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展覧会レポ:水野美術館「水野コレクション<キーワードで紐解く風景 小特集 川合玉堂 生誕150年>」
【約4,300文字、写真約30枚】
長野県にある水野美術館に初めて行き「水野コレクション<キーワードで紐解く風景 小特集 川合玉堂 生誕150年>」を鑑賞しました。その感想を書きます。
※本展覧会は既に終了しています。
結論から言うと、長野駅付近に来たら寄る価値がある美術館だと思いました。❶水野美術館は、きのこメーカーのホクト・創業者が開設した美術館であること、❷貴重な日本画を多く所蔵していること、❸本展覧会では、川合玉堂の背景や、横山大観の「朦朧体」など勉強になったためです。
展覧会名:水野コレクション「キーワードで紐解く風景 小特集 川合玉堂 生誕150年」
場所:水野美術館
おすすめ度:★★★★☆
会話できる度:★★★☆☆
ベビーカー:ー
会期:2023年10月07日(土) 〜2023年12月03日(日)
休館日:毎週月曜日
住所:長野県長野市若里6丁目2−20
アクセス:バス停「水野美術館前」駅から徒歩約0分
入場料(一般):1,000円
事前予約:不要
展覧所要時間:1時間
混み具合:ストレスなし
展覧撮影:全て撮影不可
URL:https://mizuno-museum.jp/exhibition/2023_10_exhibition/
▶︎水野美術館へのアクセス
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水野美術館へは、バス停「水野美術館」から徒歩約0分。長野駅からバスで約15分です。バスは、長野駅の2番乗り場から出発します。長野駅から歩くと、約30分かかるそうです。
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▶︎水野美術館とは
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日本画の醸し出す奥深い世界に魅せられ、仕事の合間にあちこちの美術館を巡り歩くうちに、この素晴らしさを多くの方々と共有できないものだろうか…と、考えるようになりました。 (略)橋本雅邦、横山大観、菱田春草、下村観山、川合玉堂ら、絵の前に立った瞬間、全身に鳥肌が立つほどの感動を覚えた名品も少なくありません。(略)当美術館が皆様の心のオアシスとなり、信州の地域文化発展と芸術意識向上の一助となれば、この上ない喜びでございます。
水野美術館は、実業家・故 水野正幸が長年かけて蒐集したコレクションをもとに、2002年に開館した日本画専門の美術館です。なぜ日本画なのか?という問いに、水野正幸氏曰く「日本人だから」とのことです。
水野正幸氏(1940年 - 2009年、享年69歳)は、きのこ生産を営むホクト株式会社の創業者です。私のホクトのイメージは「きのこのこのこ げんきのこエリンギ マイタケ ブナシメジ」のCMです。
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水野コレクションは、「新たな時代にふさわしい日本画の創造」という岡倉天心の理想に共感し、その実現に邁進した橋本雅邦・横山大観・下村観山・菱田春草(長野出身)ら、近代日本画の確立に寄与した巨匠たちの作品を核とし、川合玉堂や堅山南風、戦後活躍した、杉山寧・奥田元宋・加山又造・髙山辰雄らの作品約500点で構成されているそうです。
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水野美術館は3階建てで、4つの展示室、日本庭園、ミュージアムショップ、和食レストランで構成されています。建物は、写真にきれいに収まりきらないほど巨大でシンプルな蔵のようです。この付近では一際目を引きます。
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和食レストランは、電気が暗いため、営業しているのか、していないのか、よく分かりませんでした。また、メニュー表も、入り口には置いてありませんでした。レストランでは、何が、いくらなのか分からないと、入るかどうか判断できないため、改善した方がいいです。水野美術館は、きのこのホクトが関連しているため、きっと面白いメニューもありそうだし、工夫次第では話題化するポテンシャルも十分ありそうだと感じました。
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▶︎水野コレクション「キーワードで紐解く風景 小特集 川合玉堂 生誕150年」感想
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展示ルートは、3階から2階です。3階の展示室のドアを開けると、いきなり畳の部屋に奥田元宋《秋渓淙々》がドーンと現れるのはインパクト大でした(写真に撮れないのが残念!)。公式HPでも、この演出はこだわりポイントだと記載がありました。
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これに似た作品《奥入瀬(秋)》は、山種美術館で見たため、既視感がありました。燃えるような赤は、渓流とコントラストが抜群で「映え」でした。
今回の展覧会は、川合玉堂が主人公。川合玉堂は、風景画の名手と言われ、橋本雅邦に感銘を受けたそうです。玉堂の弟子が児玉希望、孫弟子が奥田元宋とのことです。玉堂は、墨の線描と色彩の調和に定評があったそうです。
