【フランス文学】マルセル・パニョル『ファニー』
マルセル・パニョル『ファニー』。3年前の夏に読んだ本です。
古本で読んだパニョル
マルセル・パニョルは小説だけでなく多くの劇作品、映画作品を残しており、私が最も好きなフランス人作家の一人です。プロヴァンス地方、オーバーニュ(Aubagne)という町の出身。
この本は古本屋(bouquiniste、ブキニスト)で偶然見つけ、そこで買った1932年版のものです。初演は1931年12月5日、パリにてとのこと。
Fasquelle éditeurs、ファスケル出版社というのは今はなき版元で、調べてみたら1960年ごろ大手出版社グラッセ(Grasset)に買収されたとのことでした。
マルセイユ3部作と文庫本パニョル
『ファニー』は、マルセイユ3部作(Trilogie marseillaise)の2番目の作品。前編の『マリウス』、後編の『セザール』は、古本でなくペーパーバック(フランス語だとlivre de poche、ポケット本)で読みました。
ポケット版はファロワ社(Éditions de Fallois)から出ていて、表紙のイラストはサンペ(Sempé)さんが手掛けています。
その他のパニョル作品の表紙もサンペさんで、どれも本当に素敵。
中編『ファニー』あらすじ
さてマルセイユ3部作の中編『ファニー』、非常によかったです。私の感想と言うよりは、あらすじを。
舞台はマルセイユの旧港。バーの店主セザールの息子、22歳のマリウスと、魚屋の娘18歳のファニーは両想いですが、マリウスには船乗りになって世界を航海したいという夢があった。
若く美しいファニーは、妻に先立たれたお金持ち、50歳のパニスから求婚を受けます。父親のいないファニーは、母とその家族を助けるために結婚を考えますが、やはり愛しているのはマリウス。ファニーとマリウスはフィアンセの関係になります。
しかしマリウスは海への憧憬を抑えられない。その彼に、「行ってこい。大海原で生きてこい。」と最終的に背中を押したのはファニー。二人の別れの場面で、前作『マリウス』は幕を閉じます。
中編『ファニー』では、何も言わずに航海に出た息子に怒りを覚えつつ、彼からの便りを日々待つ父セザールと、マリウスの不在に憔悴するファニーが主人公。
食べ物も喉を通らず、悲しみで死んでしまうのではと周囲が心配したファニー。実は、マリウスの子を身ごもっていたのでした。
妊娠を告げられたファニーの母、伯母はパニック状態。自由恋愛の国フランスと言えど、100年前は「婚前交渉」「未婚の母」などご法度もご法度、「あばずれ、もう私の娘じゃない、出て行け」と罵詈雑言を浴びせます。
同じ時にパニスから再び結婚の話があり、正直で真面目なファニーはこっそりパニスを訪れ、全て話した上でそれでも彼が意思を変えず、むしろ子どもを持つことを喜んだので、「父親が必要」「家族の不名誉を防ぐため」と、結婚を決意します。
本の最後で、マリウスが2年近い航海を終えマルセイユに帰ってくる。ファニーの子の生年月日を知り、それがパニスではなく自分の子だと悟る。そして、二人で育てようとファニーに詰め寄ります。
207ページのファニーの長い台詞。
愛し合っているのに、一緒になれなかった運命とタイミング。心優しいパニスと、彼への恩を一生忘れない強い母ファニー。
舞台を観ていたら、この場面で涙していたと思います。
全体的にはコメディの要素が強いけれど、最後に切なさとノスタルジーに胸がいっぱいになる名作。
プロヴァンス作家パニョル、大好きです。