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天かす生姜醤油全部入りうどんがなんでこんなにも美味いのか書いてみた

 今更天かす生姜醤油全部入りうどんについて語るのは少々恥ずかしくて気が引ける。なぜなら天かす生姜醤油全部入りうどんは流行っているどころか、もう普通にみんな食べているものだからだ。そんなものについて今更書いたって天かす生姜醤油全部入りうどん美味しいですよねなんて読み流されてしまうだろう。だけど私たちは天かす生姜醤油全部入りうどんがこんなにも美味しいかどのぐらい理解しているだろうか。私はそれについていつも2トントラックで突っ込むぐらい深く突っ込んで考えている。今回はその私が天かす生姜醤油全部入りうどんの美味しさについて考えた事をそのまんま書いてみた。

 正直に言って私はずっと最初天かす生姜醤油全部入りうどんがここまで定着するはずがないと思っていた。天かす生姜醤油全部入りが爆発的に流行したのは、知っての通り、まずインフルエンサーたちがインスタなどのSNSにショート動画をアップして、それを見たユーザーたちが一斉にうどん屋に駆け込んで食べ始めてからだ。それから各メディアが天かす生姜醤油全部入りうどんを取り上げ、あっという間に全国のうどん屋に広まった。

 なぜ天かす生姜醤油全部入りうどんがこんなにも短期間に全国に広まったかについてはいろんな所でいろんなように語られているが、まず一番大きな理由としてあげられるのは圧倒的にコスパがいいという事だ。天かす生姜醤油全部入りを作るのは圧倒的に簡単で値段もかけうどん代しかかからない。かけうどんを注文して薬味コーナーに行けば天かすと生姜と醤油が山ほどかけられるのだ。だから流行りに乗ってみんなかけうどん屋で自作の天かす生姜醤油全部入りうどんを作って食べ始めたのだ。

 私はその天かす生姜醤油全部入りうどんブームを横目で見てどうせそんなものはすぐに廃れるなんて考えていた。インフルエンサーたちがインスタなんかでこれがうどんの一番美味しい食べ方よと、天かす生姜醤油全部入りうどんの動画をあげまくっていたのを観た時、私はまるでデコレーションケーキみたいだと感激した。それで私もうどんを食べる時おんなじように天かすと生姜と醤油をたっぷりかけて食べようとしたけど、いざ完成したうどんを見た瞬間インフルエンサーたちの動画と真逆のその見た目の悪さに吐き気すら覚えて、結局食べずにそのまんま返却口に戻してしまった。

 実際に作った天かす生姜醤油全部入りうどんがあまりの見た目が悪かったのを見て、私はインフルエンサーたちを憐れんだ。おそらく彼彼女たちはうどん業界からステマの依頼を受けて、どう考えてもまずいとしか思えない天かす生姜醤油全部入りうどんの動画をイヤイヤ作ったのだろうと思った。私は天かす生姜醤油全部入りうどんのブームなんてすぐに消えるに決まっていると思って、ブームに乗っている人をひたすらバカにした。

 だけど天かす生姜醤油全部入りうどんのブームは全く衰えなかった。それどころか有名店も続々とメニューにオリジナルの天かす生姜醤油うどんを入れ出したのだ。私はこの意外にも意外過ぎる展開に驚いて自分の目を疑った。あんなどう考えてもまずいとしか思えないものが流行るどころか定着するなんておかしい。もしかしたらまだステマは続いているのかと疑ったが、そのうちだんだん天かす生姜醤油全部入りうどんはステマなどではなく、本当に人気である事を理解するようになった。

 確かに自分が間違っていたことは認めよう。天かす生姜醤油全部入りうどんは私の予想に反して人気どころか、うどんの新しいメニューとして定着までしようとしているのだから。だけど私にはあんなゲテモノは食べられない。私は絶対に天かす生姜醤油全部入りうどんを食べないつもりだった。

 そんな私が天かす生姜醤油うどんを食べることになったのは、一緒にうどん屋に入った友人から勧められたからだ。

「あら、あなたぶっかけうどんなんて食べないで、私と同じように天かす生姜醤油全部入りうどん食べなさいよ。ここの天かす生姜醤油全部入りうどんホントに美味しいんだから」

