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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  15話「対面」(5)


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15話「対面」(5)


 「ディルムッド、久方ぶりね。また大きくなったのではない?」

 王妃オルフィナは、ベッドの上で鈴のように笑いながら、ディルムッドにそう、声をかけた。

「そうですか? もう27になりますので、流石に成長は止まっていると思っていましたが、もっと背が伸びるのならそれは僥倖…」

「ふふ、冗談よ。相変わらず堅苦しいのね。あなたはそれ以上大きくなってどうするの? なんだか、ちょっと邪魔に思えてしまうわ。それにしても、その髭と髪は? あなたにしては珍しいわね」

「……もう少し貫禄を出したいと思い、まずは見栄えからと…」

「男の方というのは、ある年齢になるとそのようなことを考えるようね。でも、あなたのような大きな騎士が、これ以上の貫禄を求めようだなんんて」

 そう微笑み、しかしすぐに怪訝な表情になるオルフィナ。

「……ディルムッド。あなたはアーロンの護衛のはずよね? どうしてこのような場所に? あの子も近くにいるのかしら?」

「いえ……、それは、お連れしたこちらのご令嬢に、関わりがございます」

「……?」

 オルフィナは首を傾げて、まだ言葉を発さずにいる帽子の令嬢に声をかける。

「このような見苦しい格好でごめんなさい。お見舞いありがとう。ところで、わたくしはあなたとお会いしたことがあるのかしら? お顔をお見せいただけると嬉しいのだけれど」

「……」

 ミリアは少しだけ肩を震わせ、そしてそっと帽子を取った。その顔を見て驚くオルフィナ。

「……ミリア…? まあ、あなた、どうして……」

「お母様…。ごめんなさい、来てしまいました……」

「ミリア…。ああ、もっと近くに来て。顔をよく見せて……」

 オルフィナがベッドから飛び出しそうになるのを抑えるように、ミリアはオルフィナにすがりついた。



「お母様…。お元気そうでよかった。お母様……」

「まあ、ミリア。随分、大人っぽくなったようだわ。あなたこそ元気そうね。でも、少し痩せたかしら? それに、いくらか日に焼けたのではない?」

 オルフィナのその言葉にドキッとするミリアとディルムッド。オルフィナはぐっとミリアを抱きしめる。

「ああ、会えて嬉しい。かわいいミリア」

「お母様…。わたくしもよ」

 そうしてしばしの抱擁ののち、ミリアはベッドサイドにディルムッドが差し出した椅子に座る。

「お母様。マルルの実をお持ちしたわ。お母様の大好物」

 その言葉に、ディルムッドが果物のカゴを差し出す。

「まあ、嬉しいわ。今日の夜食にでも早速、いただこうかしら」

「……では、わたくしは前室へ失礼しますので、あとはお2人で積もるお話を…」

 ディルムッドはそう礼をして退出しようとしたが、ミリアが止めた。

「ディル、……ムッド。あなたもここへいらして」

「は、しかし……」

「そうよ、ディルムッド。懐かしい顔を見られるのは、嬉しいわ」

 オルフィナもそう、声をかける。ディルムッドは戸惑ってミリアの方を見たが、そのすがるような目線に気づき、頭を下げた。

「……かしこまりました…。私のことは壁か柱として。いつものように…」

「まあ、大きな柱だこと」

 オルフィナはクスクスと笑った。ディルムッドが城で見かけていたときよりも痩せ、目の下のクマは色濃く出ているが、姿勢は真っすぐで顔色もひどく悪くはなく、エイリスが言ったとおり今日の体調は良いようだ。ディルムッドは扉の前に貼り付くように、姿勢を正した。

「……ミリア。それにしても、お城を出ては駄目じゃない。もう1人のミリアは一緒ではないの?」

 オルフィナが早速、そうたしなめてくる。

「ええ、お母様。分かっているわ。国の定めを破る行いを、わたくしは行ってしまった。サリーはお城に残っているわ」

「いったい、どうして? この定めは、あなたの命を守るためのものだということは理解しているのでしょう?」

 そう、背筋を伸ばして尋ねるオルフィナ。ミリアは少しうつむく。

「陛下はご存じなのよね? もちろん」

「……」

 黙ったままのミリアの様子に、オルフィナは驚いてディルムッドの方を見る。ディルムッドは壁に徹し、何も応えない。

「……ミリア?」

「……お、お父様には、内緒なの…。サリーには、話しているけれど…」

 目を伏せ、そう答えるミリアに、唖然とするオルフィナ。しかし、すぐにディルムッドを見て、合点のいった表情をする。

「……ああ、分かったわ。あの子の差し金ね。あなたのお兄様」

「……!」

 その言葉に、ミリアは戸惑いの表情を浮かべる。

「アーロンならやりかねないわ。あの子はあなたを、とても可愛く思っているから。それで、何かの策謀を巡らせて、自分の護衛をお供につけてくれたのね」

「……」

「……わたくしがこのように弱いばかりに、あなたにも、アーロンにも、余計な負担をかけさせてしまっているわね、ごめんなさい」

「お母様。そんなことはないわ。ご病気は仕方がないもの。負担だなんて、思っていません」

 ミリアはそう、すっと背筋を伸ばして母を励ます。オルフィナはその姿をまぶしそうに見て、そして両手でミリアの手を取った。

「……陛下にも、早く側室をお迎えになるか、わたくしを側室に下げて代わりの正妃を娶っていただけるよう進言しているのよ。わたくしでは、王妃の務めを果たせていないから……」

「お母様…」

「本当は離縁していただいたって良いのだけど、そうなるとアーロンやあなたの立場が難しくなってしまうから…」

 ア王国では国王が側室を複数人持つのが通例であるのだが、王子と王女、2人の子宝に恵まれたこともあり、現国王の妻は王妃オルフィナ1人だけである。ちなみに、女王である場合も王配とは別に側室を持つ場合も多かったようだ。

「お母様、心配なさらないで。宰相様が完璧に職務をこなされているし、女官長もしっかり切り盛りしているわ。お城は大丈夫よ。ただ、元気になられるのをお待ちしているわ」

「ミリア…」

 強い眼差しでそう励ますミリアに、優しい目線を向けるオルフィナ。



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