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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 13話「うごめく、何か」(4)
13話「うごめく、何か」(4)
幌馬車を走らせ、遺跡の方へと戻ってきた3人。まだ昼間なのに、馬2頭が繋げられていることに気がつく。
「あら? 今日はもう戻ってきているのね。どうしたのかしら?」
「……何かがあったのかもしれません…」
御者をしていたディルムッドは急ぎ馬車を降り、遺跡内へと下った。ミリアとエレーネも続く。
「ただいま戻った。何かあったのか?」
そう声をかけるディルムッドは、室内の様子に少しだけ動きを止める。ゴナンがぐったりと寝込んでいて、ナイフがそれを看病している様子だ。そしてリカルドは石積みの壁により掛かりうなだれている。
「……あら、もう戻ってきたの? もう何日か休んでいればよかったのに」
3人に気づき、ナイフがそう応えた。
「ああ、私もそう勧めたのだが……」
「わたくしはもう大丈夫。心配をかけて申し訳ないわ」
すっと背筋を伸ばしてミリアが答えたが、すぐにゴナンの様子の異変に気づき、駆け寄る。
「ゴナン? どうしたの? またお熱が出たのかしら? それにしては……」
「熱じゃなくて、毒よ」
「えっ?」
ミリアとディルムッドが同時に声を上げる。
「ゴナンが1人で巨大鳥と接触して、コチちゃんとお話していたら、例の毒矢を吹かれたんですって」
「……ゴナン…!」
真っ青になってゴナンにすがりつくミリア。ナイフは安心させるようにミリアに声をかける。
「ミリア、心配しないで。マリアーナ先生にズビダの毒の解毒剤を作ってもらっていたの。ちゃんとそのお薬は飲めているから、大丈夫よ。毒が抜けるまでもう少しかかるから、回復のために寝ているだけ」
「マリアーナ先生に? まあ、そうだったのね…」
「それで、リカルドはどうしたのだ?」
ほっとするミリアの後ろでディルムッドが尋ねる。ナイフは幾度とも知れないため息を漏らした。
「…ああ、あっちは、ゴナンを危険な目に遭わせてしまったことに落ち込んで反省しているだけだから、放置で大丈夫よ。思う存分、反省させてあげて」
「いや、しかし…」
ディルムッドはリカルドの方に近づき、様子を覗き込む。
「リカルド、貴殿も毒矢を受けたのではないか? 大丈夫か?」
「えっ? なぜ、それを?」
リカルドが顔を上げてディルムッドに尋ねる。困ったようにリカルドの首を指すディルムッド。
「なぜも何も…。その、まだ、貴殿の首に、矢が刺さっているからだ」
「えっ? あれっ」
リカルドは慌てて首元に手を遣ると、確かにハイネックの上から吹き矢がしっかりと刺さっていた。
「しまった…。毒を受けたことには気付いていたんだが……。ゴナンが心配でそれどころではなかった……」
「……リカルド……?」
ミリアとエレーネも、不思議そうな表情でリカルドを見ている。毒矢が刺さり続けているのにまるで平気な様子なのだ。同じ毒をくらったゴナンが解毒剤を飲んでもなお寝込んでいる状況と比べると、明らかに不自然だ。しかも、そもそもはウキの遺跡近くで重傷を負っていたはずの身体だ。
3人の後ろから、ナイフが「打ち明けるチャンスじゃないの? 今!」と目線でリカルドに訴えてくるが、リカルドは目をそらし、慌てて取り繕う。
「……ああ、だからほら、僕は体質でね。それにこの上衣はコパの毛でできているんだよ。滑らかだけど丈夫な、希少な織物だから、このくらいの針はある程度防いでくれるんだよ」
「……」
もちろん、本当はしっかりと首に刺さっていたのだが、そのごまかしに3人は首を傾げつつも納得したようだった。ナイフはまた、ひっそりとため息をつく。
「……う…」
と、ゴナンが僅かに声を上げた。リカルドが、ミリアと逆方向からすがりつく。
「ゴナン、大丈夫?」
「う……ん……」
そうして身体を動かそうとするが、すぐに眉をひそめる。
「……手と足が……、まだ、痺れてて……、うまく、動かない……」
「ゴナン…。大丈夫だよ。もう少ししたら毒が抜けるから」
頭は動かせて、話すのも問題無さそうだ。ゴナンは不安げな表情でリカルドを見る。
「……本当に…? ちゃんと、戻る……?」
「大丈夫だって。マリアーナ先生の解毒剤を飲んでいるんだよ。ルチカだって、この毒を食らった翌日にウキのマーケットを歩き回ってたじゃないか。心配ないよ」
先ほどのナイフの忠告に従い、極力、安心させるような笑顔でゴナンに応えるリカルド。と、ミリアが身体を震わせている。その様子に、ゴナンは声をかけた。
「……ミリア? お前、お腹は大丈夫?」
自分の方が大変な目に遭っているのに、ミリアの体調を心配するゴナン。ミリアはそっと、ゴナンの左腕に触れる。
「……ゴナン、ごめんなさい…。わたくしの刺繍の服を今日、着ていたのね……。これは、わたくしのせいだわ……」
「……? ミリア…、何言ってるんだよ。関係ないよ」
「だって…、あなたが毒を受けてしまうなんて、こんな……」
「ミリア。考えすぎだよ」
リカルドも優しく微笑みながら、そう慰める。
「ゴナンのこれは、ミリアの不運なんかじゃない。さらに言えば、巨大鳥の呪いでもない。ただの悪意を持った人間による攻撃だ。性質がまったく違うものだよ」
「……」
リカルドのその言葉を聞き、その黒曜石の瞳をじっと深緑の瞳で見ていたが、そっとゴナンの手を取り、さすり始めたミリア。
「……ミリア?」
「痺れには、これがいいんでしょう? いつも、わたくしがしてもらうばかりだったから……」
「ミリア…。でも、お前、お腹は……」
ミリアは伏し目になりながら「わたくしはもう、治ったわ」と応え、小さな手でゴナンの骨張った手や前腕を一生懸命さする。「そんなことをしても変わらないんじゃ…」とリカルドが声をかけようとしたが、ナイフが目でそれを制した。
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