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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 16話「ねがいごと」(7)
16話「ねがいごと」(7)
「あんな風に人生をかける勢いでリカルドが叶えたい願いって、何なのかしら?」
「……!」
ミリアが何気なく放ったその疑問に、ゴナンはハッと顔を上げる。ユーの呪いのことをリカルドが隠したがっている以上、ゴナンの口から何かを話すことはできない。ぐっと黙り込んでいると、ミリアも何かを察したようだった。
「……内緒なのね。ごめんなさい……」
「……でも、……俺は……、俺が、リカルドとずっと一緒に旅をしたいって願えば……、そうすれば、リカルドの願いも同時に叶うんだ……。多分……」
「……?」
そう言ってゴナンは、ミリアの顔をじっと見る。
「……それで、ミリアと、ミリアとも、一緒にずっと旅したい、って、お願いする……から…」
「!」
その言葉を聞き、ミリアはサッと目線を足元に下げた。そして、普段、悠然とした態度に徹しているミリアには珍しく、頬から耳まで真っ赤に染めている。
(……ミリアとずっと一緒に旅をするってことは、ミリアは王女に戻らなくてもいいってことだ。皆と一緒に旅を続けたいって願えば、俺の願いも、リカルドやミリアの願いも、一度に叶うことになる…。ミリアが本当に、王女様じゃなくなりたいのなら、だけど。あ、でも、ナイフちゃんはお店があるし、エレーネさん、は、よくわかんないけど……。ディルも着いてきてくれるかな……。あ、でも、もっと勉強して、北の村を飢えない村にするための仕掛けを作りに行かなきゃ……。これも、旅ってことでいいのかな……)
ゴナンはそんなさまざまな思惑があって思いを述べたが、言葉足らずな彼の台詞は、ミリアには違うニュアンスで伝わったようだ。
少し遠くでは、ワクワクしながら「ゴナンの方は単なる妹扱いだと思ってたけど、まさか……?」と鼻息荒くその様子を見守っているナイフ。が、その瞬間、大人3人はハッと森の方に目線を向けた。
「……私が行こう」
ディルムッドが巨体に似合わない素早い動きでゴブリスの木々の間にびゅっと入っていった。そしてしばしの戦闘音の後、人を肩に担いで戻ってくる。ディルムッドの肩でバタバタと暴れているのは……。
「……ルチカ…。本当にあなた、神出鬼没ね…」
「もー、ミリアさんがいたからラッキーと思ったら、保護者付きなんて……」
そう愚痴るルチカに「しぃーっ!」と指を口元に立てるナイフとエレーネ。言われてルチカは、ゴナンとミリアの様子を見て、ディルムッドに担がれたまま小声で尋ねる。
「え? あの2人、イイカンジ? でもなんでこんな場所で? ここ、パパが作った排水設備だよね。なかなかの臭いだし、ロマンチックの欠片もない場所だけど。まあ、確かにとても大事な場所だけどさ。それが分かってるんならゴナンもなかなか見込みあるけどね。でもデートだったら湖とか森とか、もっと風光明媚なところに行けばいいじゃん。ここを湖と間違ってるわけじゃないよね? こんな場所で何の話ができるってのサ」
「ルチカ、だから静かにってば」
相変わらずの口数の多さで、とにかくバタバタと暴れるので、ディルムッドは一旦、ルチカを降ろす。ふう、と息をつき落ち着いた様子を見せるルチカ。と、次の瞬間、すぐにミリアの方へ向かおうと動いた。が……。
「……いたっ」
「油断も隙もないわね……」
ナイフが即座に反応して腕をとり、地面に引き倒した。腕を極めたままうつ伏せに地面に押さえ込む。
「ディルはあなたが女性と分かって若干遠慮しているようだけど、私は特に対応は変わらないからね。あなたの手強さはよーくわかっているから」
「……ちっ」
そう指摘されて、ディルムッドも少し気まずそうな表情になる。エレーネは呆れた表情で、地面のルチカに話しかけた。
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「それにしても、私達をずっとつけていたの? あなたはあなた独自の情報網で動いているのではなかったかしら?」
一行は、巨大鳥のルートからは外れてこの街に来ているので、巨大鳥を追っているはずのルチカがなぜここにいるのかが疑問だった。ルチカは地面に伏したまま答える。
「……別に、あなた達をつけていたわけではないけど」
「……?」
「道中で妙な挙動の男共を見かけて、なんだか気になってそいつらに着いていったら、その先にミリアさんがいただけだよ」
「……!」
ルチカのその言葉に、ハッとゴナンとミリアの方を見る3人。同じタイミングで、黒ずくめの装いを身に付けた輩3人が、ゴナンとミリアを囲んできた。
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