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運動音痴な32歳がフルマラソンに挑戦してみた話
元々、走ることが大嫌いだった。
小学生の頃から高校生までずっとスポーツは続けていたものの、特に秀でたものはなかったし、練習前のランニングがとにかく嫌いだった。
社会人になってからはサラリーマン達がこぞって朝ランや夜ランをしているその習慣が不思議でしょうがなかった。
ただでさえ仕事で疲れるというのに、なぜさらに自分に負荷をかけるのか。
ドSなのか、はたまたドMなのか。
当時、普段運動をすることのないわたしには縁のない行為だと信じていた。
しかし数年前にわたしは突如フルマラソンに挑戦することになる。
フルマラソン、それ即ち42.195kmである。
フルマラソンなど自分の人生には一生涯かけても無縁だと思い込んでいたわたしがなぜ挑戦したのか、そしてどうやって完走するに至ったのかを今日は綴りたい。
初めてマラソンに挑戦する人に勇気を出してもらうために、少しでも役立てばと願いを込めて。
***
わたしが当時異動した先のJTCの部署では、部長はじめ有志メンバーが毎年近隣県で行われるフルマラソンに参加するという恐ろしい習わしがあった。
その習わしを知ってはいたものの、なんとなく知らないふりをしていれば切り抜けられると思っていた。
しかしある日先輩社員から「南端さん、もうエントリーしておきましたよ(キラッ)」と爽やかに告げられたのである。
え?生命に関わることをそんな簡単に…!と震え上がったのを覚えている。
(今では感謝している)
JTCの女性総合職社員はわたしが見てきた中でも以下2パターンに分かれると思っていて、
①スマートに仕事をこなす高嶺の花系
②男子さながらに扱われる泥臭い系
わたしは間違いなく②だったのである。
こいつならいける、と思われたのだろう。
「南端も参加するのかあ〜」などと部長が嬉しそうにしている。
サラリーマン南端、こうなってしまえば首を横に振るなどできない。
わたしは腹を決めて、人生で(体力的に)最も過酷な挑戦を受けて立つことにした。
※これはケースof南端です。皆さん、嫌なことは嫌と言いましょう!
***
さて12月の本番に向けて、まずは自分の実力を知らねばと走ってみることにしたのが4月。
その時の記録が残っていたので見てみよう。
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初めてにしてはなかなか悪くないだろうと思ったかもしれない。
しかしわたしはこの2kmを走り終えて、もう一歩も動けなくなっていた。
ゆるっと走ってこのタイムではなく、
息をあげながらものすごい形相で走った、最後の方は意地の16:10である。
これは本気で練習しないと、42kmどころか半分も走り切れないかもしれない…
わたしの中の負けず嫌い魂に火がついた。
***
ここから、週に最低でも2日は2〜3kmを走ることを続けた。
無理をせず息が上がりすぎない速さで、ひたすらそれを2ヶ月ほど続けてみた。
初回よりはかなり走れるようになっていた自覚はあったが、距離を伸ばして走ってみる勇気がなかなか出なかった。
そんな時、マラソンに出場を決めた有志メンバーで合同練習をしてみようという話になった。
博多駅から福岡空港まで約10km。
もしかしたら走り切れないかもしれないし、置いていかれるかもしれない。
ドキドキしながら走り始めたことを覚えている。
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やりました!!走り切れました!!
しかも仲間に大幅に遅れをとることなく、比較的安定したペースで!!
人生で初めて10km走ることのできたこの日の高揚感や達成感は今でも忘れられない。
(あんた本番は42kmやでというツッコミは甘んじて受け入れたい)
この日から少しずつ、走ることが楽しくなり始めた。
走ることのメリットは色々とあると思うが、わたしが体感できたものをご紹介すると…
・肩こり緩和
デスクワークと持ち前の姿勢の悪さから万年のひどい肩こりに悩まされていた。しかしなんと言うことでしょう、ランニングを始めてから、以前よりも肩こりが気にならなくなったのである。
これには諸説あるらしく、腕を振る行為が肩周りの筋肉をほぐし、血行を促進する働きにつながっているのだとか。
・体重減少
ランニングは痩せないだとかなんとかいう話もあるが、走れば痩せます!と言うのもわたしはそれまで運動不足で汗を流すことがなかったために効果が分かりやすかったのかもしれない。しかし痩せて体がスッキリしたのは確か。
・ストレス解消
これまでずっと不思議だった、サラリーマンやけに走りたがる問題はここに行き着くのかと自分自身の身を以て解決しました。走っているとその日あった嫌なことがどうでもよくなる。汗も流してスッキリして、「わたし最強じゃん」と自己肯定感も高まるのである。
考えつくくらいでも、ざっとこんなところである。
メリットだらけではないか。
***
さて、日々の練習を重ねに重ねて迎えた本番。
25km地点までは信じられないほど自己最高のペースで走っていた。
「全然これキツくないぞ、これは42km楽勝かもしれない…」
と思っていた矢先である。
下半身が急に思うように動かなくなってきた。
足全体がこれまでに経験したことのない痛みに襲われているのである。
これがいわゆる「30kmの壁」である。
なんでも、肉体的疲労やエネルギー不足から多くのランナーがこの壁にぶち当たるのだそう。
わたしは本番までに走った最長距離が20kmだったので、この日初めてこの壁にぶち当たることとなった。
上半身は元気なのに、足が…動かないよ…
そこからは走って歩いてを繰り返し、痛みと泣きたい気持ちとの戦いを繰り広げることとなった。
そんな中でも、追い越し追い越されを繰り返す見知った顔や沿道の応援ボランティアの皆さんの声援に本当に救われた。
最後10kmは、嘘でも誇張でもなく気力で走り抜いたと言っても過言ではない。
半泣きの顔で、走れども歩けども訪れないゴールを目指し続けること約5時間半。
ついに…ゴーーーール!
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ゴールしてしばらくは痛みと疲労で喜びを感じる余裕もなかったが、フィニッシャータオルを握りしめているうちにようやく実感が湧いてくる。
半年ちょっと前までは2kmも満足に走り切ることのできなかった自分が、まさかこんなことをやり遂げてしまうとは。
自分が一番驚いていたのは言うまでもない。
特段タイムも速くもないしがない市民ランナーだが、マラソンを通してなかなか味わえない気持ちを感じることができたと思っている。
それは、ベタだけれど「自分ってまだ成長できるんだ」ということ。
大人になるとただただ生きているだけでは自分の成長って感じづらくならないだろうか?
少なくともわたしはそうだった。
社会人になって日々仕事に追われているけれど、自分って何か成長しているのだろうか?
胸を張ってYES!とは言えないと思っていた。
しかし、マラソンを始めてみると、自分が努力した分だけ走れる距離が増える。タイムが縮まる。
数値で成長を実感できることの喜びを感じることができるのである。
わたしは結局、フルマラソン3回、ハーフマラソン2回にこれまで挑戦している。
悲しいかな初回のタイムが一番速く、記録を更新できていない。
けどその理由は明確で、初回時よりも圧倒的に練習不足だから。
自分の怠け具合がタイムに綺麗に反映されるのもマラソンならではである。
フルマラソンのあの辛さや痛みはいつになっても忘れることができないけれど、その分走り切った後の達成感や爽やかな気持ちも忘れることができないのも事実。
この後の人生であと何回マラソンに挑戦するかはわからない。
ただ、自分の成長を感じることのできるあの感覚は最高に気持ちいいし忘れられないものである。
怪我せず(これが一番大事かも)、自分なりのペースでこれからも走り続けていきたいと思っている。
この記事が、マラソンに初めて挑戦する人の背中を押せますように。