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「お嬢さまは、謙虚に慎み深く、お相手に敬意を表現しながらも、決してご自分を卑下することはございません。」
恵まれた一握りの層を除く多くの人が、負の感情に折り合いをつけて生きている
愚痴や悪口は言うのも聞くのも避けたいものだ。しかし、不本意にも口にしてしまうことがある。
心のバランスが崩れそうなとき、他人を低めて自尊心を保とうとする。なんと浅ましく自分勝手な振る舞いであろうか。発する都度、心身ともに醜くなっていくと感じる。
「この●$×▼%!!」と心の中で罵倒しながら、すました顔で「承知いたしました」などと丁寧なメールを打つ毎日だ。
「ネガティブな言葉でもエレガントな言い方なら、罪は軽くなるのでは・・・?」
「お嬢さまことばでの悪口なら、ユーモアに変えられるかも!」
こんな思いから、「お嬢さまことば速修講座 改訂版 (加藤ゑみ子の上質な暮らしシリーズ)」(加藤 ゑみ子著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2017年6月22日発行)を手に取った。
言葉は、その人の内面だけでなく、外見にも働きかける
「ことばは、その人の内面を映すものであると同時に、その人の内面に働きかけますが、さらには、内面だけでなく、外面にも、働きかけるのです。つまり、美しいことばづかいが、美しい外見をつくります。(「お嬢さまことば速修講座 改訂版」(加藤 ゑみ子著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2017年6月22日発行))
「お嬢さまらしいけなしことばリスト」「耳障りな言葉の言い換えリスト」が例示されている。
「~さんは~できない」は「なさるお気がない」、「ぐちゃぐちゃ」は「すっきりとしていませんこと」、「頭が悪い」は「のんびりしていらっしゃる」といった具合だ。
「意地悪」は、「悪意はおありにならないのでしょうけど」「お気だてに難がおありで」になるそうだ。
負の感情を整理しつつも、心が健康になる気がする。
お嬢さまことばに変換するだけで、どんどん心がきれいになる。顔もきれいになる。これほどいい話があるだろうか。
お嬢さまは健全な自己肯定感を持っている
「お嬢さまことばの背景には、基本的に、健全な自己肯定感があります。それが、独特の大らかさと、相手を尊重し、相手の良いところに目を向ける心の余裕を作り出します。」(同上)
女をやって久しいが、もしもお嬢さまに生まれていたら、と思わない日はない。この世に私として生を受けたことに感謝している。人生はすばらしいものだと思っている。しかし、やっぱりお嬢様は羨ましい。
健全な自己肯定感というのは、別の言い方をすれば、「自分は優れていなければならない」「自分は失敗してはならない」「自分は人から尊敬されなければならない」などといった「自分は~でなければならない」という意識から解放された、ニュートラルな状態ということもできます。(同上)
お嬢さまには、生きる上での葛藤がない。
もちろん、お金の心配と無縁で、美容と勉強とお稽古と語学に全力投球できる点も羨むばかりではある。
しかし、たとえ簡素な服装であっても、派手な容姿でなくとも、お嬢さまは、ありのままの自分に十分に価値があることを知っている。ここが、お嬢さまとして光の中を生きるか、小市民として闇を這うかの分かれ目だと考えるのだ。
「必要以上にへりくだり、ご自分を卑下してみせることで、お相手を高めようとするのが、小市民的な方のもう一つの特徴でございます。お嬢さまは、謙虚に慎み深く、お相手に敬意を表現しながらも、決してご自分を卑下することはございません。ご自分を低めて、相対的にお相手の方を高めるのではなく、ご自分の立場は動かさずに、お相手を高めるのが、お嬢さまの特徴でございます。」(同上)
その場の空気を平穏に保ちたいがために、自分を低めたことがどれだけあっただろうか。
お嬢さまの振る舞いで、よい雰囲気を作り出せるのか!そんなやり方があったとは!目から鱗が落ちる心地であった。
本書には、そのための理論と実践方法が書かれている。少しずつ心がけていけば、ポジティブな気持でいられる時間が長くなりそうだ。
お嬢さまことばに言い換えるゲームで、人生をより美しく実りあるものにしていこう
「会話はゲーム、人生はエンターテイメント!あなたのことばづかいのレパートリーに、お嬢さまことばも加えて、ご一緒に楽しんでいただければ、嬉しい。」(同上)
すまじきものは宮仕え。組織に所属していなくとも、労働で糧を得ている人なら、誰もが多くの理不尽と直面する。勧善懲悪な筋書きのTVドラマの世界など、ただのファンタジーだ。不条理を生きるのが現実だ。
ネガティブな感情をお嬢さまことばに変換して、非合理をユーモラスに乗り越えていこうではないか。丁寧な言葉遣いを取り入れて、気持ちを前向きに保つことを提案する。
男性がお嬢さまことばを実践したら、おねえ言葉を発する今どきの人として、親しみを持ちそうな気がする。しかし、願わくば、お坊ちゃまバージョンも出版してほしいものだ。
心が荒れたときに読み返したい。優しく癒し、諭し、正しい道へ軌道修正してくれることだろう。心温まる作品であった。著者、編集者はじめ本書にかかわる全ての関係者に感謝申し上げる。
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