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器 いとおかし

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長く漆器作りをしていますが、器は中の物を大切に守るものです。そして、食文化の豊かな海から、器は誕生してきたのだろうと思います。
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木の器

長年しっかり使い込まれた漆器に、 細かなヒビを見つけたことはありませんか? 漆器のヒビの主な原因落としたとか物理的な原因もなく、長年使っていて徐々にヒビが入った場合、器の中ではどんなことが起こっていたのでしょうか? 例をお椀にすると分かりやすいでしょう。漆器の場合、熱々の味噌汁を注いでも手を触れないほど熱くならないのが利点とされます。 けれど、当然ながら器はわずかに膨張します。そして、表面の漆と中の木では膨張率は違い木の繊維が動きます。お椀が長年使用されるということは、

和食の日 11月24日

過ぎてしまいましたが、11月24日は和食の日でした。 2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されてから、来年で10年目にあたります。一時は和食ブームもありましたが、条約の目的は「危機に瀕している文化の保護」であり、和食離れや米離れの状況は果たして好転してきたのでしょうか? 和食の日について、少しご紹介したいと思います。 あわせて、和食がぐんと身近になる参考書として歳時記をご紹介します。和食文化の基礎知識が増えると、好奇心が刺激されます。 2011年からユネスコの

思い出 … 四つ椀

若い時、今よりスリムでかっこいいお兄さん(?)だった頃の話です。親切な方のお力を借り木曽から伊豆に出てきたばかり、仕事もさほど軌道に乗っておらず、文句なしに貧乏だったころです。 沼津の一軒の骨董店、私の眼はあるお椀にくぎ付けになってしまいました。 出会いそれは四つ椀でした。漆の肌合いの経年劣化により、相当古いと思われました。四揃いでありしっかりした仕事なので、お寺の什器だったのかもしれません。また、ロクロ挽きや漆の刷毛目にも、人の手による温かみが感じられました。博物館や展

あれこれ … 小皿に春を乗せよう

立春とはいえ大雪が降ったり、あっさり春はやってきてくれません。 それでも、少しづつ季節の味覚が登場してきているので、 小さなお皿に盛って気持ちだけでも明るい春に… あれこれ小皿漆器の小皿にあう、春の味を探してみました。 ウドの酢味噌あえ ウドを食べると、しゃきっとした歯ごたえに独特の爽やかな香り、あぁ春だなぁと思います。山ウドはアクが強いのですが、栽培されている白ウドならサラダでも美味しいですね。旬は春から初夏のようです。(栽培物は期間が長いそうです。) 芽キャベツの

あれこれ … 陶器、磁器

前の記事(「茶托、小皿で遊ぶ 秋」)を書いている時、ちょっと気になることがありました。これは陶器に合うとか、磁器向きとか説明を書きましたが、この区別があやふやな人もいるのかもしれない。 というのも、かつて私自身があいまいだったからです。陶磁器とは総称であり、陶器と磁器は共通点はありながらも異なる物です。料理人や器好きの方はご存知でしょうが、老爺心ながら少しご説明したいと思います。 陶磁器は焼き物とも呼ばれるように、産業的に分類すれば窯業となります。それは粘土など鉱物原料を

茶托、小皿で遊ぶ  秋

茶托を使うご家庭は減ってきたと思います。 けれど、小さなわりによく働くので、食器業界の蟻のような器です。 では、ためしに私の茶托(小皿)をあれやこれやと使ってみましょう。 朱線茶托 つるりとした漆器らしさはありません。ざっくりした作りなので、陶器(土もの)のお湯呑みによく合います。 我が家では、茶托より小皿として登場することが多い。昨夜の残り物でも、風情があって美味しく感じられます。 根来手塩皿 手塩皿とは、塩を乗せるほどの小さなお皿という意味です。けれど、磁器の涼

あれこれ … 工芸界のすみ分け 3/3

前々回までのあらまし 工芸界をその傾向から分け、案内図を作ってみようと思います。ただし、私の長年の見聞や知識が基なので漆芸が中心です。現場(当事者)からの見解というレベルです。 公募展や団体の傾向と連動し工芸界は四つほどに分かれていると、私には見えてきます。そして、以前に書いたのは、A、伝統工芸展 系(伝統技術重視)B、日展 系(美術重視)C、民藝 系(手仕事尊重)D、クラフト 系(北欧調尊重)についてです。 今回は最終回、α、番外(その他団体、無所属)です。その他では、団

