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心を取り戻したこの旅を、非日常にはしたくなくて



4月が終わったら、しばらく日常から離れてひとりで過ごすと決めていた。

「こんな状況で自分が動いたら、誰かに迷惑がかかるんじゃないかな?」

「今行かなくてもいいんじゃない?部屋でひとりで過ごすことだってできるんだし…」

そんな声が頭の中をぐるぐると渦巻いて、直前までやめようかな、どうしようかな、と悩んでいた。

だけど、「どんな状況になっても、この決断だけは絶対に諦めないこと」。旅立つことを決めた日の自分が、そんなメモを残していた。

どうやら数ヶ月前のわたしは、自分が社会の声や周りの目を気にして弱気になるかもしれないことを、見透かしていたらしい。

「別に今行かなくてもいいんじゃないかな…」と心が諦める方に傾きかけていた1週間前のわたしは、それを見て「いや、今だからこそ、行かなきゃだめなんだ」と、心をもとの位置に引っ張り戻した。

そうして、できるだけひっそりと、迷惑がかからないようにと自分の中でルールを決めて、静かに旅立つことにした。




行き先や、そこですることはほとんど何も決めていなかった。

とにかく自分が「義務感」を抱くことをしない。自分の心と身体の声をしっかりと聞いて、それを満たしてあげられるような行動をする。この2つのことを、絶対に守る。それだけを決めて出発した。

1つ目についてはひとつ前のnoteにも書いたように、なかなかできなくて苦戦したのだけど、旅が後半戦に差し掛かるにつれて、徐々にわたしは自分の心が「あるべき位置」にすうっと戻ってくる感覚を味わいながら日々過ごした。

朝はカーテンの隙間から差し込む新しい陽の光で目が覚めて、「今日の朝ごはんは、なに食べよう」と、まだぼんやりした頭で考える。

その日の気分で、持ってきた服の中から好きなものを選んで、ゆっくり身支度をする。

今日はあそこのパン屋さんのサンドイッチを買って、河原で食べようかな。少し歩いて、おむすびを買ってもいいな。そんなことを、時間を気にせずのんびりと考える。

なんの約束も決まりも制限時間もない生活って、こんなにもゆとりがあるものだっけ。と驚いてしまうほど、焦りや緊張感とはかけ離れた生活だった。

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旅先では、いつも自分のお腹を満たすために、「なにを食べるか」という目の前のことだけに集中できるのがいい。(食べることが普段よりも死活問題になる、というのもあるのだけど。。)

だからこの1週間は、自分であえて制限をかけなくても、SNSはほとんど開かなかった。

そのかわり、行く先々で出会った本屋さんで1冊ずつ本を買って、河原や喫茶店でそれを読んで過ごしていた。

はじめはInstagramにあげるための写真の構図を考えて何枚も写真を撮ったり、本を読んでいて気づいたことやnoteに書けそうなことをスマホにメモしたり、無意識のうちに義務感が芽生えることが何度もあった。

その度に「ああ、またやってしまった…」と落ち込んでは自分をいなし、を繰り返していたのだけど、日が経つにつれて、少しずつその回数は減っていった。




1週間の旅から帰ってきて久しぶりに自分の部屋の机を見渡すと、A4の白い印刷用紙に、数日前の自分による苦しみの痕跡が目に入った。

いろいろな情報や声が、四方八方から勢いよく自分に殴りかかってくる。それらが自分に必要のないもの、聞かなくてもいいものだと判断する間もなく、身体の中にどんどん侵食してきて、蝕まれていく。

旅に出る前のわたしは、そんな「自分にとって本当は必要のない騒音」にかき乱されて、心をどこかに置いてきてしまっていたんだな、と思った。

眺めているとまた黒いもやもやが心を覆ってしまいそうだったから、とりあえずその大量の紙は、丸めて捨てた。

そして、それが「いい旅」だったときに必ず訪れる「わたしは旅に出る前、何に対してこんなに悩んでいたんだろう?」という感情が消えてしまわないうちに、noteに書き残しておくことにした。

(これは義務感からではない、と思っている。)





この社会で、ただでさえあまりいい顔をされない「わがままになる」ことは、今のような世の中になってから、さらに非難の対象になってきている気がする。

だけど、外から攻撃のように降り注ぐ声や、雑音を遮断して、日常から離れてできるだけ遠くへいくこと。

普段当たり前のようにしていることを一旦やめて、その時の体調や、心の声に耳を傾けて行動すること。

自分が嫌だなと少しでも思ったことを思い切って捨てて、心が動いたり、好きだなと思うものだけを手に取ること。

それを数日間でも続けることで、確実に、自分の心は取り戻せる。久しぶりに、その感覚を思い出すことができた。

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最後に、この旅を通して改めて自分が好きなものや場所、人のことを思い出すことができたので、ここからは少しずつ、「それらを守るために自分ができること」をやってみようと思っている。

この方法が正しいのかはわからないし、もしかすると、それによって誰かを傷つけてしまうこともあるかもしれないけれど。それでも、行動してみないと何も変わらないから。

動けないまま流されて、大切なものたちを失うのは、もう嫌だ。





この旅を「非日常」として区切って、昨日で終わり、さあ明日からまた日常に戻ろう、と自分の中で線引きすることは、したくないなと思う。

せっかく取り戻した心を、旅に出たときとその直後だけしか保てないものにはしたくない。日常に、つなげていきたい。

風船のように漂うわたしの頼りない心は、しっかり掴んでいないと、するりと手をすり抜けてどこかへ飛んでいってしまう。

そんなときは、このnoteを見返そうと思う。

どうか、明日からの日常が、少しでも自分の心にとって穏やかなものでありますように。

そして、その心のまま、大切な人たちの日常を、しっかり守れる自分でありますように。

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