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首都ローマに滞在した最後の皇帝マクセンティウスのはかない夢の跡

歴史は勝者によって語られます。

写真の競技場をつくらせた古代ローマ皇帝マクセンティウスが負けた相手は、後にキリスト教を公認したことにより「大帝」と呼ばれるコスタンティヌス1世。コロッセオの南西に建つ有名な「コスタンティヌスの凱旋門」は、マクセンティウスとの戦闘への勝利を祝いローマ元老院が贈ったもの。故に、大帝に敗れたマクセンティウスは、自ら皇帝であると名乗った簒奪者だと多くの人に思われています。

エドワード・ギボン「ローマ帝国衰亡史」

18世紀にイギリスの歴史家エドワード・ギボンよって書かれた有名な「ローマ帝国衰亡史」でも、マクセンティウスは「uno spregevole e odioso tiranno(憎らしく軽蔑すべき暴君)」と評され、コスタンティヌスがイタリアへ攻め入ってきた時にも「災難には無関心で快楽にひたっていた」とこき下ろされています。

その皇帝マクセンティウス、本当はどのような人物だったのでしょうか。

当時の首都ローマは、ディオクレティアヌス帝が292年に始めた「四頭政(テトラルキア)」により、4人の皇帝は国境防衛のため首都には滞在することがなく、抜け殻状態になり荒廃していました。そのような状態に不満を持っていたローマ市民、そして、皇帝を父に持ちながら皇帝になれないマクセンティウスの不満が一致し、306年、首都ローマでマクセンティウスは皇帝即位を宣言し、元老院に満場一致で公認されます。すでに皇帝は4人いたので、5人目の皇帝になったことになります。

属州出身の他の4人の皇帝に比べ、マクセンティウスはローマの神々を敬う本物のローマ人としての心を持っていました。そして、政治的闘争が続いた4年間という短い治世の間に、(ローマの覇権を取り戻すために進軍してきたセウェルス帝、ガレリウス帝をくい止めた)偉大なる首都ローマの栄光を取り戻すため、フォロ・ロマーノの主要通りVia Sacra(ヴィア・サークラ)の拡幅や、マクセンティウスのバジリカなど、数多くの修復や建造を行っています。そして首都ローマのみならず、アッピア街道やローマ水道の修復も行いました。私達が、現在、目にする古代ローマの遺跡は、マクセンティウスによって整備、修復されたローマなのです。

そして、近年、皇帝の私邸からは息子ヴァレリウス・ロムルスが父マクセンティウスに「敬愛なる父へ、あなたの慈愛を望んで」と捧げた言葉が記された記念碑の台座が発見され、フォロ・ロマーノからは「古代倫理と並外れた献身を持ちわせた私達の皇帝、マクセンティウスへ」という献辞が見つかっています。そこからは、ギボンが記した暴君のイメージは浮かび上がりません。

マクセンティウスは、戦争には秀でていなかったかもしれません。しかし、政敵コスタンティヌスがローマに進軍してきた際は、ローマから逃避するわけでもなく、そしてまた有利であった籠城戦にてローマ市民を巻き込むことなく、戦闘を指揮しテヴェレ川で溺死しました。

マクセンティウスが悪帝に思えないのは、私が、敗者に対して、その功績を認め名誉をあたえ、魂を鎮める祭りを欠かさない日本人だからか、それともマクセンティウスが黄金時代のローマを取り戻そうとしたキリスト教に屈する前の最後の皇帝だったからかはわかりません。

今でも、ローマ郊外には、首都ローマに滞在した最後の皇帝マクセンティウスのはかない夢の跡マクセンティウスの競技場が遺っています。

1万人ほどを収容したマクセンティウスの競技場。
そスピーナと呼ばれる中央分離帯には、
17世紀にベルニーニによってナヴォーナ広場に移された
オベリスクが建っていました。
発掘調査によると、走路を覆うべきであった砂の跡がないことから
一度も使われたことがないのではないかとも考えられています。

マクセンティウス競技場は、アッピア街道沿いマクセンティウス邸、早逝した息子ローモロの霊廟に隣接しており2022年9月現在無料で見学できます。

競技場は、長さ465m、幅は一番広い所で71m。一周走ってみたい気にもかられましたが、 そんなに体力には自信はなく、当時も馬に牽かれた戦車競走ようにつくられたわけで。。。
壁造りには、重量を軽くするためアンフォラ(壺)が使われていました
ローモロの霊廟外観
ローモロの霊廟内部

参考文献:
Edward Gibbon "Storia della Decadenza e Caduta dell'Impero Romano" 
Rodolfo Lanciani "Nuove Storie dell'antica Roma"
Micheael Grant "Gli Imperatori Romani Storia e Segreti"
塩野七生 「ローマ人の物語XIII 最後の努力」


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Natsuko Tomi
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