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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  1話「“大丈夫”」(3)


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1話「“大丈夫”」(3)


 …が、シマキがそれを止めた。

「待て、コチ! …その男は、何となくだが、まだ、生きる気がする…」

「えっ、でも…。こんなに傷を負っていて、剣で心臓を貫かれてたんだよ?」

「そうだけど…、『俺の勘』だ。その男は、死なないように思う。しつこくて、しぶとい男のような、そんな気がする…」

「……!」

 そのシマキの言葉に、コチは止まる。胸の内でちっと舌打ちするリカルドとナイフ。そんな2人の思惑を知らないミリアは、コチとシマキに対して叫んだ。

「命を張って守ってくれた男の最期の願いも聞き遂げられないなんて。巨大鳥を統べる民族とは、かくも浅薄で仁義も持たない方々なのかしら!」

「……!」

 その言葉に、シマキは苦々しく答えた。

「…我々が、あの鳥達を統べている訳ではない…」

「そんなのどうでもいいわ。リカルドの最期の望みを、果たしてあげて…!」

 瞳に涙を浮かべながらそう叫ぶミリア。リカルドはミリアに対して少し申し訳ない心地を抱きながらも、コチに対して苦しそうな微笑みを浮かべた。

「…せめて…、ゴナンを、早く戻してほしい…。ここで待っていれば、いいのかな…?」

「ああ…! 最期にゴナンに会いたいのね…!」

 ナイフがまた、少し過剰な演技で付け加える。コチはシマキと目を見合わせた。そしてリカルドに伝える。

「…今日が『ここの水』の、最後の日だった。『あの子』はもう、戻ってこない。次の土地へ行った」

「……えっ?」

「私たちも『あの子』を探して追わないといけない。じゃあ」

 ハスキーな声でそう述べて去ろうとするコチ。

「ま、待って…。では、ゴナンは、どこに…」

 そう、うめくように問うリカルドに、コチは何か答えようとしたが、またシマキが止めた。

「やめろ。これ以上、『あの子』を危機にさらす気か!」

「……」

 巨大鳥の次の行き先がバレてしまうことを恐れているようだ。しかしコチは、戸惑う。

「…でも…」

「コチ、王国人を信じるな」

「……!」

 その言葉に、コチは表情を凍らせ、すっと口を閉じた。そして6本足の馬に乗ったシマキに続いて、コチも馬の方へ向かう。

「…ま、待って…! ゴナンを、ゴナンを…。あの子は1人だと、他の土地のことがまるで分からないんだ…。ゴナンを返してくれ。どこに…!」

 リカルドがさらに這いずりながら、コチへと訴える。コチはぐっと、空の一点を見つめた。そしてもう一度リカルドを見て、6本足の白馬に飛び乗った。すぐに馬はいななき、そして風のように一瞬でその場を去った。



「…何? あの馬…。普通の馬の何倍も速い…!」

 驚くナイフの横で、エレーネは去った馬の方をじっと睨んでいる。ミリアがあることに気付いて、エレーネに小声で話しかけた。

「…エレーネ…、あの、見間違えでなければ…。さっきあの卵男が、馬に飲ませていたの、あなたの常備薬と同じ瓶だったように思うのだけれど…」

「……!」

 エレーネはハッとミリアを見る。しかし、すぐに表情は平静を戻した。

「…そうだったかしら。きっと気のせいよ…」

「……?」

 と、ドサリと音がした。リカルドが痛みに耐えきれず、ついに気を失ったのだ。

「…リカルド…、安らかに…」

 ディルムッドが苦悶の表情で、そう悼む。エレーネもミリアも、リカルドに向かって目を閉じ、弔いの礼を行った。そして、ミリアは嗚咽し始める。エレーネは哀しみを押しつぶすような表情で尋ねた。

「……埋葬は、どうするべきかしら…。ナイフ、彼の故郷はどこだか知っている? ああ、でも、確か故郷には戻りたがっていないのよね…?」

「…先生方の元でよいだろう…。街に火葬場はあるのだろうか…。墓地は…。もしくは、この死地の場で。いや、しかし、先生方にも死に顔をお見せすべきか…」

「えっ? ま、待って…!」

 ナイフは慌てた。うっかり、リカルドが燃やされそうになっている。

「…大丈夫よ、ほら! リカルドには治療が必要だわ。ひとまず、街に戻りましょ。この男達の処理は、街の自警団に任せましょう」

「…治療?」

ディルムッドは驚いて脈を取った。弱くはあるが、確かに脈を感じられる。

「…リカルド…、生きている…?」

「さあ、急ぎましょう…! リカルドは私の馬に乗せて、私に縛り付けて。エレーネ。リカルドの馬も一緒に引いてもらえる? ディルは奴等の武器を回収しておいて。拘束はしているけど、念のため。奴等の馬も放してしまいましょう」

「ええ…。わかったわ…」

「わかった、急ごう…!」

 しかし一瞬、ナイフとディルムッドがピクリと反応し、周囲の気配を窺った。

「……?」

 2人は顔を見合わせる。帝国軍人ではない何かの殺気を感じたように思ったのだが、やはり一瞬だった。

(……前にこの遺跡に来たときと同じ…)

 もしかしたら、姿を表さなかった巨大鳥の仲間の「吹き矢の主」かもしれない。ひとまずは捨て置くことにするナイフとディルムッド。

 そうして一行は、騒乱の地を後にする。



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