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小さな約束を守る
出会ったのは今年の四月。
そか、四月だったのか。「ベストバイ」の記事で出会ったことは鮮明に覚えているので、時期的に昨年の暮れか年明けころかと思っていた。
この記事で紹介されているものたち、どれをとってもおしゃれで、見た目だけでなく実用的なものも多々。鉄瓶で沸かしたお湯で緑茶をのんでいるなんて、その丁寧な暮らしぶりには憧れを抱かざるを得ない。kaweco sportはわたしも持っているのだけど、そういえば最近眠らせていた。美甘さんのはなんともやさしい色。
その中で、わたしの身の丈に合ったというか、わたしが実際に使うさまがぱっと想像できたものが、Dussmanのエコバッグ!
当時フランスにお住まいだった美甘さんが、ベルリンに旅行をされた際にお土産で購入されたそう。エコバッグはものとして珍しくはないけれど、「本屋さんのエコバッグ」というのがわたしのこころを鷲掴んだ。赤がとてもきれいだし。
きれいだな、すてきだな、と思いつつ、ベルリンへ行く予定のないわたしはそれで終わっていたのだった。
☆
六月。
知人がヨーロッパへ行くという。ドイツにも行くという彼女はわたしに「お土産のリクエストがあったら言ってね」と言葉をくれた。
わたしはすぐさま美甘さんの「ベストバイ」記事を思い出し、「Dussmanのエコバッグ!」と伝えたのだった。知人との関係性から、わたしが何かを頼んだりお願いしたりするというのは、気が引けるというか申し訳ないというか、いやいや遠慮しろよ、と言われてもおかしくないのだが、わたしは「もし時間があれば」と付け加えつつもちゃっかりお願いした。時間があればね、店に行かれればね、と彼女はわたしに言い、旅立った。
数週間後、旅を終えて帰国した彼女は「今回はベルリンまで行くことができなくて買えなかったよ」と連絡をくれた。そうかあ。わたしは、多少の落胆はしたかもしれないが、それより先に「わたしなんかがお願いして申し訳なかった、やっぱり迷惑だったよな」という思いが大きかったと思う。地理的・時間的に無理だったのだろうし、きっと仕事も詰まっていただろうから、それは仕方のないことだ。
でも、そうやって「買えなかった」という連絡をくれるなんて、誠実だ。たとえわたしに対してでも有耶無耶にしたりしないで、きちんと「行けなかったよ、買えなかったよ」と言ってくれたことはうれしかった。
時が過ぎ、十二月の初め。彼女と会う機会があった。
「クリスマスプレゼント」
その日、彼女はサンタクロースが描かれた紙袋を渡してくれた。紙袋の中にはいくつかの小さい包みが入っている。
「わあ、ありがとうございます。開けていいですか?」
「うん。小さいものだけどね。それに、ひとつは知ってるものだよ」
ん、と思い開けると、そこには、あの赤いエコバッグが入っているではないか。
「わあああ!」
「遅くなってごめんね。ドイツに住む友人に頼んでたの。やっと送ってくれた」
彼女はわたしのお土産リクエストに対して、買って帰れなかったことを詫びるだけで終わらず、その後も覚えていてくれて、友人に頼んでくれていたのだった。「頼まれたけどまあいいか、仕方なかったものね」で済まさず、機会を見つけて手に入れてくれたのだった。
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時間が経ったから、と勝手に時効を設けたりせず、「約束」と決めたものを守ること。わたしには欠如しているかもしれないことだな、と思う。まあいいか、相手は忘れているだろう、なんてつい都合よく考えてしまって、果たせなかった約束はこれまでに数多ある。そのたび、少しの罪悪感がとげのように刺さって、時間が経ってもちくりと痛みがよみがえることがある。それはおそらく、自分が逆の立場に立たされたとき。あ、約束したのに、忘れられちゃったのかな、あれはただの社交辞令だったのかな、わたしが楽観的な勘違いをしていただけだったのだろうか、と。そのたび、自分もしてきたかもしれないことを思い出す。こころのなかで謝罪しても遅いのに。伝わらないのに。
欲しかったものが手に入ったからうれしい、というより、彼女がずっと覚えていてくれたことがうれしかった。だから、もしかすると「あのバッグ、友人に頼んでいたんだけど、どうしてもお店まで行けないみたいだから送ってもらうこともできないよ」と言われても、同じくらいうれしかったと思う。
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彼女のように、小さな約束もちゃんと守るひとになる。
それは、むやみやたらに約束して、期待を持たせないことから始まるかもしれない。できなさそうな約束はしない。きちんと「できないよ」と伝える勇気を持つ。「できたらやる」「行けたら行く」は、文字通りの意味でつかうようにする。そして、約束を守ってくれたら「ありがとう」って、言う。