑いました。しかし、アメリカに留学してから帰国して白洲次郎と大恋愛の末、変わっていったんですね。なんとなく、わたしの不機嫌な少女時代と似ている気がして、彼女についていったらあれだけ長くものを書き続けていけるような気がします。「過去は振り返らない」という芯が彼女を貫いているように思います。すがすがしい。
・白洲正子 青柳恵介編『かそけきもの』角川ソフィア文庫
詩人ということと、日本芸術について考えていました。先週あたりから、らじるらじるで能を週末聞いているのだけど、それからなぜかわたしはピンタレストで観音像だったり、仏像を探して、この柔和な笑みに惹かれたんですね。「笑い」は能でも狂言でも「型」があります。その「型」通りにすればするほど「良い」とされる。詩は「ほとけのこころ」のようになって書かないといけないのかもしれません。ある種現代詩の初期衝動は「型破りの」怒りや怨念がもとになって書かれているものが多いですが、そういうものを乗り越えていく過程で出会うのは「ほとけ」なのかなと思いました。
・白石一文『この世の全部を敵に回して』小学館文庫
人は何のために生き、そして何が待っているのかわからない生き物です。この小説は入れ子になっていて、ある男性が亡くなる直前に書き終えた原稿を編集者に託す、というもののタイトルが「この世の全部を敵に回して」でした。愛することも愛されることも皮肉に満ちた目を持ち、そしてすべてに救いようにもない憎しみを抱く。そんな彼は「生きる」ことに常に疑問を持っています。しかし、「それでも生きた」ことに編集者は驚き、そして感動します。世の中には嫌なことがたくさん起こりますが、どうか荒波を立てずに日常を送り、しみじみと幸せに生きていたい、そんなことを思いました。
9月14日
新作を1編。昨日はオーバーワーク気味だったのでのんびりいきます。
・幸田文『父・こんなこと』新潮文庫
幸田露伴という大作家の娘である文さん。父を喪う、ということをただ淡々と受け入れ、しかし彼女は書くしかなかったのかもしれません。彼女がエッセイストとして輝き始めた瞬間は、幸田露伴、いえ、お父さんが亡くなってからでした。家族の思い出は、家族と暮らしているとわからないことが多々あります。わたしも今現時点では新しい家族と生活して執筆の日々を送っているけれど、何者でもなかった「わたし」を形作ってくれたのは実家のみんなだったなあとしみじみ。そして、執筆の日々を支えてくれる今の家族に感謝。文さんは、きっと「お父さん」に対する思いが強いのではないでしょうか。そんな思いもあって、離婚してから父のもとに戻ってきたのかなあと思います。
・角田光代『空中庭園』文春文庫
角田光代さんを読んでいて、同年代だからこそ苦しくなる、と以前職場でご一緒させていただいた方とランチで話していました。角田光代さんの小説には光と影がものすごく二極に分かれると思っていて、これは「影」の方ですね。この小説の京橋家という「家族」が表面上は「包み隠さず、タブーなく」がモットーなのですが、そんな家族は客観視すると崩壊しています。父親が浮気をもう十年以上続けていたり、娘にも息子にも隠し事があって、しかし「明るい家族」は守られている。雨降って地固まるとはいいますが、平々凡々と生きること以上の幸せってないんだなと思いました。
・川村二郎『いまなぜ白洲正子なのか』新潮文庫
気の強さ、というものを考えます。白洲正子さんの文章は美しく、そして言葉の選び方が秀逸です。そんな彼女に生前親しくしていた川村さんは、その文章で見えない彼女の大人の女性の色香、そして子どものような無邪気さと負けん気を描き出しました。わたしの恩師にも一人そんな方がいらっしゃいます。多分わたしも彼女のような五十代、六十代を迎えるのかな、と思いつつも、今のわたしは「凪」のような状態で、ただただ体の変化に自分が追い付いていないだけのような気もする。要するにわたしは小さな時から「不機嫌だけど気が弱い」人なんだと思います。白洲正子も先生も、気が強くなければ生きていけなかった、表現できなかったものがあったのかもしれません。静かな炎を燃やしていきたいと思います。
9月15日
先日語っていて、見たかった「ドライブ・マイ・カー」を見に行きました。いい映画でした……主演の西島秀俊さんの横顔が特に最近の村上春樹作品にぴったりで、みさき役の俳優さんもちゃんと「みさき」でした。家福の妻に「音」という名前がついているのもよかったです。「正しく傷つく」ということを考えていました。3時間、どっぷり浸れましたよ。
・俵万智『愛する源氏物語』文春文庫
一つ、わたしが書いていくにあたって、夢があります。それは、源氏物語を和歌の部分まで現代語訳すること。この仕事は大作業なので、できるのはおばあちゃんになってからかなと思います。でも、いつかしてみたい仕事。わたしは、「女として生きる」という問題提起を割と詩を書き始めたあたりからしていました。自分が「女性の心身の不思議」とものすごく戦っていて、今も試行錯誤の毎日です。しかし何分知識がなかったので、古典に振り返るという心の余裕すらなかった。だから、俵さんの現代語訳で読む「源氏の和歌」は鮮やかでハッとします。今はわたしには家族がいて、その人に穏やかに愛されているという自覚があります。だからこそ、激しい夏の夜の雨のような恋は過ぎたなあと28にして思います。朧月夜の君も、きっとそんな女性だったのではないでしょうか。俵さんはきちんと和歌を「現代短歌」にしています。それも、万智ちゃんワールドにきちんと持っていけているのがすごいところです。誰でも源氏に立ち返ってほしいとわたしは願っています。
9月16日
朝方疲れていたけれど掃除をして気分転換。図書館とマスターのお店に寄りました。秋晴れの空っていいですね。スイーツの為に仕事をがんばり、解放された気持ちでウォーキング。うん、良い空!
・小池昌代『影を歩く』方丈社
影って、晴れた日に自分についてくるすごく暗い闇ですよね。自分の影は絶対に見られない。しかし人の影はよく見える。そんなちょっとさみしい役柄も果たしていると思います。人の影って、もしかしたらその「にんげん」の闇なのかもしれません。日記に書いておいて、誰にも秘密にしておくような、絶対に話せない自分だけの秘密。そういうものって、誰でもあると思うんです。そういうものを持っていていいし、そういうものがあるからこそ人は輝けるのかもしれません。そんな「闇」を見つめた、短編小説と詩の交差していく一冊です。
9月17日
今日のウォーキングでは秋を探しに森へ。帰りがけに八百屋さんで栗が売っていないか物色。焼き栗が出ていたので速攻で買いました。旬のものは美味しいのです。秋刀魚の特売も狙わなくちゃ。らじるらじるで古典を勉強しながら掃除。一万字程度のエッセイ1本。深緑野分『ベルリンは晴れているか』予約。
9月18日
大雨。みなさん気をつけてくださいね。栗ご飯を作りました。深緑野分『ベルリンは晴れているか』回送中。
来週の読書記録日記は「青空文庫特集」をやってみたいと思います。友人や知人のツイッターなどを見ていると、このご時世もあり、図書館に行かないで手軽に電子書籍で読めるものを読んでいるとわかりました。わたしもアプリ、ダウンロードしたので来週はスマホ読みです。誰でも無料でアクセスできて、スマホでもスキマ時間に読めて面白い。そんな青空文庫の、元司書の活用術、ぜひみなさん楽しみにしてくださいね。
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