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【悪性リンパ腫・闘病記㉚】退院1ヶ月後の身体の変化

-前回の記事はこちら-

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「退院した後でも、社会復帰に時間がかかる人はすごく多い。僕の体感だと、すぐに職場復帰できる人は半分もいないかな。復帰できたとしても、仕事を辞める人も多い。しかも、その理由の多くが『体力が元通りに戻らない』なんだよね。だから夏輝くん、多少無理させちゃうかもだけど、動ける日はリハビリをしよう。入院中から体力をつけよう!」

無菌室での治療が始まった次の日、担当の理学療法士が挨拶に来てくれた。

そうして始まったリハビリ生活。体温37.5度が平熱になった私は、頭が少し熱くて呆けていても、身体が動く日は共有スペースに設置されたエアロバイクを漕ぎに行った。15分間、ペースを乱さず漕ぐことができたらゲームクリアだ。

「夏輝君は病気が発覚する前は何してたの?」

「長野県の花農家さんのもとで勉強してました」

「え!そんな人初めて出会ったよ!」

私に疲れを感じさせないために、理学療法士の方は質問を重ねて会話を途切れないようにしてくれた。楽しくなってきたので、私も逆質問をして会話が盛り上がる。すると、共有スペースのソファに座っていた方が会話に入ってきて、

「俺の親父は猟師やっててよ。今、獣害増えてるんだって?」

「そうなんですよ。僕が植えた球根、軒並みイノシシに掘り返されました」

「やべえなあ、鹿も増えてるって言うし、少子高齢化とか過疎で猟師減ってるって言うしなあ」

「しかも、ロシアウクライナ戦争の影響で銃弾の値段が跳ね上がってるって知り合いの猟師さん嘆いてましたよ」

「そっかあ、世界は繋がってるんだなあ・・・」

「繋がってるんですよ・・・」

「猟師の話で盛り上がる人たち、初めて出会いました・・・」

そんな会話を繰り広げていたら、15分なんて時間はあっという間に過ぎる。今日もエアロバイクを漕ぐことができた。まるでマラソンを完走したような爽快な気分。理学療法士さん、猟師の話をしてくれた方にお礼を言い、病室に戻ってベッドに倒れ込んだ。息ができない。眩暈がする。まるで蛇口の栓を閉められたと錯覚するように、全身の血の巡りが悪いことを実感した。

次の日も、その次の日も、身体が動く日はエアロバイクを漕いだ。踏み台を使ったスクワットも、ゴムボールを使った握力トレーニングも追加された。身体は良くも悪くも正直で、動かせば鍛えられるけど、動かさなければ衰える。1日のほぼ全ての時間をベッドで過ごした数ヶ月が、私の体力を確実に奪っていた。

筋肉が戻らないと、まずは単純に日常生活を送るだけで疲れてしまう。そうすると免疫が低下する。免疫不全の私にとって、その事実は「恐怖」だった。素直に、その恐怖が、私を立ち上がらせ、2本足で歩くことを強要した。もちろん、高熱にうなされてベッドから動けない日々もあったが、ゴムボールを握ることはやめなかった。

迎えた退院の前日。理学療法士さんと最後に話をした。退院した後もトレーニングを続けたいからアドバイスが欲しいと伝えた。

「よく頑張ったね。まずは筋トレをする体力を取り戻すためにウォーキングをできるだけ長くできるように頑張ってみて。そして、筋トレを少しずつやってみよう。大丈夫。夏輝君ならできる。」

力強い言葉と共に、病院を後にした私はジムに行った。そして、身体検査を行った結果、示されたデータがこちら。

2024年12月27日
身長:175cm
体重:57.4kg(適正体重:約66kg)⇨軽い
筋肉量:44.4kg(適正筋肉量:約55kg)⇨足りない
体脂肪率:22.7%(標準体脂肪率:15%)⇨高い

痩せてるのに、筋肉少ないのに、体脂肪だけやたら多い。健康とは言えないアンバランスな数値に悲観した。でも、嘆いても現実は変わらないのでトレーニングに励むことにした。

ベンチプレスという種目がある。仰向けに寝た状態でバーベルを胸の上から押し上げる種目で、筋トレの成果を測る指標に度々使われる。10回×3セットを数日おきに繰り返すことが最も成果を上げやすいと言われているので、まずは30kgに挑戦した。

30kgのバーベルを5回ほど上げると、気分が悪くなってトイレで嘔吐した。己の体力の無さが悲しかった。スクワットも、マシンを使ったトレーニングも思い通りにこなせない。ウォーキングも30分ほどで全力でマラソンをした後のような疲労感が襲ってくる。努力や根性論のような話になってしまうが、それでも私をジムに向かわせた最大の原動力は、「美しくなりたい」という闘病中に芽生えた死生観だった。

人はいつ死ぬか分からない。

でも、いつか絶対に訪れる「死」に対して反抗できる手段が一つあると思う。それは、いつ棺に入っても大丈夫なくらい美しくあることだ。弱ったり、だらしない姿で見送られるの悔しいじゃん?だったら、花みたいに綺麗な花咲かせて散ったるわ、みたいな、ある意味で武士的な考え。遺族に「なぜこんな綺麗な人が死んでしまうんだ・・・」って思わせたら勝ち。不謹慎かもしれないけど、結構本気でそう考えている。

だから、この身体で明日死ぬのは悔しい。だから、鍛える。そんなモチベーションでほぼ毎日トレーニングを1ヶ月こなしたら、こんな身体になった。

2025年1月29日
身長:175cm
体重:64.6kg(適正体重:約66kg)⇨標準
筋肉量:49.0kg(適正筋肉量:約55kg)⇨あと少しで標準
体脂肪率:19.6%(標準体脂肪率:15%)⇨ギリギリ標準

ちょっとペースが早かったかなと反省しつつ、成果が出たことは素直に嬉しい。特に体重が標準まで増えたこと、筋肉量も後少しで標準値まで届きそうだ。体脂肪率が高いことは気がかりだけど、このままトレーニングを続けつつ、食生活に気をつければ春には標準値に届くかもしれない。

ベンチプレスの重量は、現在は45kg×10回×3セットをこなせるようになった。30kg×5回でへばっていた頃と比較すると驚くべき変化だ。その他の種目も重量が増えてきたので、良い回復傾向だと思う。

そして、トレーニングをしているからもちろん疲労感はあるけど、それは休んでも取れない精神的な疲労ではなくて、寝たら回復するような健康的な疲労だなと最近では思うようになった。次の大きな検査で異常がなければ少しずつ社会復帰ができるようになるので、それまではしっかり鍛えて、しっかり休んで、リハビリに励みたい。

でも、いつ死んでもええわ!って胸張って言える身体では全然無いので、、、私はまだまだ死ねません。笑

「花屋ができないなら、あなたが花になれば良いんじゃない?」

心の中のマリーアントワネットの言葉に従い、美しい花を咲かせられるように今日も頑張ります!






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