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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  13話「うごめく、何か」(5)


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13話「うごめく、何か」(5)


 「こちらに帰ってきたところで申し訳ないけど、ひとまず、エルダーリンドの街に戻って、宿で少し落ち着いてまた作戦会議を立てようかと思うんだが…」

 リカルドがそう、切り出した。

 この日はディルムッド達がエルダーリンドで買ってきた総菜があるので、遺跡の中で食事をしている。ゴナンはまだ十分に動けず、リカルドが寄り添ってご飯を食べさせている。

「あら、あなたからあの街に行きたいなんて言葉が出るなんてね」

「うん、ゴナンが結構、重要な話を、コチから聞き出してくれていて…」

 ナイフの言葉に笑顔で応じながら、そう報告するリカルド。正直、あの街から少しでも離れていたい気持ちはずっと脳内でくすぶっているが、それよりももっと大きな情報が、リカルドの頭の中を占めていた。

「重要な話……?」

「ああ…、多分、ゴナンじゃないと、聞き出せなかったね。巨大鳥に乗っていたことが役に立ったようだよ」

 だからこそ、もっと情報が欲しいと、ゴナンの身の危険よりも話を優先させてしまったリカルド。今は深く後悔している。

「……そうだっけ? どの部分?」

 ゴナンはピンと来ていないようで、横になったまま尋ねる。

「まず…、僕らが追っている巨大鳥は『女の子』だっていってたね。つまり、メス」

「うん、コチが頷いてた」

 そのゴナンの言葉に、一同は「えっ?」と驚く。メスということは、巨大鳥は一般的な生き物と同じオスとメスがいる生態であり、そして卵を産む可能性があるということだ。その1点だけでも、これまで知りたくとも知れなかった重要な情報だ。

「そして今日、もう巨大鳥は気流に乗ってしまったであろうこと。巨大鳥の挙動が、そういう感じだったんだよね?」

「あ、うん……。間違いないと思う。ずっと一緒にいて、見てたから……」

 そう頷くゴナンに、「まあ、わたくしは全く分からないと思うわ」と感心するミリア。

「つまり、このエリアを探索しても意味がないってことだ。そして、次のエリアはシャールメールの付近らしい。これもコチは否定しなかったね。『なぜ?』と言っていたから、ほぼ、肯定だろう」

 リカルドの確認に、ゴナンは再度、頷く。そこでエレーネは気付いた。

「…でも、リカルド……。シャールメール付近ということは…」

「そうだね、エレーネ。僕らが追っている水脈は、シャールメールの付近で途絶えてしまうんだ」

 エレーネの疑問に、リカルドは厳しい表情で答える。シャールメールの近くには大河がある。そこと合流してしまうため、『水脈』として湧き水や泉を追うことはできなくなるのだ。

「……ただ、コチは言っていたね、『巨大鳥は寒くなると動けなる』『だから急がないといけない』『ただ、それは冬眠ではない』って」

「うん…。どこか温かいところで、じっと大人しくしてるのかな? それか、女の子だから、その、……ミリアみたいに…、休む必要があるのかなって、それこそ巨大樹の樹洞みたいな場所があるのかな、なんて、思って。それを訊こうとしたら、毒で倒れちゃって」

「……」

 ゴナンが口にした『巨大樹』の言葉に、一瞬、言葉を詰まらせたリカルド。代わりにエレーネが話す。

「……動けなくなるって、まさか……」

「?」

 エレーネの顔色が少し変わった。その反応に、リカルドはなんとか口を開く。

「……そう…、もしかしたら、『卵を産むから動けなくなる』、そういう可能性もあるのではないかと僕は考えたんだ。何せその話題に迫った途端、ゴナンは矢を撃たれたから」

「……!」

 かなり核心に迫った内容に、エレーネだけでなく、皆が一様に言葉を失う。

(……あんなに遠い存在だった巨大鳥と卵が、こんなに近くに…)

