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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  4話「老人と少年」(6)


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4話「老人と少年」(6)


 結局、ビクリ石らしきものが露出した岩壁を見つけられたのは、その翌日のことだった。老人の家の周辺をいくら探しても森ばかりで、今日は泉の反対側の方を歩いてみたのだ。泉からは徒歩20分くらい。つまり、老人の家からは30分ほどかかる。ここも「そこら辺」の範疇なのだろうかとぶつやくゴナン。しかも想像していた岩山とは違い、少しの岩壁が草の中から見えているだけだ。

(…でも、この石を粉にして一緒に燃やせば、赤狼煙も上げられる…)

 ゴナンは考える。赤1本、白1本の狼煙は、巨大鳥が見つかった時の合図だと皆で申し合わせた方法だ。つまり、リカルドや仲間達に、より「ゴナンがいる」と気付かれやすい合図にもなるかもしれない。

「よし…、たくさん採ろう…!」

 体の節々の痛みは相変わらず消えないが、ゴナンは気付かないふりをして岩山に臨んだ。石を運ぶためのカゴも老人宅から借りてきている。鉱山でディルムッドが力強く石を割っていた様子を思い出し、同じイメージでツルハシをふるうが、やはりあの巨体の男と同じとはいかず、体が弾かれて尻餅をついてしまう。

「…ツルハシで岩を割る作業は、全身を鍛えられるってディルが言ってた…。石を運ぶのも鍛錬になるな」

 ゴナンはそう呟いて自らを奮い立たせ、ディルムッドの姿を思い出しながら必死にツルハシをふるった。ディルムッドの教えを思い出し、丹田を意識しながらふるう内に、次第に要領を得てきて、一振り辺りに割れる石の量が多くなる。比較的柔らかい岩のようで、割れるようになると楽しくなり、休みなく2時間もの間、ツルハシを振るい続けた。




 結果、必要以上に大量の石を採取してしまったゴナン。ヘトヘトになり座り込んで、ようやくそのことに気付いた。

「…あのおじいさんも、陶芸にビクリ石を使うようだし、余った分はおじいさんにあげよう…」

 そうして、背負いカゴで石を住み処の方へ運ぶゴナン。鉱山でディルムッドにならった、足腰を鍛えられる歩き方で取り組む。一度では運びきれず、3往復してようやく終えた。そして、泉のふち近くでふう、と寝転がる。なんとも言えない達成感に包まれていた。

(…やるべきことがわかって、そのために1個ずつ物事が進むって、いいことだな…)
 あの老人は相変わらず気難しくて怖いから、必要最低限の交流しかしないようにはしているが、それでもゴナンの大きな助けになっているのは確かだ。かといって「家に泊まらせてほしい」とか、「食べ物を分けてほしい」などと懇願しても、拒絶され追い出されるに決まっているが…。

(…頑張ろう…。たとえ鳥が戻ってこなくても、できることはたくさん、あるんだ…)

 なんだか、すべてが順調な気がする。今日は疲れたから、いまから焚き火を起こすのも面倒だ。作りためている干し肉とコブルの実を夕食にしよう。水浴びをして汗を流して、しっかり休もう。ゴナンは寝支度を調え(といっても下着一枚になるだけだが)、小屋に横になる。この小屋にも随分、愛着が沸いてきた。そしていつものように、上衣を取り出しミリアの縫い目に触れながら、眠りに入った。

 が、数時間後。ゴナンははっと目を覚ます。

(…あれ、寒い…?)

 発熱して寒気が出てしまったのかと体を起こすゴナン。しかし、どうやら外気が寒いようだ。慌ててズボンをはき、そして握りしめていた上衣を着る。それでもまだ冷える。下に敷いていたフワゾウの穂を体の上にかけてみるが、まだ寒い。仕方なく一度起き、小屋の前で集めていた薪に火をつけて暖を取る。体の節々も痛い。

(……しまった…、こんなに寒くなるなんて…)

 くしゅん、とくしゃみをするゴナン。少し熱っぽい気もする。そのまま薪のそばでウトウトと眠り、火が弱まったらまた、薪を追加する、その繰り返しだった。

 ゴナンが知らない「冬」の季節が、少しずつ近づいていた。



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