連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 5話「訪問者」(6)
5話「訪問者」(6)
ルチカが『借りて』いた遺跡の書類をパラパラとめくりながら、ゴナンは尋ねた。
「…ルチカは、壁画の遺跡を見てどう思った? ウキの近くにも1ヵ所、あっただろ?」
ゴナンは尋ねる。熱が出ていて辛いが、話している方が気が紛れる。ルチカはその質問に、しかし少し冷めた表情になった。
「…ああ、遺跡の入口までは行ったけどね。中には入ってない」
「…えっ? でも、遺跡の入口を隠していた岩が外されてたって言ってたけど…」
「そうなの? 私は知らないよ。私が行ったときは、特に岩で隠されてもいなかったし」
「てっきりルチカのことだから、中を隅々まで調べ尽くしてると思った…」
好奇心の塊のように思っていたから、意外だった。だがそういえば、あの帝国人達があの遺跡を根城にしていたと言っていた。石を外したのは奴等だったのか。ルチカは答える。
「うーん、気にはなったけどね。暗くて狭そうだったし」
「?」
「資料に中のことは結構詳しく書いてあったし、いっかなーって思って」
「ふうん?」
泉の水面に目線を落としながらそう報告するルチカに、ゴナンは少し首を傾げた。
その後、ルチカは巨大鳥の生態について、ゴナンを質問攻めにした。答えられることもあったし、分からないことあったが、卵に直結するような情報はゴナンも持っていない。それでも、ひとしきり質問し終わると満足し、何やら考察をし始めるルチカ。彼にこれだけの情報を与えてしまって良かったのか、ゴナンは未だ後悔していたが、どうにも答えるのを拒否できなかった。
「…なあ、ルチカ…。俺が巨大鳥のことにこんだけ答えたんだから、もう、ミリアを狙う必要は、ないよな?」
「え? ミリアさん…、の影武者の普通の…、何だったっけ? うーん、でもねえ…」
「ミリアを狙うのはもう、やめろよ。ディルとも争わなくてよくなるだろ?」
「…さあ、それはどうかな…」
ルチカの瞳が、怜悧に光った。
「…ミリアさんはあんたよりも長く巨大鳥と一緒にいたんでしょ? しかも王女様だよ。もっと聞いてみたいこともあるし、それに、前にも言ったけど、卵や鳥を争う場面になったら、私は誰が相手でも容赦しないから。それが例えショーン騎士でも、か弱いゴナンでもね」
「……」
「あのお姫様の影武者の普通さん?、のことを大事に思うのは分かるけどさ」
ゴナンはじとっとルチカを見るが、ルチカは肩をすくめて苦笑いした。
「じゃ、聞きたいことも聞いたし、休憩もできたし、私は行くよ」
「…えっ」
ずっとしゃべり通しで休憩になったのかは謎だったが、そう言って立ち上がったルチカを、もの言いたげに見上げるゴナン。
「……いや、連れて行かないよ? 私は1人で飛び回ってるんだから、ゴナンがいたら邪魔だし。薄情だなんて思わないでよね。そもそも、あなた達は敵なんだから」
「……」
「それに、別に私が保護しなくったって、ゴナン、1人でも全然大丈夫そうじゃん。その内みんなと合流できるよ。多分ネ。じゃ」
そう言い放って去ろうとするルチカ。ゴナンは立ち上がって、ペコリと頭を下げた。
「…あ、あの…。薬…、ありがとう…。すごく、助かった…」
「……」
ルチカはゴナンの琥珀の瞳を見上げる。
「…子どもを見捨てて行こうとする大人に、律儀すぎるんじゃない? デイジーちゃん」
「……」
「ま、オダイジニ。もう、遭遇したくないけどね、じゃあね」
そう言って、重い荷物を力強く背負うと、最後に「あ、これもあげるよ。暗いと不便でしょ?」とポンと何かをゴナンに投げて、そして森の中へと消えていった。
(…あっという間に、行っちゃった…)
また、ポツンと1人の空間になる。ゴナンはルチカから渡されたものを見ると、それは、ストネの街で使っていた超小型の発光石のライトだった。急に文明的なものが手に入って、なんだかこの場にそぐわないような気もするゴナン。
カチャカチャと操作をしてみる。本体を回すと、真っすぐ細く強い光と、ランタンのように周りにふんわり広がる光に切り替えができることが分かった。そんなにたくさんの発光石の照明を見ているわけではないが、この仕組みはやはり、すごい気がする。リカルドが飛んで喜びそうな代物だ。
(…なんだかんだ言って、親切は親切だな…)
と、ゴナンは強烈な眠気を感じ始めた。恐らく薬の副作用だろう。小屋へと戻り、毛皮にくるまるゴナン。すでに辺りは、夕日の橙に包まれていた。
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