 私がぶっかけうどんを注文しようとした途端に友人がこう言ったのだ。私はいきなりこう言いだした友人に腹が立ち、なんか売り言葉に買い言葉的な感じでじゃあ食べてやるわよと勢いでそのまま天かす生姜醤油全部入りうどんを注文してしまった。注文した瞬間に後悔したけどもう遅し。私はイヤイヤながらも天かす生姜醤油全部入りうどんを食べざるをえなくなった。

 友人はテーブルにつくなり私の目の前でトレーに乗せてあるうどんに天かすと生姜と醤油をドバドバふりかけ始めた。全く気持ち悪さにも程がある。私は口に手を当てながら友人を見ていたが、友人はその私の見ている前で天かす生姜醤油全部入りうどんを食べ始めた。したら友人の表情が急に輝き始めたではないか。友人は美味しいなんて目を潤ませて食べてる。その友人を見ていたらなんだかこのゲロまぶしうどんも美味しそうに見えて来た。それで私も勇気を出して食べてみたのだ。

 悔しいが美味しいと認めざるを得なかった。それどころかあまりの美味しさに涙まで流してしまった。泣きながら私は今まで天かす生姜醤油全部入りうどんと、それを美味しいと食べていた人たちに深く詫びた。それから私はずっと天かす生姜醤油全部入りうどんを食べ続けている。


 さてこっからようやく本題に入るのだ。なんと今まで書いていたのは全部前置きだったのだ。先ほど書いたように私は皆さんよりかなり遅れて天かす生姜醤油全部入りうどんの信者になったのだが、私は食べながらいつもどうしてこんなうどんに天かすと生姜と醤油をかけただけのうどんが美味しいのかについて考えている。

 私は凝り性なので考えるにあたって天かす生姜醤油全部入りうどんについていろいろ調べた。したら天かす生姜醤油全部入りは意外にも長い歴史を持つことがわかったのだ。どこかの人気店が気まぐれで作ったものではなかったのだ。

 天かす生姜醤油全部入りうどんは空海が唐からうどんを持ち込んだ時に原型が出来ていたそうだ。香川の讃岐市に空海寺というお寺があるが、そこに天かす生姜醤油全部入りうどんの伝承とそのうどんが伝わっている。伝承によると空海は弟子たちにうどんを振る舞おうとして自らうどんを作っていたのだが、うどんをどんぶりに入れて最後につゆを入れようとした時、空海は誤って棚に乗せていた後の天かすの元となる米を揚げたものと、生姜と、後の醤油である醤を全部うどんにこぼしてしまったそうだ。これが空海寺に伝わる天かす生姜醤油全部入りうどんの伝承であるが、私はこれを知って自分の無知っぷりを反省し、今まで天かす生姜醤油全部入りうどんをディスっていた事を心から詫びた。

 さて、それから天かす生姜醤油全部入りうどんは寺などで精進料理として食べられていたが、戦国時代後期あたりから富裕層を中心に急速に広まっていった。何故急速に広まったのか。第一に考えられるのが、天下人織田信長の登場である。信長は自分こそが天下人である事を示すために毎日天かす生姜醤油全部入りうどんを食べていたそうだ。天かすにかぶりつく信長の姿はまさに天下を喰らう魔王であったと記録には記されている。第二に考えられるのが、天かすの登場である。この南蛮から渡来した天ぷらが元になっている薬味はうどんのあり方をまるで変えてしまった。信長をはじめとする権力者はこぞって米の揚げ物の代わりに天かすをかけ始めた。天かすを制するものは天下を制すとは当時京や大阪で言われていた評語である。この時点で私たちのよく知る天かす生姜醤油全部入りうどんは完成したといっていい。

 それから天かす生姜醤油全部入りうどんは戦前まで広く食べられていたが、戦後になって急速に廃れてしまう。これはやっぱりアメリカ文化の影響だろう。戦後の日本はすっかりアメリカ文化に侵食されていつしか天かす生姜醤油全部入りうどんに見向きもしなくなったのだ。うどんに天かすより、ポテトチップス。うどんに天かすより、ハンバーガー。といった感じで戦後の日本人は天かす生姜醤油全部入りうどんを見向きもしなくなり、ついに軽蔑すら抱くようになってしまったのだ。まるで天かす生姜醤油全部入りうどんの美味しさに目覚める前の私のように。

