中3最後の期末テストで、長男が初めて校門をくぐる
子育ては予測不可能で、喜怒哀楽のジェットコースターに乗っているように感じるのは私だけでしょうか。ジェットコースターは、正直苦手なんですが。先週、うれしい方の「まさか」のことが起こりました。
火曜日、一度も中学校の門をくぐったことがない長男が、学校へ行きました。中学最後の期末テストで「数学」だけ受けるために。担任の先生が校門まで迎えに来てくださり、ふたりの後ろ姿に涙でした。
長男は小6の7月から完全不登校になり、学校の教室で授業を受けられなくなりました。小学校の卒業式や中学校の入学式も参加していません。通常は「今まで一歩も足を踏み入れていない中学校には、一歩も入らないまま卒業する」と思うし、私もそう思っていました。
担任の先生からの相談
ところが、急展開があったのです。
1月半ばの家庭訪問の日、息子が担任の先生と話したあとで私を呼びにきて、息子は自分の部屋に戻りました。私が玄関に行くと、担任の先生は私に相談をもちかけてこられました。
「卒業式に〇〇(息子の名前)が学校に来て、できるかたちでいいから卒業式に参加できないかと思いまして。ひとりずつ状況は異なるので、誰にでも言うわけではないのですが。卒業式に小学校のときからの友達に会わなかったら、次は成人式でかなり先なので」
私は、卒業式の日に、親の私だけが中学校に卒業証書を受け取りに行くと思っていたので、少しびっくりしました。でも、息子が中学校には行かないと決めつけずにご提案してくださることが、ありがたいと思いました。
しかし、今まで行ったことがない中学校に、卒業式の日だけ行くとは思えません。「卒業式が初めての登校だと難しいと思います。卒業式までに学校に行けたら可能性が高くなると思うんですが……」少し考えて、「期末テストで学校に行けたら、卒業式の日に学校に行く可能性が上がるかもしれませんね」と、その場での思いつきを話してみます。
先生は「思いつきませんでした!やってみましょう!〇〇に話してみます!」とおっしゃってくださり、私は息子を呼びにいって、台所へ戻りました。定期テストのたびに「別室に受けに行ってもいいねんで」と私が言っても乗ってこなかった長男が、はたしてどんな反応をするのか。
息子の反応
先生が帰って息子がリビングに入ってくると、
「期末テストで数学を受けることにした」
テスト10日前のことでした。
数学は長男が一番得意な教科です。本人の意思で、中2から定期テストのタイミングで、数学の課題だけは必ず提出しています。テスト1週間前に、担任の先生(英語)が数学の先生からテスト範囲と勉強の仕方を聞き、本人に伝えるためにまた家に来てくださりました。
長男はその日の晩から1週間、数学だけですが毎日勉強しました。分からないことは父親に質問し、追加で練習問題を印刷してもらって解くなど、本人になりにがんばりました。
テスト当日
テスト前日、本人は「明日学校に行くけど、緊張してない」と言ってきました。当日どうなるか分からないので、私はぬか喜びをせずに平常心を保つようにします。
当日は、いつも通り本人が自分で起きるのを待ちました。出発の30分前に起床。最近、夜寝るのが遅かったので、安堵します。
「行かずに後悔するより行った方がいい」
この言葉が言える日が来るとは。嬉しさのあまり心の中で号泣しながら、約束をしていた時間ぴったりに、ふたりで家を出ました。
今まで車で通ったことはあるけど、日中歩いたことがない通学路。数学は2限なので、9時35分に校門のインターホンを押したら、担任の先生が出てくることになっていました。
「今何時?」(息子)
「9時31分」(私)
「早く行った方が場所に慣れるから押すわ」(息子)
ピンポーン。
「はい」(担任の先生)
「3年B組の〇〇です」(息子)
小走りで担任の先生が来てくださり、長男は初めて中学校の敷地内へ歩いて行きました。
テストを受けた感想
帰りはひとりで歩いて帰ってきました。リビングに入ってくると、試験問題を食卓の上に出し、テストの説明をして感想を伝えてくれました。
「こんなに難しいねんで。でも1ヵ月勉強してたら100点取れてたかもしれない」
と言いながら、自分ができたところとできなかったところを教えてくれました。別室受験は3人いて、同じクラスの生徒があと2人いたそうです。数学の先生と社会の先生とも挨拶ができたそうです。(社会も好きで、課題をがんばって出していました)慣れないことをがんばったからか、午後は深い眠りでした。
期末テストの結果は?
テスト受験の2日後、人生で初めて受けた定期テストを、担任の先生が返却に来てくださりました。結果は28点で基礎問題だけ正解。うれしかったのは、長男が「受けに行って良かった!」といい顔で言ったこと。「俺の頭が腐っていないことが分かった!」とも言っていました。
私も「テストを受けに行ったことがすごい!」「名前書くだけでもすごいと思ってたけど、28点はすごい!」「定期テストがどんなものか分かって、良かったね!」と一緒に喜びました。
不可能が可能になった理由
一つ目の理由は、長男と担任の先生に信頼関係があったこと。基本的に担任の先生の負担にならないように、入学後は母親の私が学校にプリントを受け取りに行ったり、提出物を持って行ったりしてきました。しかし、中3の担任の先生は息子に直接会いたいと言って、週1回のペースで顔を出してくださっていました。ふたりが楽しそうに笑っているのを微笑ましく感じていました。信頼関係がある先生からの提案というのが大きかったのではないでしょうか。
二つ目の理由は、学校への信頼や安心感があったこと。学校と家庭が連携してきたことに起因していると思います。長男のありのままの状態を地元の小学校と中学校に随時共有してきました。心の問題で学校に行けないため、学校の授業をオンラインで受けさせていただけないか相談したところ、小学校でも中学校でも快くご対応いただけました。朝一でZOOMを起動し、そのまま接続しておけば、教科で先生が代わっても授業を受けることができます。
長男は、自分の状態を理解し、対応してくださるすべての先生を信頼し、結果として学校への信頼感につながっていたように思います。安心感のある場所だから、心理的ハードルが低かったのではないでしょうか。
三つ目の理由は、タイミングが本人にとってちょうどよかったこと。オープンスクールで行きたいと思った単位制通信高校に進学が決まり、安心して前向きになっていました。不登校でも、自分ができることが増えて、自己肯定感が上がっているように感じていました。チャレンジの挑戦状を受け取りたいタイミングだったと思います。
四つ目の理由は、チャレンジのレベルがちょうどよかったこと。担任の先生から本人に話をするときに「期末テストを受けてみない?」ではなく、「数学だけ別室で受けてみない?」と聞いてくださったのが、絶妙だったと思います。定期テストだけでなくテスト勉強も初めてだったので、簡単すぎず、無理しすぎず、ちょうどよかったと思います。
いろいろなことが積み重なってのミラクルでした。あらためて、担任の先生と3年間オンラインでご対応いただいたすべての先生方、そして、オンラインで授業を受けたいという申し入れを快く了承してくださった学校に深く感謝いたします。「自分がしんどいときに、自分のペースや状況を大人たちがリスペクトしてくれた」という経験は、自己肯定感となり、高校生活を送るエネルギーになると思います。
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