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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 7話「鋭い男」(1)
7話「鋭い男」(1)
ゴナンはベッドの上で、目を覚ました。
熱は相変わらず高い。しかし、額に濡らしたタオルが乗せられ、脇の間にも氷嚢が挟まれていて、心地よい。ボンヤリとした頭で、自分の今の状況を思い出すゴナン。
(…あれ? 俺、熱を出して、街に薬を買いに来てて……)
と、部屋の中にもう1人、誰かがいるのに気付いた。黒髪で背の高い…。
「……リカルド……?」
ゴナンは小さな声でそう、呼びかける。呼ばれた男性は振り返った、が…。
「……あ……。ゲオルク、さん…?」
「おお、気付いたか、少年。大丈夫か?」
それはリカルドではなく、黒髪にアメジスト色の瞳を持つ、ウキの街で出会った帝国人の旅人、ゲオルク・シュナイダーであった。少しガッカリするゴナン。しかし、なぜ彼とともにここにいるのかが分からず、怪訝な顔になる。その様子を見てゲオルクは説明する。
「いやあ、驚いたぞ。有名な観光地だと聞いて立ち寄ってみたら、見知った顔が歩いていて、しかも目の前で倒れたものだからね」
「……あ…」
あのまま倒れてしまったのか、とゴナンは自分に呆れる。慌てて体を起こそうとするが、くらりとめまいがする。
「おいおい、無理をするな。ひどい熱なんだぞ」
「すみません……。ご迷惑を…。ありがとう、ございました……」
ゲオルクはゴナンの体を支えて起こさせた。
「君が起きたら、この薬を飲ませるように医師に言われているんだ。さあ」
「えっ…」
サイドテーブルを見ると、熱冷ましらしき薬が用意されている。
「薬に、お医者さんまで…。すみません…。俺…、お金があまりなくて…、いつ、返せるか……」
「子どもがそんな余計なことを気にしなくていい。体を治すことが先決だよ。さあ、まずは薬を飲むんだ」
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ゲオルクは優しくゴナンを慰めながら、薬を飲ませてくれた。粉末の薬を水でゴクリと飲んだのを確認して、またゴナンを寝せて、氷嚢を脇に挟ませて額にぬれタオルを乗せる。
「……ありがとう、ございます…」
礼を言ってゴナンは、部屋を見回す。ゴナンを寝せるために2人部屋を取ってくれたようだ。ただでさえ宿代が高いこの街、ゴナンは申し訳ない気持ちに襲われる。
「…あの…、薬で動けるようになったら…、俺、すぐに自分の野営の場所に戻って、そこで、休みます……」
「ん? 野営? 宿を取っているのではないのか?」
「いえ…。この街は、宿、高すぎて……、近くで、野営を……」
「というか、君は1人なのか? あの仲間たちも一緒ではなく?」
「あ、はい、ええと……」
説明しようとするゴナンだが、何をどう話せばいいかの判断に困る。高熱でボンヤリしているのもあって、次の句が出なかった。そうして、眠気が襲ってくる。
「…ああ、説明はいいよ。まずは眠るといい」
ここでゴナンは、荷物をそこに置いてきてしまっていることに気付く。
「……野営の、場所に、ナイフ……」
「ん? ナイフちゃんがいるのか?」
「……ナイフと、バンダナと……、剣も、全部、置いてきてて、大事な……、リカルドが……。バンダナ…」
「ああ、刃物の方のナイフか、ややこしいな。その野営の場所を教えてくれるか?」
「大通りを……、南にずっと進んだところにある…。森の、小さな、泉の、近くに……」
「まっすぐ、南だな。わかった。安心して、まずは寝なさい」
ゲオルクはゴナンの頭を優しくなでた。ゴナンは何度か「バンダナを…」と口にしながら、薬が効いて眠りに入っていった。
* * *
次にゴナンが目を覚ましたのは、翌朝だった。目を開き、頭を少し動かすと、ガチャリと耳元で金属の音が鳴る。
「?」
そちらに顔を向けると、枕の上になぜかゴナンの剣が置かれている。逆側を見ると、ナイフと弓に、矢を入れている筒もある。そして顔のすぐ横にはバンダナが畳んで置いてある。つまり、武器類に囲まれて寝ている。
「……?」
どういう状況かわからず動けずにいると、部屋にゲオルクが入ってきた。朝食を済ませてきたようだ。
「おお、おはよう。起きたか」
「おはようございます……。…あの……、これは……?」
「ああ、君の野営地を見つけて荷物を引き上げてきたんだ。昨日、バンダナやナイフや剣が大切だと、うわ言でしきりに言っていたから、安心できるようにと、一緒に寝せていた」
「…一緒に……? あ、ありがとうございます……」
ゴナンはバンダナを手に取り、布団の中でギュッと握った。ゲオルクは微笑みながらその様子を見守り、そしてゴナンの額に手を当てる。
「熱は…、あまり下がってはいないようだな。腹は減ってないか?」
首を横に振るゴナン。
「そうか…。何か腹には入れたほうが良いのだろうが……」
「…あ、あの……」
ゴナンはフラフラと体を起こした。
「……その、薬を飲んだら、俺、戻ります…。野営の寝床で寝ていれば、多分、治るので……。治ったら、獲物をたくさん獲って……、お金を、薬代とお医者さん代と、宿代を…、返します……」
「……」
全く動ける様子でもなさそうなのに、そんな申し出をするゴナンを、ゲオルクは驚いた表情で見ている。しかし、口元をニヤリとさせた。
「……戻るのは、無理だな」
「……?」
「君が上手につくっていたあの、枝と草のシェルター。なかなかの出来ではあったが、あれは壊してきてしまった」
「えっ?」
「君は起きたら絶対にあそこに戻ると言い出すと思ってな。先手必勝だ。戻る場所はもうないのだから、諦めてここで寝て、治すんだ」
「……」
「それに、多分、明日は雨だ。そんな最中に高熱の君を野ざらしにするわけにはいかないよ。何か、君が食べられそうなものをそこらで見繕ってくるから、口に入れて薬を飲んで、休むんだよ」
そう言って、再び部屋を出るゲオルク。どうすればいいか困って、ひとまず、共に寝るには邪魔な剣とナイフと弓矢をサイドテーブルの上に除ける。大事なものを一緒に寝せる、という発想が妙におかしかった。
(…それに、あの『住み処』、壊しちゃうなんて……)
我ながら上手にできて、少し愛着が湧いていたあの寝床を思いながら、そしてやはり、優しげにしているゲオルクの奥底に少し怖さを感じながら、ゴナンはまた眠りに入っていく。
↓次の話↓
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