手作りカルタ【#シロクマ文芸部 】
咳をしても金魚。
ばしっ!
テーブルを叩く音が病室中に響き渡る。
その瞬間、律の残念そうな顔が私の目に映る。
「はい、取った!それにしても『咳を…』って変だよね?」
「うん。でも好き。咳だから、仲間だもん」
カードを見ながら律は少し寂しそうに言う。
「このカード、ママの手作りなの?」
「うん。ママがこれ律に渡してって」
ママ手作りのこの不思議なカードは
文字カードと絵カードの二種類に分かれており
文字の方には全て「咳をしても○○」と書いてある。
他には「咳をしてもゾウ」や「咳をしてもコアラ」もあった。
カードはそれぞれが対になっているから
カルタみたいにして遊んでね、とママは言っていた。
「でもこれ全部『咳』なんだよね。なんでだろ?」
「わかんない。あ!金魚たち元気にしてる?会いたいなぁ…」
律がまた寂しそうに言った。
*
弟の律は昔からこうしてたまに入院することがあった。
私も難しいことはよくわからないけど
咳がひどいと入院しなきゃいけないことがあるんだって
昔ママに教えてもらった。
でも最近こんなことがあった。
いつもは大人しい律が泣いて大暴れしたのだ。
「咳ばっかりもう嫌だ!僕こんな自分大嫌い!」
その時の律はたしかこう叫んでいた。
律は本当はずっと我慢していたんだと思う。
自分が入院するせいでママを悲しませている
だから自分のことが嫌いなんだと
前にそう言っていたことがあったから。
*
「じゃあ、次」
「うん。これで最後だね」
とうとう最後の一枚になった。
最後の文字カードをめくるとそこにはこう書かれてあった。
咳をしても律くん。
「え…?」
律も私も驚く。
カードの文字はまさかの「律くん」
それによく見ると最後に残った絵カードには
笑顔の男の子の絵が描かれている。
ママは律のことが大好きだ。律のことを大切に思っている。
だから苦しそうな律を見るママはいつもすごく辛そうだった。
そしてそんなママを安心させようと、律の方もいつも
無理して平気なふりをする。
律はお母さん思いの本当に優しい子なのだ。
だからこそわかる。
ママは律に、自分の事を嫌いになってほしくなかった。
自分を大切にしてほしかった。
ママはそのままの律が大好きだよって
恐らく律にそう伝えたかったんじゃないか。
咳をしても律くん。
どんな律でも、律は「律」なのだ。
私たちの大好きな「律くん」なのだ。
同点で迎えた最後の勝負は
もちろん律が勝った。
だって最後のカードを取れる人は
律しかいないのだから。
【おしまい】
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こちらの企画に参加しています🐨
タイトル画像は以前描いた金魚のイラストです。
ではまた。
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