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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 5話「訪問者」(5)
5話「訪問者」(5)
「ゴナン、なんで、ここにいるの?」
「……」
ルチカのその問いに、ゴナンは気まずそうに口を閉じる。
「…ご存じの通り、私、空飛んで移動できるんだけど。それも、そこそこのスピードでね。ゴナン、ウキにいたよね? 祭の日もいたよね? なんか踊ってたよね? 楽しそうに。それで、私より先にこの場所に来て、そして結構長くいるって、どういうこと? どんなに速い馬でも難しいと思うんだけど」
「……」
「まさかゴナンも空飛ぶ機械持ち? あ、でも、発光石も知らなかったくらいだからあり得ないか。え、どういうこと? 全然わかんない。ね、ゴナン、教えて?」
灰青の瞳を好奇心で輝かせ、ものすごい勢いでゴナンに詰め寄るルチカ。ゴナンは巨大鳥に乗ってきたことをルチカに伝えてよいものか、躊躇していた。この察しの良い青年は、ちょっとの情報でも多くのことを理解して行動してしまう。自分の情報のせいで、ルチカが先に卵を得てしまう結果になりかねないかもしれない。
「ねえ、ゴナンってば。教えてヨ。どう考えてもわかんない」
ルチカは少し苛立たしげに、ゴナンにさらに顔を近づける。純粋に、自分の理解が及ばない事象があることが不満な様子だ。そして、熱で判断能力も鈍っているゴナンは、どうにも嘘やごまかしを思いつけなかった。
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「……鳥…」
ゴナンは小さく呟く。
「…えっ?」
「…巨大鳥に、乗せられて…。あちこち、回って、…それでここに…、来た…」
「……!」
ルチカは固まる。そんなバカな、などと言われそうな場面だが、ルチカは現状を見てすぐにその話を信じた。
「…ああ、なるほど。まあ、それしかないよね…。巨大鳥を追ってた私がここに着いてゴナンを見つけるのも当たり前か」
「……」
「ねえ、それで? 卵は? ていうか元々、人が乗ってるよね、女の子。一緒に来たの? 何か話聞けた?」
「……!」
さらに詰め寄ってくるルチカ。まあ、そうなるよな…、と思いながら、帝国人に襲われ巨大鳥に乗ってからここに来るまでのいきさつを話した。ふーん、と腕を組んで頷き、納得し、そして何かを考えているルチカ。
「…ルチカ…」
「…ん?」
ゴナンは、声を震わせてルチカに尋ねる。
「…あ、あの…。リカルドがどうなったか…、無事か、どうか…、知らない…?」
「リカルドさん?」
ゴナンが泣きそうな表情になったことに気づき、ルチカは少し神妙な顔をして、思い出す。
「…ええと、帝国人に襲われたのが祭の次の日って言ってたよね? 私がウキを出たのはさらにその次の日だけど、リカルドさんが死んだ、みたいな噂は聞かなかったけどな。まあ、あの街外れの邸宅の客人の生死を、街の人が噂するかはわかんないけど。でも、余所者は目立ってたみたいだしね」
「……」
「葬儀屋さんが動いているような感じもなかったけどな。ああ、でもお医者さんや看護師さんが忙しい様子もなかったかな。死んでたらお医者さんの意味ないもんね」
「……」
「あの宿屋のご主人、みんなと顔馴染みなんでショ? 死んだりしてたら、あの人がなんか噂したりするんじゃない? まあ、私が街出たあとに死んでたら、わかんないケド」
「……」
ゴナンは少し反応に困った顔でルチカを見る。どうやら彼なりにゴナンを励まし慰めてくれているような気はするが、物言いが率直すぎて、どう受け取るべきかわからない。
と、ゴナンの顔を見たルチカが、心配げにまた覗き込む。
「…ていうか、ゴナン。具合悪そうじゃない?」
「…あ、うん…。なんか、熱が出てて…」
「えー? またぁ? 体弱いねー」
そう反応するルチカに、ゴナンは少しシュンとする。
「まあ、もう寒くなってきてるし仕方ないか。でもすごい毛皮あるじゃん。どうしたの? これ。ビッグボアの毛皮じゃない? 総革で一枚革で毛並がこんなにキレイで、高級品だよ~」
「あ…、えっと、これは……」
「あ、そうだ!」
ゴナンが答える間もなく、ルチカは自身のバッグを探り、何かを取り出す。相変わらずクルクルと動く青年だ。
「…はい、これ。ウキの街で、あの黒髪の優しい女の人からもらった薬。熱冷まし」
「あ、マリアーナさん…。あのときの…」
「そうそう、薬師のマリアーナさんだったっけ? これのおかげで私はすぐに熱下がったから、余ってたの。これ、飲みなよ。全部あげる。私は滅多に熱なんか出さないから、ゴナンが持ってた方がいいでショ?」
「……」
ゴナンは押しつけるように渡された熱冷ましをじっと見る。これがあるだけで、かなり違う。「…ありがとう…。すぐ、飲む…」と、泉の水を器に注いで、ぐいと薬草の粉末をあおるゴナン。ルチカはさらに自分の荷物を探る。
「あ、あとこれ、借りてたから、返すね。メモしたし、覚えたから」
そう言ってポンと書類の束をゴナンに渡す。クラウスマン邸に忍び込んだルチカが盗っていった、巨大樹が描かれた壁画の遺跡に関する資料だ。
「…いや、借りていったっていうより、盗…」
「まあ、いいじゃん」
そうあっさり言って、ふう、とブーツを脱ぎ脚を伸ばして、「あー、疲れたなあー」とくつろぐルチカ。ゴナンは渡された書類に視線を落とす。文字に触れるのも久しぶりなのだ。
↓次の話↓
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