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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  13話「うごめく、何か」(2)


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13話「うごめく、何か」(2)


 (『こちら』の方は、ひとまずこれでよいか……。のこのこと姿を表してくれてよかった。次は…)

 そうして、ディルムッドはまた、きょろりと周辺を見回したときである。ディルムッドの背後で「きゃっ」という女性の声がした。振り向くと、長い黒髪の女性が、誰かに腕を掴まれて驚きの声を上げたようだった。

(……ルチカ? また、黒髪の女性を…?)

 女性を掴んだ手の主・ルチカは、その女性の顔をじっと見ると、ペコリと頭を下げる。

「……失礼、人違いだった。驚かせてごめんなさい」

「あ、いいえ」

 その女性は、自分を掴んで来たのが美青年だったため(本当は女性だが)、少し頬を赤らめて答え、そして歩みを進めた。ルチカは遠い目でその後ろ姿を見ている。

「……おい」

「……!」

 ディルムッドは声をかけ、ルチカの肩をガッと掴んだ。驚いた様子でディルムッドを見上げるルチカ。ディルムッドは、先ほど帝国人にかけられたのと同じ言葉をかける。

「ルチカ。我らの後でもつけてきたのか?」

「……」

 灰青の瞳でジロリとディルムッドを睨み上げるルチカを、ディルムッドは大通りから人気ひとけのない脇道へとそのまま引っ張り込んだ。

「のんびり楽しく巨大樹観光ですケド」

「お前は巨大樹や土産店に目もくれず歩いていたじゃないか。動きで分かる。我らか、もしくは誰かを探していたのだろう?」

「……」

「とはいえ、私がこの街にいるのは知らなかったようだな。そうなれば、先ほど見かけた、例の帝国軍人達か……」

「……!」

 ルチカは素早くディルムッドの手を撥ね除け、そのまま股間を狙って足を蹴り上げる。が、察して手で防ぐディルムッド。



「……そこまで躊躇なく金的を狙うとは、本当に恐ろしいものだ。男ではまずできない攻撃だな」

「……か弱い女があなたみたいな巨人倒すには、これしかないデショ? ディルさんこそ、今までだったら反撃してくるタイミングじゃない。私が女だって分かった途端、なんか対応が甘くなってない?」

「当然だ。女性だとわかって足蹴にできるものか」

「……ご立派な騎士サマだことで。こっちは何も変わってないんですけど」

 そう言い捨てて、ディルムッドに握られていた足を外して距離を取るルチカ。

「女と甘く見ると、痛い目みるかもよ」

「そうかもしれないが、だからといって女性を足蹴にしてよい理由にはならない。今まで遠慮なく貴様を蹴っていたことを心配しているほどなのだが」

「……へーへー、ゴリッパ」

 ふう、とため息をつくルチカ。

「……この国って、ちょっと変だよね。帝国みたいに女性は蔑まれないけど、そうやって女性に甘く対応するし、機械士や職人に女性も滅多にいないし。帝国は女性はなんやかんや言われがちだけど、それでも機械士も職人も普通に女性もいるけどね」

「……そういえば、あちらは女性の騎士や兵士もいるな…。多くはないが…」

 ルチカの言葉に、ディルムッドも確かに…、と考える。ア王国では、ミラニアの戦士は例外として、女性の騎士や兵士はほとんどいない。

「……なのに帝国は女性は皇帝になれなくて、こっちは男女関係なく王位継承権だもんね。なんか、逆だよね。不思議だよね。ミリアさんも大変だね。でも、貴族の家は男の人しか家を継がないしね、ほんと不思議」

「……」

 ただ王家に仕えることに徹していたディルムッドは、考えもしなかった疑問だ。少し思案したが、帝国と聞いて、1つ思い出したことがあった。

「……そういえばルチカ。『銃』の件だが、出所に心当たりはないか?」

「何? 唐突に。まだ私を疑ってんの?」

「いや、そうではないが…。お前が作ったものでなければ、あれがア王国内で作られているとは、どうにも思えないのだ」

「……」

「……例えば、帝国から流れてきている、とか…」

「……さあね? わかんないな、私には」

 ルチカは間を置かずにそう答える。とぼけているわけでは無さそうだが…。ルチカは続ける。

「……ただ、こういう極端な技術の発展って、ものすごく抜きん出た誰かが突然、すごいアイデアを思いついて先駆者になって、いきなり広まるものだと思うよ。そういう人がア王国に現れたって、不思議じゃないと思うけどな。もちろん、帝国だかもっと他の国だかでも、同様だけど」

「……それは、お前でなくてか?」

 リカルドがルチカの技術をかなり評価していたことから、ディルムッドもその面においては一目置いている。ルチカは肩をすくめて苦笑いをした。

「結局、疑われてる? 私。そもそも、ア王国には、あれだけの爆発を抑えられる強度のある金属はなかったと思うよ」

「……まあ、いい。ああ、そうそう、帝国軍人は先ほど、この街の駐屯軍に捕らえさせたぞ。追っていたのなら、残念だったな」

「えっ? ちょっと、何、余計なことを……。泳がせて後つけてうまいこといったらかっさらおうと思ってたのに」

「では。私は食材を仕入れに来たのだ。用を済ませなければ」

 ミリアがこの街に宿泊していることは伏せて、ディルムッドはルチカを解放した。今日のところは何かを邪魔されることも無さそうだ。尾行だけは気をつけて、放置する。

 ディルムッドはそのまま、気を巡らせながら周辺をまた歩く。もう1つ、気になるのが……。

(……いた…。奴等は、隠密部隊の人間…)

 普通の観光客を装っているが、軍で隠密活動を行う部隊の人間が歩いていることに気付いたディルムッド。そっと気配を消して姿を潜め、様子を窺う。普通に観光をしているようでいながら、あちらも周りを窺っている様子だ。『仕事モード』であるのは間違いない。

(……先ほど、奴等の意識が一瞬、我らに向けられたように思うが…)

 ディルムッドは思い切って、すっと姿を現し、隠密の3人の前を堂々と歩いてみることにした。すれ違うが、特にこちらに反応は示さない。その後も少し離れたところで様子を窺ってみるが、こちらをつけてくる様子もなさそうだ。

(……何か、全く関係がない仕事なのだろうか。気にしすぎか……)

 ディルムッドはそう、自分を納得させ。念のため周辺に気を配りつつも宿に戻ることにした。



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