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菜食主義者(読書感想文)

 尹東柱(ユンドンジュ)という詩人が気になって彼について書かれた小説を読んだのが、最初の韓国の小説との出会いだった。
 昨年のノーベル文学賞に選ばれたのが韓国の作家だったので、また興味が湧いて彼女の本を図書館で予約した。

 「ある少年」に続いて、この「菜食主義者」が届いた。こちらは、代表作として話題になっていたせいか、十数人待ってから、予約から数ヶ月後に順番が回って来た。

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 最初に読んだこの方の「ある少年」では、目の前にいないはずの人が本から浮き出してくる様な、不思議な感覚を得た。詩の様な文章に気がつくと引き込まれていて、その人と対話をしている様な気がしてくるのはなぜか、自分でもわからなかった。

 そしてこの「菜食主義者」。
詩の様で文章自体は読みやすいけれど、文字や言葉の読みやすさとは裏腹に、気がつくと心の深いところまで入り込まれている様な不思議な感覚。読む手が止まらなかった。

 この本は3つの物語から成っていて、最初の章が「菜食主義者」。一旦この章が終わった時に「これがこの話なのか」といささか不完全な感じもしたけれど、残りの2つの章も合わせてこのお話だと読み進めて気付いた。

 ただ、その次の章「蒙古斑」から最後の章「木の花火」で、畳み掛ける様に描かれる別の人視点の描写が凄まじく、完全に心の深い部分を掴まれた。

 読後、まだ心を掴まれたままで、いろいろなことに思いを巡らす。周りの人のことを思い出す。
 この小説を読みながら、この社会から出て自分自身や自分の人生に絡みついてくる一本一本の糸が見える様な気がした。その糸自体が生きる意味になるのか、その糸から逃れようとする自分が本物なのか、わからないままに人生は進む。
 訳者あとがきにあった言葉「...彼女はデビュー以来、やすらかな日常に潜んでいる人間の本質的な欲望と実存を見据える作品にこだわっている...」は納得だった。

 人がギリギリのところで生きていながら、自分が壊れない様に敢えて見えない振りをしている部分。それが実際あるきっかけで見えてしまったら、このお話は他人事ではないかも知れない。

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なみお
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