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Namio的読書感想文

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Instagramで記録中の読書感想メモの抜粋 since 2023
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記事一覧

少年が来る(読書感想文)

 以前1冊だけ読んだ韓国のお話が心に強烈に残ったので、また何か読んでみたいと思っていた。ノーベル文学賞を受賞したというニュースを見て、漢江氏の本を数冊図書館で予約した。  最初に来たのがこの本。内容を知らずに手にしたけれど、先日韓国映画「タクシー運転手」を見てずっとモヤモヤしていた光州事件の話だった。  光州事件で命を絶たれた方々への鎮魂の書であると同時に、人の弱さに触れる本でもある。  人はちょっと間違った方向付けで凶暴にも残酷にもなり得る。良い生き方をしたいと願う中で

猫のお告げは樹の下で(読書感想文)

 何かに迷った時、分からなくなってしまった時、人に聞いてみたい、誰か教えてくれ、と思う経験は誰しもあるだろう。  振り返ってみると、結局答えをもらえることはない。でもその代わり何かをきっかけにして自分で気づいていけることがある。  これ本には1つのきっかけを受けて考え悩み気づいていく7人の愛すべき人たちが出てくる。  人のことがわからず悩んでいても、実際は答えは自分の中にあるっていうのがリアルで愛おしい。そして自分の中にある答えを見つけるには、人との関わりが必要だというこ

ボッコちゃん(読書感想文)

 人生2度目のボッコちゃん、読了。 これは私が中学生か高校生の時、読書の入口になった本だ。元々家に絵本がたくさんあって本を読むのは習慣の一つだったけれど、大人の本への入口と言えばこの本だった。  タイトルの響きと短編小説がたくさん入っている、ということでとっつきやすかったのだろう。学校の図書館で借りて読んだのを覚えている。  最近SNSの本紹介のグループで「星新一を若い頃読んでいた人たちは、大人になった今再度読んでみると面白い」という言葉を見つけ、早速手に取った。  な

月曜日の抹茶カフェ(読書感想文)

 先日読んだ「木曜日にはココアを」の続編。全く下調べもしていなかったけど、ちゃんと順番通りに読めて良かった。学生の頃は、こうした続編的なものを読む機会が多くて、なんだか常連さんになったみたいな気分でワクワクしたものだけど、そんな気持ちがよみがえってきた。  私もマーブルカフェの常連さんになったような気持ち。  同じ場所ですれ違ったり出会ったりする人たちのそれぞれの物語が短く綴ってあって、それが一冊(一つの場所?一人の人?)を中心に回っている感じ。    普段から人にとても興

君に光射す(読書感想文)

 「優しいお話」という誰かの感想を見て、手にとってみた。まだまだ出会いきれていない作家さん、いるなぁ...と痛感。  描写、言葉、細部に優しさと柔らかさを感じる。とんがっても良さそうだし、強い言葉を使って描く人もいそうな出来事も、この本の中では本当に優しい。  見方によれば(というのもこの本の中によく出てくるのだが)、優柔不断とも言える様な読む人にとってはもどかしくなってしまう様な瞬間がたくさんあるけれど、このお話の中にいると、それ自体をとても愛おしく感じる。  私自身

夏の庭(読書感想文)

 娘が家の本棚に残していった本。ずっと気になっていたけれど、やっと手にした。  一人の男の子視点で書かれていて、それがとてもリアル。目に見えるものをまっすぐ受け取る子どものピュアな感覚を思い出した。経験値が高く無い故に想像の範囲が狭いのもあるが、それがかえって真実を捉えている様な気がする。子どもが大人を見つめる目が純粋で胸が痛くなる瞬間がある。  人が亡くなることに興味を持つ主人公とその友人たち。近所の一人暮らしの年配男性を死に近いと踏んで、3人で家の見張りを始めることから

もぎりよ今夜も有難う(読書感想文)

 久しぶりのエッセイ。SNSの読書仲間のおすすめより。片桐はいりさんは私が観てきた映画でちょこちょこお見かけするだけだったけど、独特の存在感とひょうひょうとした雰囲気がとても好き。    「映画館出身、劇場育ち」とご本人が書いている通り、元々映画が大好きで映画館のもぎり(チケットを切る担当のスタッフ)としてずっと映画館勤めをしていたとのこと。演劇や映画で活躍するようになってからもしばらくもぎりは続けていて、今もライフワークで時々映画館で働いているという話を聴いて、とても興味を

