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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 10話「みたび、遺跡のリカルド」(4)
10話「みたび、遺跡のリカルド」(4)
ゴナンの野営跡地から馬を走らせて、約30分。
「さて…、ひとまず、遺跡に来てみたけれど……」
ナイフが馬から降りる。例によってリカルドが違う道を行ったり逃げたりしないように幌馬車に押し込めて、エレーネが御者をしていた。
「まあ、ここからもまだ、巨大樹が見えるわ。ほんとうに大きな樹なのね」
馬車から降りたミリアが、エルダーリンドの方面を眺めてそう、感激する。今回の遺跡は、見通しの良い草原の中にあった。真っ平らな平地にひざ丈の草が生い茂っており、風が草の波を起こして気持ちよい。所々、木々やこじんまりとした森があるのが見える。そして、エルダーリンドの巨大樹も、しっかりとその姿を認めることができる。
御者席から降りてきたエレーネにナイフは尋ねた。
「とりあえず、中を探索しましょうか? エレーネ」
「ええ、そうね。リカルド、あなたも来るでしょう? 何かを調べたいのよね」
そう、幌馬車のリカルドに声をかけるが、リカルドはピクニックの準備をテキパキと行っている。「また…」とため息をつくナイフ。ゴナンに目配せをする。
「リカルド、さっきお昼を食べたばかりだよ。ひとまず、遺跡の中に行ってみよう」
「……うん…。そうだね、ゴナン…」
リカルドの表情は苦しそうだ。結局、巨大樹のお膝元まで来たというのに、この件に関してはウキからなんの進展もない。リカルドもなんとかしたい気持ちではいるのだが……。
リカルドを引っ張りながら、ゴナンはキョロキョロと周りを見回す。
「……ここ…。野営にもよさそうな場所だね」
「そうだな、向こうに水場も見えるし、少し先に森もあるから何か獲れそうだ。もしかしたらウキの遺跡と同じように、この中も居心地が良いのかもしれないな。寒さが厳しかったり雨が降ったらこの中に滞在するのも良いかもしれない」
ディルムッドも同意する。そのためにも、まずは中を見てみなければいけない。
今回の遺跡も、ウキの時と同じように、周りからは隠れるように地下に潜り込む構造で作られていた。保護はされていなかったが、普段、まったく誰も立ち入らないのだろう。草がぼうぼうに生えていて、地上にぽっこりと出ている石造りの入口を程よく隠していた。
ディルムッドとゴナンが剣で草を払い、各々、発光石のライトを持って中に入る。狭い石段が地下に続いており、ディルムッドやナイフは少し窮屈そうだ。ゴナンはルチカ特製の小型ライトだ。リカルドはそのライトをはしゃいで操作している。
「わ、ほら、見てゴナン。ここをこう回すと、灯りが広がる仕掛けになっているよ。すごいなあ」
「リカルド、足元を見ないと危ないよ」
「これを売り出せば、それだけで一財産築けそうな逸品なのに、もったいないなあ…」
相変わらずリカルドは遺跡とは違う話題に集中しようとしているが、ゴナンに手を引かれて素直に中へと歩みを進めてはいる。どうにも不思議である。
* * *
全員が遺跡の石室の中に入った。
「……やっぱり、住みやすそうだな……」
ゴナンはキョロキョロとまた、室内を見回す。中の広さも間取りも、ウキの遺跡とほぼ同じだった。そして壁の一面にある、巨大樹と巨大鳥が描かれた壁画…。
エレーネは自分のメモを取り出す。ウキのものと同じ絵か見比べようとしていた。ゴナンはルチカから返してもらった資料を開く。そしてリカルドはやはり、壁画から一番遠い壁に向かって、石積みが云々の話をし始めてしまった。
「……ほとんど、描かれている絵は同じね。右上に巨大樹、中央に巨大鳥、左下に卵、という配置も。人も描かれているし、……、あ……」
エレーネはあることに気付いて、ナイフに小声で伝える。
「……この右下の模様。リカルドのアザに似ている箇所。ここの模様が、ウキのものとは少し違う感じがする」
「……!」
エレーネはウキでメモした絵柄をかざして見比べた。同じようなアザだが、少しだけ模様の配置が違うようだ。ちなみに、この模様だけを書き写したメモだが、やはりリカルドは直視することができなかった。
「本当ね…。ただ、ちょっと違う、という感じね。どういう意味があるのかしら……」
「……リカルドのアザの模様と一致するかどうかも見てみたいところだけど…」
ナイフとエレーネは、石積みをじっと見ているリカルドの方を見る。とにかく、壁画に顔をむけられない様子だ。
「ねえ、エレーネ。この壁画は、やはりエルダーリンドの巨大樹を描いているのかしら?」
そんなエレーネに、壁画を隅々まで見ていたミリアが尋ねてきた。
「そう考えるのが妥当だと思うわ。巨大さを強調して描いてあるから」
「この遺跡の外からは、本物の巨大樹が見えるのに、不思議ね」
そう呟くミリアに、エレーネはハッとする。
「……そうね、確かに…。巨大樹に対するなにかの信仰を表しているのなら、本物が見える場所に絵を描くのは、少し違和感があるわ」
ということは……、と壁画を見るエレーネ。
「この、右上に樹、中央に鳥、左下に卵という配置に何か意味があるのかしら……。3つ一緒に描いていないといけない事情…。そのような信仰に心当たりはある? リカルド」
そう尋ねるが、リカルドはゴナンに石積みの説明をして応えない。聞こえていないかのような振る舞いだ。エレーネはリカルドの方に向かおう、としたところで、ディルムッドとナイフがハッとした。
「? どうしたの?」
「皆は中にいて!」
そう言って遺跡を飛び出す2人。また、外で何かの殺気を感じたのだ。ディルムッドは剣を抜き、ナイフは拳を構えて辺りを警戒する。
「例の吹き矢の輩かしら…?」
「どうだろう。しかし、卵男…、シマキも巨大鳥もいない状況だぞ…」
そう声を掛け合いながら警戒していた2人だが、じきに警戒を解いた。以前と同じだ。すぐに気配は消えてしまった。
「……流石にここまで続くと、気になるわね……」
巨大鳥陣営の妨害が何か入ろうとしているのかと考えながら、外の警備をディルムッドに任せてナイフはまた中に戻った。
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