歴史小説「Two of Us」第4章J-14
~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~
第4章 Foward to〈HINOKUNI〉Country
J‐14
絶壁の崖の上に建立された杵築城は、現存する日本一小さな天守閣。
それだけでなく、唯一、おんな城主が江戸時代に居城としていた時期が在る城郭。その女性こそが『ガラシャ珠子』だった。
別府(本拠地とは別に統治する処)として細川領ではあるが、城代家老の代替えに、ガラシャ珠子が住まいとしていたのだ。
久しぶりに城郭の外へ出かける、あなた珠子。勘定方の坂道の方角へ向かって歩く。
慶長8年(1603年)より、伊賀国から藩医として赴任している佐野卓節(さのたくせつ)に面会し、処方箋と丸薬を購入するためだ。
現在の大分県杵築市にも、武家屋敷の一つとして佐野邸は城下町風情に溶け込んで存在している。
〈鵯越〉よりも絶壁な崖の上に、武家屋敷町は拓かれていたが、町民の市街地へ降りて行く坂道には、下り坂に沿って勘定方の藩政業務所がひしめいている。
まもなく、家督を継承する三男忠利は胃腸も弱く、常に漢方薬を常備しているので、吉野山(奈良県)から藩医佐野卓節が取り寄せた丸薬【陀羅尼助】(だらにすけ)を受け取りに行くのだ。
先日書状にて筆まめな夫忠興から、佐野氏に丸薬を頂いておいてくれ、と託(ことづけ)があったのだ。
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前略 珠子殿
先日の逢瀬の折には、ふたりで葡萄酒をたしなむ時間を持てた故、それがし、なかなかに息抜き、殊の外充実致し候。
ついては、嫡男忠利の腹下しの止め薬を所望。藩医佐野卓節氏より預かりを願ふ。【陀羅尼助】が宜しいかと。ひと月分を願ふ。
次回訪れた際に、忠利の処方箋を受け取り、小倉の藩医にも依頼してみようかと思ふ。
珠子は健康に相違ないか。朝一番の白湯は心も温まるぞえ。
それがしは、珠子の笑顔と茶の時間を心待ちにして、日々、小倉にて責務に追われ候。
好しなに。家老の松井佐渡守に至急報せを所望ぞえ。
Tadauoqui
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