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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  16話「ねがいごと」(8)


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16話「ねがいごと」(8)


「……?」

 ゴナンとミリアの前に急に現れた、3人の人物。皆、黒のマントを頭からかぶり黒いマスクも付けており、顔かたちが全く見えない。おそらく3人とも男性のようではあるが…。いつもの帝国軍人達ではない。まるで違う雰囲気だ。

 あまりにも尋常ではないその出で立ちに、ゴナンは即座にミリアを背後に護って剣を抜いた。

「……何か、用、ですか…?」

「……」

 ミリアはゴナンの背中にすがりつく。3人の目は、明らかにミリアを狙っているのだ。その視線を感じて、ギュッとゴナンの上衣を握った。

 何も答えない男共に、ゴナンは施設の出口を確認しながらジリジリと後退する。ミリアを何とか無事に、逃さなければ。ミリアは1人で馬には乗れるだろうか。管理人の力は借りられないか……。



 と、男の1人が抜剣しゴナンに斬りかかってきた。ゴナンはその剣を受ける。細い見た目にそぐわず予想外に力強い防御を受け、男は少し驚いたようだったが、すぐに二の太刀、三の太刀を浴びせる。

「ミ、…サリー、離れないで……!」

「……ゴナン!」

 ゴナンは剣戟を防ぎながら、念のため偽名でミリアに声をかけた。ディルムッドがゴナンに徹底して教えている、『護る戦い方』。ゴナンは一人旅になった間、朝夕の鍛錬でその型をひたすら実直に繰り返していた。かつて振るのも重かった剣も、今はしっかりと相手を跳ね返せるだけの力をもって握ることができている。

 簡単に片が付くと思っていたのか、黒服の男は舌打ちをすると、いったん身を引いた。そして残りの2人も剣を抜き、今度は3人がかりで襲いかかろうと陣を構える。

 ……と、そのとき。

「おい」

 そう声をかけ、剣の柄に手をかけながら、ディルムッドがゴナンの横に並び立った。

「……!」

「お前ら、何用だ」

 ギロリと目で威圧するディルムッド。気圧された様子の3人は、ディルムッドの姿をじっと確認して一瞬、顔を見合わせると、軽く頷き、すぐにバッとちりぢりに逃げ出した。

「ディル、追う?」

 ナイフがルチカを抑えたまま、声をかける。

「ああ、頼む。ただ深追いはなしだ。素性が知れない」 

「オッケー」

 そう言ってルチカをエレーネに任せて、ナイフは乗ってきた馬へと向かう。剣から手を離し、息をつくディルムッド。

(……先ほどのあの反応、明らかに私がディルムッド・ショーンだと分かっている風だった。だからこそ、大人しく引いたのだろう。それに、ミリア様を狙っていた。あれは我が国の剣技…。帝国人ではない……)

 だからこそ、同じ剣技を教えているゴナンの型通りの技で防ぐことができたのであろう。厳しい顔で考え込むディルムッドに、剣を収めたゴナンが話しかけた。

「ディル…? 何で、ここに? ナイフちゃんもいたような…」

「……あ、ああ。偶然だな、ゴナン。偶然、通りかかって……」

 かなり無理のある言い訳をするディルムッド。首を傾げるゴナンに、ディルムッドはふっと笑いかける。

「ゴナン。鍛錬の成果が出ていたな。本当はもっと早く顔を出せたのだが、ついお前の剣技を見守ってしまった」

「……!」

「基本通りのことがしっかりとできていた。これからは、もっと応用の技も磨かねばな」

 そう言われてゴナンは、淡い琥珀色の瞳を嬉しそうに輝かせる。ディルムッドは膝を曲げ、ゴナンの背中にしがみついたままのミリアに声をかけた。

「ミリア様、大事はございませんか?」

「ええ。ゴナンが護ってくれたから。怖くもなかったわ」

 そう言いながらも、ゴナンの服を握る手にギュッと力が入ったままだ。ディルムッドは優しく微笑みかけ、ミリアに頭を下げる。

「では、引き続き『お散歩』をごゆっくり…。何か、話でもしながら……」

「えっ?」

「失礼します」

 そういってその場を立ち去るディルムッド。施設の壁と森の間に身を潜めているエレーネとルチカの方へさっとやってくる。ルチカはエレーネによって、先ほどと変わらず地面に押さえ込まれている。エレーネは関節技の心得もあるのか、腕をしっかりめられ動けずにいるままのルチカ。ディルムッドはしゃがみ込んで、地に伏すルチカに尋ねた。

「ルチカ。さっきの男共をどのような状況で見つけたのか、教えてくれるか?」

「いや、だからシャールメールに向かって飛んでて、ちょっと休憩で降り立ったら、街道の脇で明らかに怪しい集団を見かけてさ。だって、おかしいでしょ? 顔も頭も隠した黒ずくめの集団」

「……お前はなぜ、シャールメールへ向かっていた?」

 そう尋ねるディルムッドに、ルチカはしまった、という顔をして口を閉じる。しかし、『気流と水脈』という同じヒントを元に鳥を追っている以上、目的地が同じになるのは当然かもしれない。自分たちもシャールメールを目指すことは話さず、そのまま質問を続ける。 

「奴等がどこから来たのかは見ていないか?」

「残念ながら見てない。集まってるとこに遭遇したから」

「そうか……」

「それにしても、それだけで後を付けていくなんて、ちょっと考えなしすぎるんじゃない? 無謀よ。危ないわよ」

 エレーネがまた、呆れたようにそう言う。

「しょうがないじゃん。気になったんだからサ」

「…まあ、知らないけどね」

「ともかく、もう私はいいでしょ? 離してよ」

 そう言うルチカに、エレーネはディルムッドと顔を見合わせた。

「……いや。あの2人のお散歩が終わるまではこのままだ」

「えー。……いや、何? お散歩?」

「お散歩だ」

「…こんな場所に、お散歩?」

 臭いから長居したくないんだけど、とぶつやくルチカを他所に、ディルムッドは厳しい表情で先ほどの輩について考えを巡らせていた。





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