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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 11話「もう一つの遺跡」(2)
11話「もう一つの遺跡」(2)
それから2日探索したが、いまだ巨大鳥の気配はない。
3日目の正午頃、お昼ご飯のために一時集合し、遺跡の外で休憩する一行。食後、「ちょっと失礼するわね」とミリアが席を立つ。用を足すようで、トイレとして設置した草むらの方のテントへと向かっており、皆は気にしないようにする。もちろん、ディルムッドはそれとなく気配だけは読んでいたが…。
「……!」
ディルムッドははっと立ち上がった、ナイフも気づき、やはり立って、こちらに戻ってきていたミリアの方を見る。そこには、「きゃ…」と声を上げるミリアの腕を引くルチカの姿があった。一同は皆、ミリアの方へと駆けていく。
「ルチカ。いつの間に…!」
「ルチカ! 俺が鳥のこと、たくさん教えたから、もうミリアはいいだろって言っただろ!」
ミリアの腕を引きどこかへ連れ去ろうとしているルチカに、ゴナンが大声で呼びかける。ルチカは歩みを止めないまま答える。
「だーかーら! ミリアさん……の影武者の普通の王女…? なんだったっけ?」
「ルチカ。わたくしは、実は王女の影武者の普通のミリアよ」
「そう、それそれ。影武者の普通のミリアさんは3ヵ月も鳥に乗ってたんでしょ? もっと聞きたいことがあるんだってば」
「だから、何も連れ去る必要はないじゃないか。一緒に話を聞こう」
リカルドも追いながらそう声をかける。
「くどい! だから、あなたたちは敵! 一緒に聞いたら意味がない! 前も同じこと言った!」
「ルチカ…! この前は薬と、機械、ありがとう」
「ゴナン! それを言うタイミングは多分、今じゃない!」
と、思わずルチカがゴナンにツッコんだ隙を狙って、ディルムッドが飛んだ。ものすごい跳躍力で2人の前に到達すると、片手に持っているルチカの棒を蹴り飛ばす。
「……ちっ」
ルチカはミリアの腕をさらに引こうとするが、ディルムッドはそのルチカの腕をぐっと握った。握力の強さに思わずミリアの手を放す。その隙にミリアをナイフの方へと逃がすディルムッド。
「……つ…」
いくら身の軽いルチカでも、ディルムッドに力で来られるとどうしようもない。そのまま腕ごとルチカの身体を持ち上げる。
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「いい加減、ミリア様を狙うのをやめろ」
「言われて止めるわけないじゃん。痛いってば、腕もげる!」
「離すとまた、ちょこまかとされ…」
「ディル!」
と、ナイフがディルムッドに叫ぶ。同時にルチカは空いている方の手で袋を投げつけた。例の催涙剤である。一気にぶわっと白煙が上がり、手の力が緩んだ隙にルチカはスッと腕を外し、逃げようとするが…。
「……!」
ディルムッドはそのまま煙の中でルチカの胴を蹴った。軽い身体は激しく飛ばされ、地面にドサリと転がる。
「……ゴホッ、ゴホ……」
今回ばかりはもろに蹴りを受けたルチカ。受け身も取れなかったようで、痛みに悶絶している。
「……ゴホッ……。目閉じて息も止めて蹴り当てられるって、ちょっとずるくない…?」
「鍛え方が違う」
ディルムッドは煙から抜け出し、なかなか立ち上がれないでいるルチカの方へ、悠々と歩いて来た。
「…その割には、抜剣もせず、力加減までしてくださったようで…、ゴホッ」
「……お前のような細身の男、私が全力で蹴ると、ボッキリ折れてしまうぞ」
「……」
ディルムッドのその言葉に、ルチカは少し何か言いたげな顔をした。が、すぐに目線を右上へとずらす。また何かの策謀かと、ルチカから目を離さずにいるディルムッドだったが…。
「……あ! 巨大鳥!」
目のいいゴナンが叫んだ。ちょうどルチカの視線の先に、見覚えのある茶色い鳥が飛んでいるのが見える。ゴナンとナイフは、そちらを追うべく馬の方へと駆け出した。エレーネとミリア、リカルドも続く。
「……ディルさんは鳥、追わなくてもいいの?」
ルチカはじっとディルムッドを睨みあげる。
「こういうときのために、皆でいるのだ。今は、私はお前の相手が担当だ」
「へー、以心伝心、素敵なお仲間ですこと」
ようやく立ち上がったルチカの前に立ちはだかるディルムッド。と、今度はルチカはハッと右の方を見た。空ではなく地上だ。
「……?」
そのままルチカは、もう一個催涙剤をディルムッドに投げつける。再び目を閉じ息を止めたまま煙の中を抜けるディルムッド。なぜ同じことをしてきたのかとルチカの姿を探すと、ルチカは何かを追って右側の方に走っていた。その先にいるのは…。
「……卵男……、シマキか……!」
「えっ?」
鳥を追おうとしていたリカルドがこちらを振り向く。シマキが、巨大鳥の卵のようなものを背負って逃げている。いや、これはいつもの「釣り」のような気もするが……。ルチカは気にせず、シマキを追い続ける。
「ディル! シマキが卵を背負っているということは、吹き矢の奴も潜んでいるかもしれない、気をつけて」
「ああ、リカルド、お前もな」
リカルドは毒矢を受けても大丈夫なため、方向転換し、ディルムッドの方に合流してシマキを追うことにする。
膝くらいまでの草が生い茂る草むらの中、シマキ、ルチカ、ディルムッド&リカルドが走り続けるが…。
急にシマキの姿がひゅっと消えた。
「……!」
「待て…!」
続いてルチカが足を止め、足元を一瞬見た後、やはり姿を消す。
「何なんだ…?」
ディルムッドとリカルドは、2人が姿を消した場所へと到達した。そこには、草に埋もれた中に、古い遺跡の入口のような穴が地面に空いている。
「……ここは…。2人はこの中に潜っていったのか…?」
「石段があるね。中に通路が続いているようだ……」
中を覗き込むリカルド。
「これが、資料にあったってゴナンが教えてくれた、『入り方が分からないもう一つの遺跡』かな…? 入り方が分からないどころか、とても入りやすそうだけど…」
リカルドはそう、首を傾げる。ディルムッドはそんなリカルドの様子を注意深く見ていた。
(…ただの遺跡、には、特段、拒否反応は出ないのか…。中に巨大樹を描いたものがあるのかどうかが、カギのようだな……)
「ディル? 中に入ってみる?」
「あ、ああ…、そうだな。シマキを抑えたいが、正直、私1人ではまた、ルチカに手を焼く恐れがある。一緒に頼む」
「ショーン騎士を手玉に取るなんて、本当に大した機械士だな」
リカルドはそう微笑みながら、ディルムッドに続いて石段を降りていく。と……。
ゴゴゴゴ、と音が鳴り響き始めた。途端に、2人が入ってきた入口が閉じ始める。
「えっ?」
リカルドは慌てて出ようとするが間に合わず、頭上でピシャリ、と扉が閉まってしまった。
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