 私は今天かす生姜醤油全部入りうどんを食べながら、あらためてどうしてうどんに天かすと生姜と醤油をかけただけのうどんがこんなに美味しいのか考えた。私はそれを考えるにあたってまず天かす生姜醤油全部入りうどんの形状を考えた。すると山水画が思い浮かんできた。山水画とは古代中国の詩人陶淵明のいわゆる桃源郷を発想の元とするが、天かす生姜醤油全部入りうどんはそれを模しているのではないかという事に気づいたのだ。天かすは泰山であり雲でもある。食べれば天にも昇るような気持ちになれる食べ物である。生姜は桃源郷を流れる川に濡れた黄玉である。そして醤油は五回転して天から降りてくる龍である。私は最初天かす生姜醤油全部入りうどんを見た時それに気づけなかった。それどころかうどんのつゆに溶けた天かすにグロテスクなものを感じて不快感を覚える始末だった。もう自分の美的センスのなさにはホトホト嫌気がさしてくる。いまさら天かす生姜醤油うどんに対して謝ってもしょうがない。これもやっぱり私が無意識にアメリカ文化にかぶれて東洋の文化を忘れてしまったせいなんだろう。東洋美術は遠景を描くことに非常に長けている。これは西洋美術とは真逆だ。西洋美術はその緻密さで近景を描くが、その緻密さは遠景を描くにあたっては逆に障害とある。私は無意識にアメリカを代表とする西洋文化の影響を受けすぎて天かす生姜醤油うどんの形状の美しさを把握できなかったのだ。あと、これは全くの思い付きなのだが、毎日行列が絶えないと話題の『ラーメン二郎』という人気ラーメン店があるが、そのトッピングメニューの中に野菜マシマシというのがある。トッピングを注文するとラーメンに山盛りの野菜が乗せられてくるのだが、これは天かす生姜醤油全部入りうどんと山水画の発想ではないかと思う。ラーメンもうどんも中国が元であるからこの仮説は間違っていないと思うが、今のところは思いつきに過ぎないのでこれで終わりにする。

 こうして天かす生姜醤油全部入りうどんの形状について語ったらやはりその味について語らねばならない。天かす生姜醤油うどんの美味しさはふかひれスープを遥かに超えるものであるが、どうしてこんなに格安なのにふかひれスープ以上の美味しさを味わうことが出来るのか。これは間違いなく記憶であろう。我々東洋人が先祖代々受け継いできた味の記憶がこの天かす生姜醤油全部入りうどんにすべて流れ込んできているのだ。私は初めて天かす生姜醤油うどんを食べた時に感じたのはこの記憶だ。ふかひれスープは確かに美味しいが万民の食べるものではない。かつては王侯貴族が食べ、今は富裕層が主に食べる料理だ。その味の記憶は残念ながら一部の人にしか受け継がれないものなのだ。だけど天かす生姜醤油全部入りうどんは違う。それは寺から始まり天下人のものとなり、そして私たち庶民によって最終的に完成された庶民による庶民のための庶民のうどんなのだこのうどんの一本一本が、この天かすの一つ一つが、この生姜の一粒一粒が、この醤油の一滴一滴が、庶民によって引き継がれてきたのだ。そしてこれからも天かす生姜醤油うどんは大河のように流れ、そして未来へと引き継がれていくのだ。私は食べた瞬間それに気づいて思いっきり泣いた。

 今天かす生姜醤油うどんは全国中にあり、地方ごとにそれぞれ特色のある天かす生姜醤油うどんが作られている。漁業が盛んな地域では魚をダシにした天かすの天かす生姜醤油全部入りうどんが作られ、また野菜の栽培が盛んな地域では野菜をダシにした天かす生姜醤油全部入りうどんが作られている。近くのデパートではうどんと共に各地の天かすが売られ、それを買った人たちは自分の思い思いの天かす生姜醤油うどんを作る。今や天かす生姜醤油全部入りうどんは日本の国民食であり、未来永劫そうなるのであろう。私は今日も天かす生姜醤油全部入りうどんを食べながらこの国に生まれた幸福を思う。ああ!毎日天かす生姜醤油全部入りうどんが食べられてよかったと。



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