本の装丁を考える-随筆編3-
今日も引き続き【文学フリマ東京36】で頒布する本の装丁について書いていきます。
今回は楽しい楽しい「紙選び」編です!
1.前提条件をリストアップする(前々回)
2.中身の特徴を抽出する(前回)
3.製本の方法を考える(前回)
4.紙を決める
本の作りが決まったところで、次は紙選びです!
さっそく紙について悩んでいきましょう!と言いたいところですが、せっかくなので用途別に紙屋さんのご紹介をさせてください。
単行本を開いた時にある、なんか色のついたオシャレな紙、ありますよね。ああいうのを業界では「特殊紙」「ファンシーペーパー」「ファインペーパー」などと呼んでいます。
要するに、ただのコピー用紙とは違って、紙自体に色がついていたり、手触りが特徴的だったり、模様がついていたりするものの総称です。
「でもそんな紙って買えるの?どこで見れるの?」となる方も少なくないかと思います。
そこで、本に使うオシャレ紙を買えるお店をご案内したいと思います。(実店舗があるものは東京近辺になります。)
・用途別!紙屋さんのご紹介
《紙を探す・選ぶのにおススメ》
まずは、紙の種類が豊富なお店2種をご紹介します。
このふたつは、どちらも紙の専門商社がやっている一般客向けのショップ&ギャラリーです。
①竹尾見本帖
紙の種類:☆★★★★
特殊紙の取り揃えは随一!約300銘柄2,700商品あるそうです。
ですがよく見ると取り扱いのない紙があります
利便性:☆☆★★★
その場ですぐA4カット紙を購入できます。
一種類の厚さのみ(70kg~110㎏)、A4カット紙が置いてあります。
そのほかは、全紙で注文できます。
価格:☆☆☆☆★
1枚から買えるぶん、一枚の単価は高い印象。
あと、全紙をカットして買うとかなり高くつきます。
おススメポイント
神保町にある見本帖本店は、紙が色別にずらっと並んでいて壮観!
インスピレーションを得たいときに行きます。
また、試作用に数枚だけ買いたいときに便利!
②ペーパーボイス東京・大阪・ヴェラム(名古屋)
紙の種類:☆★★★★
竹尾と双璧を成す特殊紙専門店です。こちらも多数の取り揃え!
利便性:☆☆☆★★
東京の場合、四つ切サイズの取り扱いのため、少し使いづらいです。
ですが、各種・各厚さ1枚ずつ買えるのでやっぱり便利!
価格:☆☆☆★★
全体的に、竹尾よりも単価が控えめな気がします。
印刷所で選べる紙がいろいろ置いてあるイメージです。
おススメポイント
併設のギャラリーの企画が毎回とっても面白い!
様々な紙の用途を提示してくれるので、企画展のために行くことも。
この2つの会社、実は自社開発のペーパーをいろいろ持っています。
そのため、竹尾が開発した紙は平和紙業には無いし、その反対も然りです。
しかし!逆に言えばこの2店を回ればほぼすべての特殊紙が買えるといっても過言ではないのです!
なので、個人的おススメは、竹尾見本帖本店(神保町)からペーパーボイス東京(茅場町)をハシゴするルートです。東西線で数駅なのでそこまで手間もかかりません。
思い残すところなく紙を選びたい場合は、是非この2店を訪れてみてください!
(豆知識ですが、竹尾は特殊紙のことを「ファインペーパー」と呼び、ペーパーボイスの会社である平和紙業は「ファンシーペーパー」と呼んでいます。語が違えど意味するところは同じです。)
《紙を買うのにおススメ》
使う紙が決まったら、次は紙のまとめ買いです。
紙を買うときにおススメの通販サイトを挙げていきます!
(使ったのがだいぶ前だったりするので、星評価はやめておきます)
③紙通販ダイゲン
ここは楽天ショップもあり便利です!
④紙名手配
「あの紙、なんだっけ……」を探すのに使える、紙の検索・購入サイトです。
紙検索でヒットする紙すべてが買えるわけではありませんが、豊富な品揃えです。
あと、カット代がかなり安いです!A6サイズにもカットしてもらえました◎
⑤e紙季彩
古めかしいサイトですが、A判サイズで購入できるので家で印刷する人におすすめ!
注文枚数が増えるとぐんぐん安くなります。
あと発送がかなり早いです。
これらのWebショップのいいところは、A判やB判サイズにカットして売ってくれている点です。
また、ショップによっては、指定サイズにカットしてくれるところもあります。追加で裁断量はかかりますが、比較的安い印象です!
もちろん1枚の価格も安くなるので、紙を決めた後に大量生産する時におススメです!
以上、特殊紙を見れる・選べる・買えるお店の紹介でした!
もちろん、ユザワヤや世界堂、東急ハンズでも有名な紙は購入できます。
それに飽きてきた方は、是非これらのお店を覗いてみてください!