 リカルドは皆に説明しながらも、震える思いだった。もし、シャールメールの近くで産卵の現場を抑えることができて、そしてそれが1個でなく複数個産むというのなら、それは一行の旅の目的の達成を意味する。

(……いや…、卵を得ることがゴールではない。それに、卵を得ることで『幸福になる』が、願いが叶うということとイコールであるかがわからない。ただ……)

 そう、思考を巡らせながら、リカルドはゴナンをじっと見る。

(……ウキの祭のときに、ゴナンがシマキから問答を受けたと言っていた。『どんな願いを叶えたいのか』と…。それはつまり、卵が願いを叶えるのだと言うことを、示しているのではないか……?)



「……? リカルド?」

 怖い表情で考え込むリカルドに、ゴナンは声をかける。

「……ああ、ゴメン。そう言うわけだから、コチの言葉をそのまま信じるならば、少なくともシャールメール付近で巨大鳥が動けなくなるというのは確実なようだ。だから、そこまで急ぐ必要はないけど、かの街へ移動をしたいね」

「シャールメール…。エルダーリンドからさらに東、やや南だな……。馬車でざっと1週間ほどの距離…」

 ディルムッドはその地名に、少し物憂げな様子で思案する。

「……リカルド。2つ尋ねたい」

「ん?」

「まず、エルダーリンドに宿泊はせず、ここから直接、出発するのでは駄目だろうか?」

「ああ、皆が構わなければそれでも大丈夫だよ。ゆっくりベッドで休んだり、何か物品の補充が必要だったりするかなと思ってのことだったから」

「それだったら、エルダーリンドじゃない街で揃えた方がいいわよ。あそこは何でも高いから。その割にものの質はよくないしね」

 このメンバーで唯一、ごく一般的な経済感覚を持っているナイフが、吐き出すようにそう言う。

「でも、なぜ?」

「……昨日、街中で気になる輩を何組か見た。ミリア様のお顔を確実に知っている伯爵一家に、ルチカに…」

「え? また、ルチカ…」

「…そして、ウキで逃した帝国軍人共もいた。ルチカは奴等を追っていたようだ。奴等は駐屯軍に捕らえてはもらったが…」

 そこまで口にして、隠密のことは胸に収めるディルムッド。

「そうか…。まあ、気にしないといけないことが多そうだから、エルダーリンドはスルーでもいいかもね。ゴナン、それでいい? 食材屋さんに挨拶したいんじゃない?」

「……うん、大丈夫」

 そう答えるゴナンに、ディルムッドも微笑む。しかし、すぐに険しい表情に戻った。

「……そしてもう1つ。もし急がないというのなら、少し遠回りになるが、シャールメールの南西にあるローゼンフォードという街に寄ってほしいのだが……」

「ローゼンフォード? 僕も何度か行ったことあるよ。大きな泉がある美しい街だね。僕らが追っている水脈とは全く違うけれど」

「……ああ…。あそこは治安も問題ない。空気もよいから、ゴナンにそこまで障らないのではないかとも思う。できれば最低2泊は、したいのだが……」

「問題ないと思うけど、どうしてだろう?」

「……それは、追って話す…」

 ミリアを見ながらそう応えるディルムッド。皆も特に異論はなさそうだ。

「……じゃあ、ここでゆっくり休んで、ゴナンが回復次第出発だね」

 そう決定し、リカルドはナイフと地図を見ながら、これから通る街道についてあれこれ話し始めた。夕食を終えたミリアは、相変わらずゴナンの手をさすっている。

その一方で、ディルムッドはエレーネを遺跡の隅へといざなう。

「……何?」

「エレーネ…。ローゼンフォードに着いたら、いくつかお願いをしたい事がある。場合によっては、ナイフにも協力してもらうが……」

「……?」

 そうして、ディルムッドはエレーネに耳打ちをし始めた。




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