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『メモその2』

ゴミ箱があった。側面に『ユめ』と書かれている。近くにいた子供達が灰色の塊をソレに投げ入れる。アレが『ユめ』だろうか?
私は彼らに話を聞こうと近づいた。
その時だった。
遠くからガチャガチャと音を立ててなにかが向かってきた。
足を止めて奥を見ると不思議な生き物がそこにいた。
不思議な生き物はどうやらゴミ箱の中身を大きな口に入れて食べているようだ。
口を動かすたびにガチャガチャと音が鳴る。
『ユめ喰いだ・・・』
子供の一人がそう呟いた。
私は
『ユめ喰いって何?』
とたずねた。
お姉さん知らないの?と子供達は説明してくれた。ゴミ箱に捨てた人の夢をユめ喰いは食べるそうだ。そうするとその夢は消えてしまうのだと。
私は
『捨てるような夢なら消えても問題ないね。』
と言った。
けれど、子供達は首をふって言う。
『確かに捨ててるけど、それは誰かが拾えるかもしれないからだよ。』
自分の捨てた夢は誰かのあしたの夢になる可能性がある。たべられなければ続いていくんだと……

子供達と別れ、私は考える。
私の夢はなんだろう?
『私らしく生きることかな』と考えたけれど、ソレは夢というには味気なかったので、ありったけの嘘を描いてみる。

『いつか本物の空を見てみたい』

書いた文字を見ると何だかモゾモゾした気持ちになった。私は静かにメモを破り丸めて道端に捨てた。
誰かが拾って明日の夢にするかもしれない私の嘘の夢はコロコロと転がっていった。


『メモ』

その人は、人型の先端をつまんだ。スルスルとでてきた紐をパクパク食べていく。
『何をしてるのか?』
とたずねたら
『そんなの、情報を手に入れているに決まってるじゃないか』
と返された。
私は、そうか情報かと何となくで納得した。
そうしている間にもスルスルと紐は口に入り人型は無くなっていく。

最後の一口。

ゴクンと喉を通るのを見届けて、私はまたたずねる。
『美味しかった?』
んー…と小さな声の後に
『無味だったけど今回は美味しかったよ。』
とこたえが返ってきた。
不味いこともあるんだなと私は思った。
持参した手帳に鉛筆で一通りメモをしてその場を後にした。

機会があったら私も食べてみたいと思った。



これは1場面物語。
地底シリーズと私の中では思っている、空の無い地下空間に住まう様々な者達の何気ない日常。

たまに思いつくままの地底シリーズを書き留めて、溜めて………。

情報が無味だけど、美味しいとか不味いとか、私は解る。
誰かの捨てた夢は拾える。
ユめ喰いに食べられなきゃ拾えるよ。
それも元々知っていた。


みんなは知らないっていうの?


世界との違和感はここにある。
当たり前の景色は誰も見たことのない景色。

地上に出たらみんなで笑おう。
宇宙の透ける空を吸い込もう。
そして……あなたは知る。
肉体の意味。
永遠の意味。




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