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なぞりのつぼ −140字の小説集−

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読めば読むほど、どんどんツボにハマってく!? ナゾリの息抜き的140字小説を多数収録! ※全編フィクションです。 ※無断利用および転載は原則禁止です。
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#家族

140字小説【一人前】

140字小説【一人前】

「これであとは、ひと煮立ちさせて……っと」
「へぇ〜、私より料理上手くなったんじゃない?」
「いやいや、まだまだ母さんほどじゃないよ。だけどいつかは母さんを楽にさせてあげたいとは思ってるからさ」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。できれば『ひと煮立ち』より『ひとり立ち』してほしいけどねぇ」

140字小説【ナビゲーション】

140字小説【ナビゲーション】

《この先、右折です》

「わっ、喋った!?」
「ああ、カーナビね。私たちを道案内してくれてるんだよ」
「カーナビ! カーナビ!」

 後部座席にて、初めて見る物に興奮気味の我が子。
 と、その様子に微笑みながら運転する我が夫……

「あらアナタ、ハーナゲ出てない?」
「鼻毛?」
「ごめん、何でもない」

140字小説【地獄の参観】

140字小説【地獄の参観】

「ねぇ、もし私がキャバクラで働いてたらどうする?」
「どうするも何も、高校生なんだから駄目だろ。今すぐ辞めなさい」
「いやいや、もしもの話ね」
「もしも、かぁ……じゃあパパ、遊びに行っちゃおうかな?」
「ハァ? 何で?」
「女の子に囲まれて遊びまくってるパパを見ながら、思う存分働くといい」

140字小説【我が家の財宝】

140字小説【我が家の財宝】

 明日は学校に自分用の雑巾を持って行かなきゃいけないのに、ママときたら……

「何で名前を縫い付けたんだよ!?」
「失くしたら困るでしょう?」
「だからってハートまでいらないだろ!」
「可愛くていいじゃないの〜」

 恥ずかしい。けど捨ててもバレる。
 だから僕はマイ雑巾を庭に埋めることにした。

140字小説【二番出汁】

140字小説【二番出汁】

「また学年で二番か。だからお前は爪が甘いんだ!」
「ごめんなさい、お父さん……」
「まぁまぁ、いいじゃないのアナタ。良い成績であることに変わりないんだから」
「気を遣ってくれなくていいよ、お母さん。どうせ二番だし……」
「お料理でも、一番出汁より二番出汁の方が旨味があるっていうでしょ?」

140字小説【しんしんと】

140字小説【しんしんと】

 家族で焼肉を堪能した、その帰り道。

「何が一番美味しかった?」と私が聞いたら「シンシン!(肉の部位)」と、満面の笑みで答えた五歳の息子。すると……

「あっ、雪〜っ!」
「本当だ。しんしんと降ってきたね」

 私がそう言うと息子は、しばし口をポカンと開けて空を見上げていた。食いしん坊だね。

140字小説【ごまかし】

140字小説【ごまかし】

「ごまかさないで!」
「ごまかしてないだろ!」
「いいや、その目は絶対ごまかしてる! 見ればわかるもん! いくら娘が可愛いからって、私の前ではごまかせないからね!」
「……あのさぁ、パパもママも喧嘩してないで、早くごまダレ貸してくれない?」
「ダメよ、アナタさっきから使い過ぎなんだから」

140字小説【そういう時期】

140字小説【そういう時期】

「よっ、最近どう?」
「どうもこうもないよ。もうすぐウチの娘の入試が始まるんだ」
「あれ? お宅の娘さん、まだなの? ウチの娘はついこの前終わったけどね」
「ウソだろ!? だってお前の娘って、まだ……」
「ほら」
「ん? 何だこれ?」
「へへっ、これね。こないだ抜けた、ウチの娘の最後の乳歯」

140字小説【台風一家】

140字小説【台風一家】

「せっかくの休みに家でゴロゴロと……ちょっとは外で遊んできなさい!」
「嫌だ! だって僕が外に出たらみんなが迷惑するから……」
「またそんなこと言って! 《子どもは風の子》って言うでしょ!」
「風の子は風の子でも、僕たち家族みんな《台風》だろ!! 太陽君や雪ちゃん家とは違うんだよ!!」

140字小説【10代からの処世術】

140字小説【10代からの処世術】

「ねぇお父さん、お小遣い欲しいんだけど」
「ダメだ」
「何でよぉ!? あれじゃ足りないって! 友達はもっと多く貰ってるのにさぁ!」
「どうしても自分で買えないものは俺におねだりすればいい。誰かに上手く奢ってもらうスキルは、覚えておいて損はないぞ」
「それってある意味《パパ活》じゃない?」

140字小説【ママとのお約束】

140字小説【ママとのお約束】

「じゃあママ、買い物行ってくるから。その間、一人でお留守番できる?」
「できる!」
「本当かな〜? 知らない人が来ても、お家に入れちゃダメだからね? ママとのお約束」
「おやくそ!」
「『おやくそ』じゃなくて、お・や・く・そ・く!」
「おやくそ!」
「お願いだから親をクソって呼ばないで……」

140字小説【私を連れてって】

140字小説【私を連れてって】

「ねぇねぇ、遊園地行きたい! 遊園地連れてって!」
「行きません。この前連れて行ったばかりでしょ! だからまた今度」
「嫌だ、行きたい! 行〜き〜た〜い〜!!」
「行〜き〜ま〜せん!」
「うう……」
「モジモジしたって、ダメなものはダ〜メ!」
「トイレ行きたい……」
「よし行こう、すぐ行こう」

140字小説【花占い】

140字小説【花占い】

「告白する、告白しない……」
「あら、花占い! 懐かしい〜!」
「する、しない、する……よし、決めた! 私、ママのメイク道具勝手に使いました! あと、高そうなリップ失くしちゃいました!」
「娘を叱る、叱らない、叱る、叱らない……叱る♡」
「ママに謝るっ、謝らないっ、謝るっ、謝ら……あっ」

140字小説【呼び名】

140字小説【呼び名】

「ばぁば、ばぁば!」
「『ばぁば』じゃなくて『ママ』でしょ? ほら、マーマ!」

 二十年後……

「ねぇママ」
「『ママ』じゃなくて『かあさん』でしょ! アンタいくつだと思ってんのよ」

 さらに二十年後……

「結局、最期まで一度も『かあさん』って呼んでくれなかったねぇ……」
「義母さん……!!」