あれこれ … 工芸界のすみ分け 1/3

長く物づくりに携わっていると、一口に工芸と言っても色々で、大まかに言うと四つに分かれているような気がしてきます。なぜなら人間国宝が顕著な例ですが、クラフトの工芸家や日展でオブジェを作る作家が選ばれることはまずありません。 ご理解を深めてもらうために、工芸家の傾向を俯瞰し目安になるような案内図作りを試みようと思います。ただし、私の長年の見聞や知識を基にしているので漆芸が中心です。学者や評論家ではなく現場(当事者)からの見解というレベルですが、ご参考になることがあれば幸いです。

あれこれ … 工芸界のすみ分け 2/3

工芸界をその傾向から分けて、案内図を作ってみようと思います。ただし、私の長年の見聞や知識を基にしているので漆芸が中心です。学者や評論家ではなく現場(当事者)からの見解というレベルです。 分け方はあくまで私見です。 A、伝統工芸展 系(伝統技術重視) B、日展 系(美術重視) C、民藝 系(手仕事尊重) D、クラフト 系(北欧調尊重) α、番外(その他団体、無所属など) 予  定 前回はAとBについて書きました。 今回はCとDです。その概要と私なりの解説です。    (す

初物の西瓜

八百屋さんの店先で見つけた西瓜。小ぶりですが、有難いことに買える値段。どんな味なんだろう?アフリカから来たおじさんも興味津々…。     漆器を二枚も重ねて奉っています。 #404美術館

大藏のご先祖は…(上)

             (上は祖父の挽いた薄造りの椀木地) このタイトルは不正確です。より正しくは、「小椋(おぐら)、大藏のご先祖は木地師」です。(とはいえ、この名字の方で現在まで木地師をしているのは、ごく少数かと思います。) 小椋か大藏か? 江戸末期頃まで 、木地師といえばおおよそ姓は小椋か大藏でした。それは、惟喬(これたか)親王がロクロを使った木地作りを、そこの村人や家臣(=小椋、大藏)たちに伝えたという伝承があるからです。この伝承に関しては、次回詳しくお話ししま

大藏のご先祖は…(下)

惟喬親王の伝承も高祖父の資料も、出所は滋賀県東近江市(旧永源寺町)です。ここは木地師と深い繋がりがあります。 惟喬(これたか)親王伝説 旧 永源寺町は琵琶湖の南東に位置し、山深いところです。伝説によると、天皇の長子でありながら皇位を継げなかった惟喬親王は、この地に隠棲されたそうです。そして、里人や家臣(小椋、大蔵)たちに木地作りを教えたとされています。それで、ここが木地師発祥の地の地とされるのです。 そして、惟喬親王伝説にちなんだ神社やお寺など、町内にいくつか残っていま

お盆で遊ぶ 春

山の講団子…木地師(屋)には山の講というお祭りが、3月と11月にあります。その時は上のような団子を入れたお汁粉を食べ、仕事もお休みです。 お盆は食器を乗せるのに重宝します。そして、いろんな場面で使っていただけます。自分好みの場面を作ってみましょう。正解に縛られがちでうんざりしたら、のびやかにお盆で遊ぶのも手です。 庭さきの野趣 水仙は20年前に植えたまま、フキノトウは10年ほど前お隣さんにいただき鉢から地面に広がりました。雨水とお日様と土で、巡る季節のなか健やかに育って

糸魚川の木地屋

平成の終わりころ、新潟県の糸魚川を訪れました。東近江(ひがしおうみ)木地師会の会報で紹介されており、興味を持ちました。東近江(滋賀県)や会津(福島県)の資料館は見学したことがありましたが、糸魚川は子供の頃その地名を聞いたくらいでした。 今では途絶えていますが、少人数でありながら、木地作りだけでなく漆器づくりから販売まで手掛けたかなり珍しい産地です。下記2冊参考図書。  歴 史◎江戸時代末 ◎大正時代~戦前 ◎戦中、戦後 ◎未来へ 木地屋民俗資料館