・紙を決めよう
さて、やっと本題です。紙について悩んでいきます。
そもそも「装画を考えるのではなくて、急に紙を決めるの?」と思われた方もいるかもしれません。
おそらく一般書の装丁の場合、先にデザイン作成が来ると思います。
ですが、今回作るコプティック製本の特徴で、表紙の紙がものすごく厚いのです。(元々は木の板に括り付けていたらしい。)
厚ボード紙に活版印刷なんかができたら最高なんですが、今回はローコストが目標なので、粛々と家で印刷することになります。
そのため、表紙にデザインを載せることができません!
家庭用プリンターでは厚ボード紙には印刷できないからです。
(色々試してみた結果、プリンターにもよりますが、厚さの限界は斤量200kgくらいかと思われます。)
ということはつまり、表紙の紙それ自体が本の顔に直結するわけです。
また、本文の紙を自分で決められるのも手製本の楽しい点です。
印刷所に頼むと「表紙は種類豊富だけど本文用紙は普通の紙しかない……」という場合も多いかと思います。
たしかに、小説や随筆などの余白の少ないものはそれでもいいのかもしれません。
ですが、本文用紙に手を加えると、ぐっと本の「世界観」が立ち現れてきます。
なので、今回は本文用紙にもこだわっていきたいと思います。
ということで、選ぶべきは表紙用の厚ボードと、本文用紙になります。
前回紹介した『手で作る本』では、厚ボードには「GAファイル」900kg、本文用紙には「里紙」130kgの紙が使われていました。
厚表紙は強度の確保のために同じくらいの厚さにするとして、本文用紙は少し薄くしようと思います。
130㎏は、本文用紙としてはかなり厚めの設定です。
印刷所で選べる本文用紙の厚さは、72kgや90kgが一般的です。
どうしてこんなに厚いのか……と思ったら、どうやら本文のひとつの折丁が2枚で出来ているようです。
(普通の本は、4枚一折で作ります。)
しっかりした手ごたえの本にしたいが、折丁の数が増えすぎると辛い!いうことで、3枚一折で作ることにしました。
そのため、紙の厚さは90~110㎏くらいで探していきます。
必要な紙厚が分かったところで、紙の種類を決めていきます。
今回は、随筆のテーマである「身体」から連想して、紙の見た目や手触りを想像していきます。
特殊紙の特徴は、色・柄・手触りで決まってきます。
特に、竹尾見本帖やペーパーボイス東京に置いてある「見本帳」は、これらの要素に即して作られています。
この中で、今回は「ブレンド」に分類される紙を本文用紙に使うことにしました。
ブレンド系の紙は、その名の通り、何かが混ざっている紙です。
白い羽のような繊維が混ざっていたり、紙吹雪のチリみたいなのが混ざっていたり。
ブレンド系の紙は、はっきり言ってほとんど本文用紙には使われません!
印刷された文字とチリが被ってしまうと見えにくいからです。
ですが、本文用紙に使うことによって余白にも模様が入るので、本全体の雰囲気が一貫して創り出されます。
今回、2人の作家がひとつの本を作るということで、あえて紙は揃えて、一体感を出したいと考えました。
また、「身体」というテーマから、肌っぽい紙がいいな~と考えていました。
「不健康な肌がいい」「ムラっぽいほうが人間味がある」ということで、以下の「こざと」という紙を選びました。
こちらは、荒くサイズのまちまちなチリが入った紙で、柔らかな手触りです。
色は、少し青みがかった「夏色」にしました。顔色が悪そうでよい感じです。斤量は90㎏です。
次に表紙の厚紙ですが、そもそも900㎏もあるオシャレ厚紙なんてほぼなかった!
ので、『手で作る本』に倣って「GAファイル」を使うことにしました。
色は、本文に合わせて「チャコールグレー」。黒髪が光った時の色みたいです。斤量はケチって620㎏にしました。
紙が決まったところで、紙の色に合わせて蝋引きの麻糸を買いました。
今回は、背の部分で糸が丸見えになるので、あえて赤色にしました。血管のイメージです。
ちなみに蝋引きの麻糸が買えるお店はこちら。
これですべての材料が揃いました。準備完了です!
あとはひたすら作るのみ!
5.完成!
そして、完成したのがこちらになります。
本当は制作過程も書こうと思っていたのですが、それだけでかなりの量になるので、また今度にしたいと思います。
ここまで、本の装丁を決めるときに考えていることや、使っているツールなどをまとめてきました。
初めて明文化したのですが、かなりたくさんの工程がありますね……
実制作を始めると「意外と早くできた!」と思うのもこの所以でしょう。
とても手間がかかりますが、装丁を考えたり、手製本を作ったりすると、文字通り「自分にしか作れない本」ができます!
この記事を読んで「面白そう!」と思ったら、ひとつの工程ずつでいいので、是非チャレンジしてみてください。
そして!文学フリマ東京36にいらっしゃる方は是非!こうして出来た本を見に来てください……!
まだ背を縫っている段階です。あと数日ですが頑張ります。
https://c.bunfree.net/c/tokyo36/h1/P/13
https://bunfree.net/event/tokyo36/
明日は(頑張れれば)詩集の造りについて紹介します。こちらも伝わりづらい手間をたくさん詰め込んだので、是非ご覧ください。
それでは、おやすみなさい。
七緒らいせ
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