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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  2話「行く先は」(2)


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2話「行く先は」(2)


 翌日、リカルドは治療室から自室のベッドへと戻った。ゴナンの荷物が残されたままの部屋。キレイに整頓されているそれらを見ながら、リカルドは少し考え事をしている。

「さ、ルチカもいなかったことだし、本格的に作戦会議よ。リカルド、予想して、教えて」

 朝食を済ませ、リカルドの部屋へと集まった一行。ナイフは、ベッドの上で体を起こしているリカルドの前に、地図をザッと広げる。

「予想して、って。そんな雑な扱い…」

「あなたにしかできないのよ。傷は痛むでしょうけど、さ、早く」

「……」

 リカルドは、脇にある自分のノートを見ながら、地図に書き込み説明をしてゆく。

「…実は、この先の予測というのがまた、少し厄介なんだ。それで結論がまとめられていなくて、皆に話ができていなかったわけなんだけど」

「厄介?」

 エレーネの問いに、リカルドは頷く。

「…まず、水脈。僕らが辿っている水脈は。このウキ付近から、末広がりに広がっているとされているんだ」

 そういってリカルドは、帝国から王国までの広い範囲に印をつける。

「かなり広いわね…。これだけで予想を付けるのは難しいわね」

「そう、それで、気流の方なんだけど…。常時流れているとされているのが、この方角。帝国領からウキに向かってきた気流の続きだね」

 そう言って、ウキから南東へ向かう流れを記すリカルド。

「そして、今の季節から数ヵ月間、流れるとされているのが、この方角。さっきの気流より、少し低い位置を吹いていると言われている。季節の渡り鳥が冬を越すための移動に、よく使っているんだって」

そう言って、西の方向へもう1本、線を引く。すぐに帝国領内に入る流れだ。

「…で、もう1本。これも季節風で、もうすぐ吹き終わるんだけど、こっちの方向。さらに上層で吹いている。今の時期のウキは、上空で何本もの気流が複雑に行き交っているんだね。これと土地の豊かさと関係があるのかな…」

そう呟きつつも、南西の方にも1本引く。これも帝国領内へと向かう。

「…水脈の範囲からすると、帝国領内の方が広くて多い。ただし、どちらも季節風だ。南東方面は常時吹いている風だけど、水脈の範囲は狭い」

「……」

 地図を見て一同は考え込む。水脈と気流、この2つのヒントで動いてきているため、決め手に欠けるのだ。

「…ミリア。巨大鳥は、国境なんかを気にしている雰囲気はなかったのよね?」

 エレーネはミリアに尋ねる。ミリアは深く頷いた。

「ええ。わたくしが乗っているときも、特に境界は気にせず帝国と王国を行き来していたように思うわ。そもそも国境なんて、人間が勝手に決めて引いた境界線だもの」

「そうね…」

 エレーネも嘆息する。とにかく手がかりがない。と、ふとリカルドは、思い出したように口にした。

「…そういえば、あの卵男…。シマキ、だったけ? 彼が言っていたね。『我々が、あの鳥達を統べている訳ではない』って」

「え、ええ。そうね」

 訊かれてミリアは頷いた。ミリアの叫びにシマキが応えたときの台詞だ。

「…鳥"達”、と言った。つまり、やっぱり、巨大鳥はたくさんいる…」

「……!」

「そして、巨大鳥の行き先を絶対に明かそうとしなかったということは、あの鳥の行く先に卵があるか、もしくはあの鳥自身が卵を産むのかのどちらか、ということかもしれない」

 顎に手を当てて考えるリカルド。さらにエレーネに尋ねた。

「僕ははっきりとは見れなかったけど、彼らが乗っていた馬は6本足だったんだよね、エレーネ?」

「…ええ。足も長かったし胴も長くて、『馬』と呼ぶべきかも分からないくらい、馬に似ている何かの生き物、という感じだったわ。そして、とても速かった…」

「…彼らの故郷は、そういう、規格外の生き物たちが暮らす場所なんだろうか…」

 リカルドは考える。彼らは巨大鳥のことを『あの子』と呼んでいた。ということは、あの鳥はあの大きさでも、まだ幼体なのか。そうすると、卵を産むのはもっと先なのか。それとも故郷の方に、成体で卵を産んでいる巨大鳥が別にいるのか。なぜあの鳥と彼らは、追われる危険を知りながら世界を飛び回るのか。そして、それを狙う者に危害を加えるのか…。

「…リカルド。貴殿の、その、学者としての勘では、鳥の行き先を捉えられてはいないのか?」

 行き詰まった空気を打開するべく、ディルムッドが尋ねる。

「そうだね…。こればかりは、なんとも言えないなあ…」

 そうぼやきながらも、リカルドはあの日、別れ際に鳥の少女コチが空の一点を見つめていたことを思い出していた。

(彼女が見つめていた方角は、『南東』だった…。彼女はこっそり、方角を教えてくれていたのだろうか…。いや、あまりにも都合良く考えすぎか…)

 そう考えてふと、ミリアの顔を見つめるリカルド。そしてハッと思い立つ。

「…僕なんかよりも、ずっと巨大鳥に乗っていたミリアの意見を聞きたいな。君の『勘』では、どっちだと思う?」

「…え? わたくし?」

 訊かれてミリアは、なぜ自分に尋ねてきたのかと少し意外そうな顔をし、しかし地図を見て、真剣な表情で考えた。

「…西の方ではないかしら…。こう、水脈をジグザグに行き来している感じだし、水がたくさんあるほうに行くような気がするのだけれど…。ああ、そうなると、南西ということもあり得るかしら…」

「……、そうか…。西か、南西……」

 それを聞き、リカルドは少し瞳を光らせた。一方でディルムッドは慌てる。



「…しかし、帝国領内に入るとなると、いろいろと面倒が多い。そもそも、リカルドをこんな目に遭わせたのも帝国人であるし、ミリア様を帝国にお連れするのは流石に…」

「そうだね…」

 リカルドはしかし、腕を組んでまた考え込む。

「ああ、早く決断したいけど、なかなか決め手に欠けるな。こうしている間にも、ゴナンは遠ざかって行ってしまう…」

「…リカルド。何度も言うけど、ゴナンは1人でも大丈夫よ。サバイバル能力が高いし、しかも巨大鳥と一緒だと、わりと安全な旅だったのよね? ミリア」

「ええ、そうよ。わたくしだって平気だったくらいだもの。きっと大丈夫よ」

 力強く頷くミリア。



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