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出会ってこなかった本

読む本には偏りがある。
私は小さな頃からファンタジー小説を好んで読んできた。
ハリーポッター、ナルニア国物語、指輪物語、ホビットの冒険、十二国記など。本を開くと異世界へ連れて行ってくれるところが、ファンタジー小説の好きなところだった。

最近、日本の工芸品を扱っているギャラリーに毎日のように通っている。店内には陶磁器やガラス製品、日本刺繍や染物がセンスよく並ぶ。
ギャラリーの店主さんは私の父母と同い年の61歳。この道30年のベテランだ。博識で読書家な方で、教えて頂いた本がとても勉強になったのでおすすめしたい。



「父の詫び状」 向田 邦子

ドラマ脚本家であり、小説家、エッセイストでも知られる向田邦子さん。自身の少女時代をコミカルに描いたエッセイ集。

ちなみに私は、この一文を読んで本の購入を決めた。

私達が美味しいと賞味する脳味噌はいま何を考えているのだろう。

p.9-10

友人から貰った、生きた伊勢海老を前にしての一文。
おすすめをされて半信半疑で本屋で立ち読みをしていたが、これは面白そうだ!とすぐにレジへ走り購入した。

向田さん目線で描かれた昭和の日常は、ユーモラスで楽しく読み進められる。昭和の雷親父を絵に描いたようなお父様とご家族のお話は、クスッと笑える所もあり、微笑ましい。時々入る戦争の描写で、あぁ、あの戦争の時代を生きた方なのだ……。とハッとさせられる。しかしそれも日常の一部で、戦争のある日常が自然と描かれている。
一つのエッセイには次々と異なるエピソードが展開するが、最後には一貫したものがあり感服してしまう。
何より、このエッセイは読んでいてとても楽しいのだ。笑えるところ多々あり、時々そんな事ある?と驚き、私の感情が忙しかった。

伊勢海老から始まり、魚の目が怖かったり、おやつの名前を間違って覚えていたり、ごはんの話が多いところもこの本の好きなところかもしれない。


「日本のたくみ」 白洲 正子

古典文学や日本の伝統工芸に造詣が深い随筆家・白洲正子さんが「藝術新潮」へ連載した随筆。扇作りの名人、染織家、陶芸家、華道家、刺青師など、多岐に渡る職人さんたちに白洲さん自身が赴き、取材をしている。

どの職人さんたちも私の心に色濃く残り、読み終わった後その職人さんに会いたくなっているから不思議だ。実際、取材を受けた職人さんが今どうしているのか気になり、ネットで調べてしまった。するとすぐに情報が出てきた。人間国宝になっている方もいらっしゃる。私の好きな器屋さんで取り扱っている土鍋も、この本に出てくる土楽さんのものだった。日本民藝館へ訪れた時、本に出てくる黒田乾吉さんのお父様が作られた机が置いてあった。この本を読んでから点と点がつながる瞬間が増え、工芸を学ぶことが楽しくなった。

白洲さんの文章は、そろそろ読むのをやめようか。と本を閉じようとしても、「まだまだ……。」と目の玉をむんずと掴まれているような強さがあると思う。(私ごときが烏滸がましいですが。もし読んだ事がない方がいたら是非。)


「阿弥陀堂だより」 南木 佳士

〜あらすじ〜
孝夫は、医者である妻・美智子が心の病を抱えたのを機会に生まれ故郷・信州の村で暮らすことにした。山に囲まれた集落で再会したのは、「阿弥陀堂」で暮らしていた堂守のおうめ婆さん。ほどなくして孝夫は、村の広報紙の片隅におうめ婆さんの短いインタビュー記事 『阿弥陀堂だより』 を見つける。この短い記事は、難病を抱え声が出せない女の子、小百合ちゃんがおうめ婆さんの話を聞いて書いたものだった。

清らかな水が流れているかのように読みやすい文章。この表現方法があるのかと唸る部分が多く、ノートに抜書きをしたほど。抜書きした部分を少しだけご紹介。

・この数年のつらかった記憶の堆積物が崩れてあふれ出そうだった。しかし、孝夫にとっても美智子にもまだ十分に発酵していない出来事ばかりだったので、語り合うには生臭すぎた。

・『阿弥陀堂だより』は常に難病の再発を意識して、生命のはかなさに敏感になっていた小百合ちゃんにしか聞こえなかった森のささやきではなかったか。

p.7,159

文章だけでなく、物語も心が洗われるようだった。読んでいる途中も、読み終わった後も心地が良い小説だった。
著者の方の文章が好きすぎて、2周目を読んでいる。


そして今は、ハリーポッターの作者J.K.ローリングさんの過去の話が書かれた本を借りて読んでいる。

小さな頃に、次のページが待ちきれないくらいワクワクして読んだ本の作者には、過酷な過去があったようだ。

違う時代を生きてきた人におすすめの本を聞くと、思わぬ出会いがある。
ギャラリーの店主さんと出会わなければ、この本にも出会っていない。


そんなことを母に話していたら、母は向田邦子さんのエッセイをほとんど読んでいて、阿弥陀堂だよりの映画も観ていたらしい。
さすが、同い年!!



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