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【書評】きみは20代を駆ける|枝折「栞をはさんで、離さんで。」
5月29日に開催された文学フリマ東京に、noterの枝折さんが初参加した。
処女作「栞をはさんで、離さんで。」を携えて。
文学フリマは文系同人誌即売会なので、もちろん自費出版だ。
相当有名な人でないと黒字は見込めない。
そんな身銭を切って作った大切な本の一冊を、私に贈ってくれたのだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1654237296930-2jztJbO79z.jpg?width=1200)
ページに開き跡が付いたりしないよう、紙をゆっくりと捲って大切に読む。
普段読む文庫本たちから「俺らと随分扱いが違うじゃないか」と怒られそうだ。
そうして全てを読み終えた後、感想を書かずにはいられなくなった。
本書の解説と彼女の書く文章の魅力について、改めてご紹介したい。
デジタルと紙媒体の違い
「栞をはさんで、離さんで。」は全14篇からなる短編小説集だ。
まず最初に注意してもらいたいのが、本作に掲載されている14篇中13篇はnoteで無料公開されているという点。
新作は最後の1篇のみなので、枝折マニアの方々にとってはすでにnoteで読了済みのお話が多い。
私もそのひとりだから、ガッカリしなかったと言えば嘘になる。
しかし本書で改めてその「一度読んだ話」を読み返してみると、全く印象が異なった。
縦書きならではの行間。
改行の使い方。
場面転換でページを繰る時の緊張感と高揚感。
「紙の本の良さ」を何となく分かった気でいた私だが、同じ作品をデジタルと紙媒体で読み比べたことでようやく実感できた。
データとして浮遊していた文章が、ハッキリといまそこに在るものとして形を成している。
妙にこねくり回した文章になってしまったが、つまりは一度読んでても楽しめるっつーことです。
大学生のリアル
本書は構成もよく練られていた。
オープニングは「大学生を生きる。」という作品で始まり、バラエティ豊かなショートショートや掌編小説が続き、最後は「大学生を生きた。」で締める。
こういうこだわり大好き。
「大学生」2篇は続き物となっており、「〜生きた。」が書き下ろしの新作だ。
主人公の美香は大学4回生。
自分の美貌と立ち回りの上手さを自覚し、まさに「大学生を生き」ている。
学生でいられる期限が迫っていることに焦燥を感じつつも、いまを楽しもうとする大学生のリアル。
続く「〜生きた。」では社会人となった美香の姿が描かれる。
ネタバレになるので詳細は書かないが、明るい未来を予感させてくれる素晴らしい読後感だった。
等身大のいまを書き切る
彼女の小説は良い意味で背伸びをしていない。
多くの作品が20代の視点で書かれており、無理に大仰な言葉を使ったりファンタジーに全てを背負わせたりもしない。
普段の生活でよく見る、人々の何気ない仕草や口調、心の機微を「うん、あるある、こういうこと」と思わせるリアリティを持って文章に投影している。
違和感なく目から心にストンと収まるのだ。
20代の彼女がいましか書けない、いや、いまだからこそ書ける言葉の数々は、切ないほど瑞々しい。
誰かに呼び止められようと、お構いなしに彼女の文章は駆け抜ける。
駆け去った後に吹く風は、時に背筋を凍らせ、時に心を暖めてくれるのだ。
若さを驕らず謙遜せず。
きっと彼女は30代になっても40代になっても、その時々のリアルを描き続けてくれるはずだ。
ラブレターに代えて
私の拙い書評で本書と枝折さんの魅力が伝わったかどうか不安ですが、ラブレターに代えて彼女に送ります。
本書は通信販売で購入できますので、ご興味のある方はこちらの記事下部にあるリンクからどうぞ。
文学フリマのレポも大変参考になるのでゼヒ。
最後に個人的に欲しいと思った栞をご紹介。
![](https://assets.st-note.com/img/1654236755239-S47yZUgsQR.jpg?width=1200)
栞の需要もあると思います。