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歴史小説「Two of Us」第4章J‐10
~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~
第4章 Foward to〈HINOKUNI〉Country
J‐10
杵築城広間のど真ん中たたみ一畳分にて、細川忠興は、条幅半紙に極太の毛筆で書き上げた書を眺め、ひと息ついた。
『蜻蛉が出ると 蜘蛛の子散らす也
手に蜻蛉 頭の角の凄まじき
鬼か人か しかと分からぬ 兜也』
その川柳は、桑名藩初代藩主本多平八郎忠勝の、葬儀に参列した際に会得した句を、書に施したものなのらしい。
傍らで正座して、書き上げるのを待っていたのは、あなたガラシャ珠子。
表向きは『お玉』という侍従として杵築城に迎えられたが、城代家老松井康之は常に不在のため、実質はガラシャ珠子がこの別府の細川家おんな城主である。
杵築城下の町衆も暗黙の了解で、殿であり、姫でもあり、逝去した扱いのため細川姓を名乗らぬ『ガラシャ珠子』を、城下町の象徴として親愛の関係を深める暮らし向きだ。
沈黙を笑顔で葬ってから、静謐な空気が柔らぐ語りかけを忠興が始める。
「珠子。これは、本多の平八郎忠勝殿を語った川柳だ。
珠子は、どんな人と成りを思い浮かべるかの❓」
あいかわらず、女官のような軽装の召し物で座机に向かうガラシャ珠子は、おっとりと感想を半紙に平仮名でしたためてみる。
書き上げてから、自書を眺める。
「忠興さま。平八郎忠勝殿は、とてもイカツく恐い武将でありましたか❓」
「いや。さにあらず。
優しくて大きな瞳の、感性豊かな男ぞ❓体躯は敏捷であるが、どちらか云うと華奢であるぞ。井伊の直政殿ほどには美形男子ではないがの」
「あら、まあ。まことに相容れぬ人物像でござります。感受性の豊かなお方なのですね❓」
「いかにも。腕力や剛力で秀でる者は他にもおる。
だが、忠勝殿は勝ち方を知っておる武将じゃ。家康殿の居室に飾られた、恐ろし気に威嚇する男の肖像画とは、別人じゃ。似ても似つかぬぞえ⁉」
「まあ。。。」
口元に左手を添えて、あなた珠子は、笑った。
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『しにともな 嗚呼しにともな しにともな
ふかきごおんの とのをおもへば』
ガラシャ珠子の半紙には、感想というより、伝え聞いた本多平八郎忠勝の辞世の句が、平仮名で綴られていた。
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