「ライオンのおやつ」と「つるかめ助産院」
小川糸さんのこの2冊を続けて読みました。
最初に読んだのは「ライオンのおやつ」。小川糸さんが、「死ぬのが怖くなくなる物語を書こうと思った」と言われていた彼女のインタビュー記事を見てすぐにキンドルで購入したのです。どんなお話なんだろう?
初めて読む彼女の本は、普段は忘れているけれど、いつもここにあるものに気づかせてくれる、瑞々しい描写があちこちに散らばっていました。浅瀬の海辺を、足の裏に砂粒を感じながらゆっくりと歩くように、ストーリーを追うだけでなく、その描写の数々が織りなす豊かな世界をたっぷりと味わいました。
「ライオンのおやつ」では、まぶたの上に瀬戸内海のきらきらした海辺、「つるかめ助産院」では、沖縄の青い空やうっそうと茂るジャングルが鮮やかに映し出されて、読んでいる間、とても幸せな時間をいただいたのです。
2冊に共通しているのは、癒しと再生。
そう、ライオンのおやつでは、「死」を扱っているのに、それでも読後に残ったのは「再生」という言葉です。
そしてこの二つの物語の主人公たちは、日常の「食べる」こと、人との真正な触れ合い、自然の移り変わりに気づきながら、いつしか心と身体がときほぐされ、身体の奥から湧き上がってくる幸福に目覚めていきます。何の理由も必要のない幸福に。
今というこの瞬間に集中していれば、過去のことでくよくよ悩むことも、未来のことに心配を巡らせることもなくなる。私の人生には「今」しか存在しなくなる。そんな簡単なことにも、ここまで来て、ようやく気づいた。だから、今が幸せなら、それでいい。(ライオンのおやつ/小川糸 著)
なんて気持ちのいいお天気だろう。体中の細胞が、両手を伸ばし万歳をする。すべての景色が光って見える。島中の緑という緑が、歓声を上げているようだ。鳥達は、この世に存在するありとあらゆる素敵なことを語りつくすかのようにお喋りに夢中だし。光がぽんぽんと弾け、朗らかな風が吹き抜けていく。こんな日は、自分が生きていることを、無条件で喜びたくなってしまう。(つるかめ助産院/小川糸 著)
小川糸さんの他の本も読んでみようと楽しみにしていますが、取り合えず今夜はもう一度、「ライオンのおやつ」を読み返してみるつもりです。
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