連載小説「オボステルラ」 【第二章】36話「鳥か、卵か」(2)
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ヒマワリは、ミリアの首に当てた武器に、ぐっと力を入れる。「痛っ」とミリアが声を漏らした。
「……ミリア!」
「さあ、早く!」
甲高くも凄みのある声で、ロベリアに迫るヒマワリ。ナイフはロベリアに、声をかけた。
「ロベリアちゃん…。恐らくヒマワリちゃんは、本当に『やる』子よ。卵なんてあなたに必要ない。ミリアを助けてあげて」
「……」
ロベリアはまだ躊躇っている。ゴナンはたまらず動こうとするが、リカルドが止める。
「リカルド…!」
「ゴナン、だめだ。今向かっても、ミリアが危ない。ナイフちゃんが言ったように、ヒマワリちゃんは本気だよ」
「……で、でも……」
ゴナンが何かをリカルドに伝えようとしたとき、ロベリアが動いた。
「……分かったよ…」
そう小さく言って、がっくりうなだれたロベリア。そのまま、ラウンジの中を移動した。そして、奥の方にある一つのソファの前に立つ。座面を外すと、その中に、綿入りの袋に入れられた大きな楕円形のものが見えた。
「そんなところに……?」
(そういえば、ロベリアさんはよく、あのソファに座っていた……)
リカルドは思い出す。お店の営業時間前、考え事がしたいと言っていつも座っていたソファ。リカルドがあそこで仮眠をとっているときに心配げに見ていたのも、ソファの下のものがバレないかと見張っていたのだろうか。
「ちゃんと中身、見せて」
「……」
ロベリアは袋を持ち上げて口を結んでいる紐をほどき、中身を見せた。乳白色の、艶がある楕円形のもの。高さ60cmほどだろうか。リカルドはごくり、と息をのむ。その様子にヒマワリは気付いた。
「リカルドさん、横取りしようったって、そうは行かないからね」
「……」
リカルドの動きを気にしながらも、ヒマワリはミリアごと、裏口の方へと近づいていった。
「さ、ロベリアさん。袋に入れ直したら、こっちに持ってきて。卵とミリアさんを交換ね。私はそのままお暇するから。ナイフちゃん、短い間だったけどお世話になりました。今日お給料もらっといてよかったな」
ロベリアは袋を持って、2人の方へ近づいていく。しかし、途中で足を止めて、躊躇う。
「……ロベリアさん!」
「でも…、やっぱり、この卵は……!」
「……!」
ヒマワリがさらに手に力を入れた。苦しそうにするミリア。またゴナンが動こうとするが、リカルドが止める。
「ゴナン! だから……」
「リカルド、ヒマワリが持ってるの、刃物じゃない!ただの棒!」
「え?」
ゴナンは視力がいい。確かによく見てみると、棒のような武器でミリアの首を押さえているだけだ。それでも首を締められてしまえば結果は同じだが。
そのゴナンの声を聞いて、ミリアを助けようとリカルドとナイフがヒマワリの方へ動いた。が、同時にロベリアも動く。裏口とは正反対の入口へ、卵を持ったまま駆け出したのだ。
「ちっ」
ヒマワリはミリアを突き飛ばし後を追おうと駆け出すが、リカルドとナイフが立ち塞がる。
「邪魔!」
そう叫んで、ヒマワリはリカルドのアゴを蹴り上げた。リカルドの大きな体が吹き飛ばされ、カウンターにドスンとぶつかる。続いてナイフを蹴りにかかるが、そこは流麗にかわされてしまう。
「邪魔しないでってば!」
ヒマワリは何度か蹴りを試みるもナイフに全てかわされる。流石に格闘の力量が違うようだ。そのままナイフはヒマワリを抑えようとするが…。
「……!」
がつっと鈍い音と共に、ナイフの体が揺らいだ。その一瞬の隙をかいくぐってヒマワリは入口へと駆けた。
そこに、
「……あら?」
ちょうどエレーネが帰ってきた。もの凄い勢いで走ってくるヒマワリに、戸惑いの表情を浮かべる。ヒマワリは走りながら叫ぶ。
「エレーネさん!どいて!」
「エレーネ! その子を押さえて!」
同時に正反対のことを言われてエレーネは一瞬だけ躊躇ったが、すぐにレイピアを抜いてヒマワリの前に立ち塞がろうとした。が、ヒマワリはその手を蹴り上げてレイピアを弾き飛ばし、そのまま外に駆けだしていってしまった…。
「……え?何事……?」
蹴られた手を押さえつつ、店内の惨状を見て驚くエレーネ。リカルドはヒマワリに蹴られたアゴをさすりながら立ち上がり、ナイフの方に行く。
「……あの体格でかなりやるなあ…。ナイフちゃん、まさか君まで彼に不覚をとるなんて」
「全くよ。あの棒で打たれたのだけど……、なんか、あの棒、急に伸びたのよ。それで不意をつかれちゃって…」
「伸びた?」
ナイフはヒマワリに打たれた首を押さえる。力はないが、的確に喉仏を狙ってきた。かろうじて少しずらすことはできたが…。
「そうとうケンカ慣れしている感じね。実践派」
そう言って、ナイフはミリアの方へ目をやった。すでにゴナンが付いている。少し咳き込んでいるが、大事はなさそうだ。
リカルドもその様子を確認し、2人を追いかけようと店の出口へと向かった。卵が、本当に手の届く場所にある。ヒマワリより先に、ロベリアを押さえたい。彼はどこに逃げるのだろうか…。
「エレーネ!ヒマワリはどっちに向かった?」
「え…と、こっちの方だけど」
エレーネは店から東側に伸びる道を指す。よし、と向かおうとするリカルドを、エレーネが止めた。
「待って、リカルド。街の横にある湖に、巨大鳥が来たのよ!」
ーーー「え……!」
↓次の話
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