京都、泉涌寺の雲龍院へ行くなら、写経せよ。
「京の冬の旅」めぐり、一か所目。
泉涌寺の雲龍院を訪れた。
バス停「泉涌寺道」で降りて坂道をのぼること5分。総門が眼前にそびえ立つ。
ホームページのアクセスには徒歩15分とあったのに、意外と近い。
と、思いきや。
まだまだあります上り坂。
さらに10分くらい。結構な急斜面をのぼると、ようやく入り口に到着。
しかし。
今回行くのは本坊ではなく、そのさらに奥にある雲龍院。
さらに50mほど奥へ進む。
せっせと歩くからいい感じに身体もあたたまって、冬の冷たい風が心地よい。このあたりは京都一周トレイルの東山コースもあるから、登山の恰好をした方もちらほら。
さて、特別公開は素晴らしかった。風神雷神と龍が描かれた襖絵はもちろん、見所も多く、ガイドさんの説明もわかりやすい。
しかしそれで終わってしまう人が大半。
ああ、なんてもったいない。
ここで写経体験をせずに帰るなんて。
写経というと、時間かかる・大変・正座できない・筆で書くとか無理…というイメージだろうか。
しかし、写経を終えた後のあの爽快感は何物にも代えがたい。
1時間集中するのは、正直かなり大変だ。
写経をしていると、どこかでふっと集中力が途切れる瞬間がある。あるいは、いつの間にか別のことを考えていて、作業として文字をなぞってしまっている。
すると、字が乱れる。それはもうわかりやすく、乱れる。
この、気づく瞬間が、楽しいのだ。
あ、今集中力きれたな。あ、今考え事しちゃったな。いけない、いけない。
そうしてまたスタートする。この繰り返し。終盤はしんどいけれど、終わった後の疲労感と達成感は運動後のそれと変わらない。
写経体験はいろいろなお寺でやっているが、ここ雲龍院は本格的な体験ができるところも魅力のひとつ。
多くのお寺では、写経用紙と筆ペンを渡され、簡単な説明を受けた後はせっせと書いていく。
しかし雲龍院では、いきなり写経用紙に向かうのではなく、はじめにお清めをする。筆も、筆ペンではなく小筆を使う。朱色の墨を使うのも面白い。
口に丁子(クローブともいう)を含んで口を清め、塗香(お香)を手に摺りこみ身体を清め、酒水(清めた水)をふりかけてもらい心を清める。
「清める」体験ができることはもちろんだが、やはり集中するにはスイッチが必要。書き始める前にワンクッションあることで、心が静まり、気持ちの切り替えができる。
お清めが終わったら、席に座って写経をはじめる。
そうそう、椅子席もあるのでご安心を。でも、できれば正座にトライしてみてほしい。
なにせ、後水尾天皇(江戸初期の天皇。修学院離宮を造営したことでも有名。ちなみに修学院離宮はかなりおすすめなのでぜひ行ってみてほしい)が下賜した写経机が、今も使えるのだ。360年物。これまで一体何人の人々がこの写経机に向かい、写経してきたのだろうか。
写経を終えると、先ほど見た庭と同じはずなのに、そこには違う景色が広がっていた。
石や刈込まれた樹木の輪郭が急にくっきりして、迫ってくるような感じ。草の香りを含んだ風のにおいや、木々の色、砂の白さ、床板の感触。五感が研ぎ澄まされて、四方八方から体に入り込んでくる。
いかに、自分の目が曇っていたかを実感する。
いかに、何も見ていなかったか。
頭の中にあふれた余分な情報をそぎ落とさないと、得られない感覚だった。
ちなみに、写経のあとはお茶菓子をいただける。
オリジナルのわらび餅がこれまた絶品で。ほどよい甘さが口の中にとろけていく。そう、仕事終わりのビールが五臓六腑に染み渡る、あの感じ。
集中して疲れた後の甘味は、プライスレス。
みなさんもお試しあれ。
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