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「山水画」が中国の理想郷を描いた絵であることは、泉屋博古館のおかげで知っていました。山水画は、日本で進化を遂げ「風景画」となりました。
風景画とは、架空の理想郷を描くのではなく、身近に感じられる日本の風景や山河を庶民目線でリアルに描いた絵です。ずっと山水画ばかりではマンネリだと思ったのでしょうか。そこから時代の変化を感じました。
玉堂の風景画は、リアルな農民の姿を描くことで、山水画とはジャンルを画しました。しかし、私から見れば「田舎のスローライフ=理想郷」として、山水画と思想は大きくは違わないな、とも感じました。
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橋本雅邦に師事した横山大観は「朦朧体」を導入し、作風を大きく変えました。太い輪郭をはっきり描く画法ではなく、輪郭を描かない画法を「朦朧体」と呼びます。なお「朦朧体」「没線描法」は、当時「朦朧=かすんで、はっきりしない」という悪口として使われたそうです。
私は、それはモネが「印象派」と呼ばれたことと全く同じだと思いました(展覧会で言及はありませんでしたが)。保守派からすれば、今まで良いと思っていたことを大きく変えられることは受け入れられないのですね。
絵を描くという行為は、常に無限の可能性に満ちていています。絵の歴史は、飽くなきチャレンジの積み重ねの結果だと思いました。ダーウィンは「生き残るのは最も強い者や最も賢い者ではなく、変化に最もうまく対応できる者だ」と言いました。日常生活でも仕事でも、マンネリは一番ダメだ、と改めて思いました。
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全体的に、展示数は少なめだと感じました。一般的な美術館は、両サイドに美術品を展示している一方で、水野美術館は片方にしか展示していないことが影響していると思います。
その理由が公式HPに書かれていました。水野美術館曰く「ガラスケースの向かい側をすべて壁面にし、鑑賞の妨げになる映り込みをなくした回廊状の展示室」として、作品としっかり向き合える環境整備の一環だったようです。
会場は私以外にお客さんを見ませんでした。場所が若干辺鄙であることが影響していると思います。素晴らしい作品群を所蔵しているのに、現状の集客ではもったいないため、水野正幸氏も悲しんでいるのではないでしょうか。
集客を増やすために、「水野美術館」を「ホクト美術館」にする方法もあるのかな、と思いました。私は「水野美術館」と聞いた時、すごくひっそりした個人の美術館を思い浮かべました。
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水野美術館は、菱田春草、横山大観、上村松園、鏑木清方などの作品を多数所蔵しています。それら集客のフックとなる作品をオールスター的、もしくは一つを大々的に展示することに加えて、ポスタービジュアルは分かりやすい作品を使用すべきと思いました。今回のポスターは素朴で静的過ぎるため、ポスターを見て「行きたい!」と思う人がどれだけいるのか疑問です。
作品リストは3階の展示室入り口に置くべきだと思いました。1階の受付で言えばもらえました。1階の気付きにくい場所にも設置してあることに後から気付きました。一般的に、展示室前にあると観覧者は助かります。
▶︎まとめ
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いかがだったでしょうか?水野美術館に行く前は、全く期待していませんでした。しかし、ホクトの創業者が建てたという背景や、川合玉堂の画風の変遷、横山大観の「朦朧体」など、知らなかったことが多くあったため勉強になりました。意外性という意味では、満足度は高かったです。長野駅から行ける美術館として、水野美術館はおすすめできると思いました。
▶︎ホクトについて(おまけ)
せっかくなので、ホクト(株)について調べてみました。ホクトは、国内きのこシェア(2023年9月末)で、ブナシメジ:35.4%、エリンギ:47.8%、マイタケ:25.2%と、日本市場では最大手です。過去は、きのこメーカーの中で、唯一東証に上場している企業でした。しかし、(株)雪国まいたけが2020年に上場したことから、現在はそうでもないようです。
ホクトの2023年3月期の営業利益は、原油価格の高騰により製造コストが増加したため▲20億円。2022年3月期の営業利益率は、2.8%と決して利益が出るモデルでもないようです。一方で、雪国まいたけの営業利益率(2023年3月期)は7.1%(2022年3月期は15.3%!)もあります。詳しく理由は見ていませんが、粗利益率に約10%の差があることが主な原因のようです。
ホクトは雪国まいたけの2倍以上の売上はあります。一方で、利益は雪国まいたけの方が創出できています。雪国まいたけの決算スライドを見ると、精緻に分析した業績に加えて、価値創造プロセス、マテリアリティ、TCFDの開示など、ホクトと雲泥の差を感じます。雪国まいたけは、統合報告書の作成も準備に取り掛かっていることでしょう。ホクト、危し。
ホクトは、2024年3月期から急に月次売上高の開示を廃止しています。廃止するなら、その理由をリリース等で説明しないと、株主にとっては業績悪化に伴い、不安でしかないと思います。
また、ホクトは2013年から社外取締役に弁護士の北村晴男氏を起用していることも興味深いです。社外取締役は、北村氏のほかにマーケティングや人事関連の方が2名います。今のホクトの業績を見るに、他社で社長など会社経営をしっかりやった方を入れた方が良いかと思いました。
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