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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 4話「老人と少年」(4)
4話「老人と少年」(4)
それから数日経っても巨大鳥は戻ってこない。下手にこの場を動くこともできず、薪集めや狩りに精を出すゴナン。なにせ巨大鳥の羽で作った矢が、面白いように獲物に当たるのだ。獲りすぎないように気をつけても、つい楽しくなって射ってしまう。その日は鳥ではなく、なんとミニボアを矢で仕留めた。
「…さっき、罠にリコルルも2匹かかっていたのに、また獲りすぎちゃった…」
念のため、しめずにいたリコルルは逃がすゴナン。ミニボアはミニという名は付いていても、ゴナン1人なら5日間は腹を満たせるほどの肉の量だ。
「…こんな大きな獲物を一矢で仕留められるなんて、いったいどうなってるんだろう?」
ゴナンは巨大鳥の羽の矢をじっと見る。作った自分がこう思うのも何だが、実にお粗末な矢だ。真っすぐ飛ぶのも不思議なくらいだ。どうにも、これに頼り切るのは良くない気がしてきて、鍛錬では正規の矢を使うように努めている。
「…肉を干して、半分は燻製にして…。燻製肉も割と溜まってきたけど…」
まだ午後も半ば。日が暮れるまで時間がある。ゴナンは、これまで作った干し肉や燻製を保管している場所を見た。
「…あの塩の岩でこんなに美味しくできました、って、持っていこうかな…」
あの老人の怖さと人恋しさを天秤に掛けた結果、そう決断したゴナン。肉をいくつかピックアップして葉に包み、また老人宅へと向かった。
今日は、老人は外にいた。かまどの前に座って火加減をしているようだ。
「…こんにちは…」
ゴナンはおずおずと挨拶をする。ぎろり、と睨んでくる老人。
「…なんだ、巨大鳥が来たのか? 野生児」
「…ち、違います…。あの、これ。いただいた塩の岩の塩、いや、岩の塩の岩…? で、美味しくできたので…」
そういって干し肉と燻製肉を差し出すゴナン。老人はジロリと睨むと、顎で家屋の方を指した。受け取ってはもらえるらしい。厨房の方へと向かうゴナン。
ろくろの作業場を通ると、数日前にゴナンが調理した肉を盛り付けた皿が置いてある。空ということは、食べてはくれたようだ。そのまま放置してあるのも気になるが…。
厨房の脇の食料保管庫に肉を納め、ついでに皿を洗って、屋内に戻るゴナン。と、先日、老人がごっそり割ってしまった陶器の棚に目を止めた。割れていない器が1枚だけ残っている。そしてその脇には、なんだか不思議な存在感を放つ石がある。
(…? なんだろう、なんだか、気になる…)
ゴナンはその石を手に取り、じっと観察してみた。手のひらサイズで、真っ黒の中に真っ赤な欠片がキラリと光る石だ。今まで見たことがない雰囲気を持っている気がしている。
「…おい! 用が済んだならとっとと帰れ、干し肉屋!」
と、老人が玄関から入ってゴナンに叫んだ。ゴナンは驚き、石を元の場所に置く。
「…あ、すみません…。あの…」
「……?」
ゴナンはダメ元で、一つのお願いを口にしてみる。
「…あ、あの…。この器。この前割れずに、1枚だけ、残ってて…。もし、要らないものなら、俺に、くれませんか…?」
「……」
「…あ、対価が必要なら…、お金は持ってないので…、かわりに、また、獲物をいっぱい、持って来るので…」
そう、おずおずと申し出るゴナンをギロリと睨む老人。しかしくるりと背を向け、家の奥へと向かった。
「もう、それはゴミだ。好きにしろ、ちゃっかり坊主」
「…あ、ありがとう、ございます…」
ゴナンは嬉しそうな光を瞳に宿し、ペコリと頭を下げた。底が深いお椀型の器だ。泉の水がすくいやすくなるし、「器」があるだけで食生活が格段に文化的になる気もする。
器をどう使おうか考えながら老人の家を出て、外のかまどの前を通るゴナン。上部からモクモクと上がる煙を見て、あることに気付いた。
「…あ…。リコルルが簡単に見つかるってことは、この近くにボーカイの木があるのかもしれない…!」
ボーカイの葉とは、狼煙玉の材料にしていた、燃やすと煙が大量に出る葉だ。リコルルはボーカイの木の近くに巣を作る習性があると、リカルドに教えてもらっていたゴナン。
「…みんなは、巨大鳥の進路を予測して動いてくれるかもしれない。俺がボーカイの葉で狼煙を上げていれば、ここにいるって、気付いてくれるかも…」
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巨大鳥が辿り着いた場所を、皆も追ってきてくれるはずだ。地理に不案内な自分がやたらと動き回るよりは、その方が確実なように感じた。ゴナンの瞳は輝く。と…。
「うるせえ! 用事が済んだなら去れ! 独り言坊主!」
家の中から苛ついた老人が叫ぶ。この老人の叫び声にもいささか慣れてきた。ゴナンは肩をすくめ、いそいそとその場を立ち去った。
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