幸せについて(読書感想文)

みんな必ず一度は読んでいる谷川俊太郎さんの詩。あまりにも身近にあり過ぎて空気みたいになっているけど、じっくり向き合ってみると、改めて本当に好き。詩って短い言葉の中にぎゅっと物語やエッセイが詰まっていて、味わい深い。何度も読んで味わいたい。  表紙にある「一度でも/ナマで幸せを/体験していれば/コトバの幸せの嘘に/だまされることはない」という言葉にも痺れる。言葉を扱う人が、言葉以上の世界を伝えてくれる。  丁度この本が手に届いた時、私は友人と幸せについて話していたところだっ

木曜日にはココアを(読書感想文)

図書館に予約していた本の順番が回ってきた。前回図書館の話「お探し物は図書館まで」が初めての青山さんの本だったけれど、この本も一冊の中に少しずつ袖触れ合った人たちそれぞれの物語が詰まっていて、とても好きだった。  それぞれのお話は絶妙に「もっと読みたい」と思う適度な長さで、それでもそれぞれの物語に少しでも触れることが出来たことを嬉しく思える。  本当にそれぞれは短いお話なのに、みんなどこかで繋がっているから広がりに奥行きがあって、すぐにその人がスーッと入ってくる感じ。  

たゆたえども沈まず(読書感想文)

 娘から以前勧められていたけれど分厚くて躊躇していた本、最近やっと手に取った。ゴッホと弟のテオを描いた史実に基づいたフィクション。  読後は映画を観終えた様なダイナミックな心の高揚。本の読み方は人それぞれだろうが、私がこの本を読み終えて不思議に思ったことは、私は本に登場する誰の顔も鮮明に想像せずに終えたということ。  顔や姿形よりも、その人が物を見るときの姿勢、感情が私には強く入ってきたので、魂レベルで揺さぶられる本だった。「悲しい」とか「淋しい」とか一言で表すことの出来

幸せへのセンサー(読書感想文)

 何かで見かけて図書館に予約していたものが、先日届いた。読みやすくて1日で読了。  小説ではなくて、本のタイトル通り「幸せ」に関するエッセイ的な本。ご自身の経験を通して書かれた「人には幸せのセンサーがあるはず」というお話。それが、自分を押さえたり我慢したり周りに合わせたり、としている間に鈍くなってしまう。幸せになるには自分のセンサーがきちんと作動していないと、というのが全体を通して書いてある。    私の少し上世代の方だけれど、人生を振り返って「あ、こういうことか」と思うこ

深夜特急 第二便(読書感想文)

 弟に勧められていた「深夜特急」。 名前は聞いたことあるけど読んだことない本、として多くの人が語るのを聞いてきた。私も同じく。なぜか、手に取ることなく名前ばかりをあちこちで聞いてきた。  せっかく勧められたから...という理由で手に取った。なぜ第二便から始めたかというと、図書館に1-6巻まで予約したら1巻は貸し出し中で2巻を先に受け取ってしまったから、ということだけれど。  特に順番が大事な話でもなさそうだったので、私は大満足だった。  特にこの巻「第二便」は、インドを中

あきらめる(読書感想文)

 私の好きなナオコーラさんの新刊。タイトルが、表紙のイラストが...読み進めるにつれて沁みてくるのが心地よい。  ナオコーラさんの本を読んでいると、もっとシンプルでいいんだって思えるし、性別とか性質とかはその人のもので、人を気にしたり気にされたりしなくていいんだ、ってストンと思える。本から目を離したらまた厳しい現実に戻るのだけど。  それでも、ナオコーラさんの描く世界がリアルになる日も近い。そう信じられる。だってそっちの方がずっとシンプルだし生きるのが嬉しくなると思う。

お探し物は図書館まで(読書感想文)

 英会話の生徒さんと読書の話になった時話に出てきた作家さんの本を、図書館で借りてみた。    一つの章に一人の人を取り巻く話、それが五つの五章から成る物語。その五人に共通しているのは、あるコミュニティーハウスにある図書室。  それぞれの物語を読んでいる間、そこに出てくる人たちはなんとなくぼんやりしている。でも読み進めていく内に一人一人が白黒からカラーになっていく感じ。  私は、新しい場所や新しいクラスで英語を教え始める時に、教壇から見る皆さんが最初は少しぼんやりしていて、