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小説《魂の織りなす旅路》

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光たちからのメッセージ小説。魂とは?時間とは?自分とは?人生におけるタイミングや波、脳と魂の差異。少年は己の時間を止めた。目覚めた胎児が生まれ出づる。不毛の地に現れた僕は何者なの…
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2023年3月の記事一覧

五感で読む

五感で読む

こんにちは。NAKです。

音楽を仕事にしているせいか
私にとって文章を書くことは、
リズムやフレーズを持った
メロディを奏でることに似ています。

だから、声に出して読んだとき、
読みやすくて心地のいい文章が好き。

たとえ難しい語彙を使い、
一つのフレーズが
驚くほど長かったとしても、
心地よく感じる文章ってありますよね。

それから、静寂。
音楽も静寂って大切なんです。
静寂に耳を澄ますこと

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連載小説 魂の織りなす旅路#11/胎内⑴

連載小説 魂の織りなす旅路#11/胎内⑴

【胎内⑴】

 私は私に境界線があることを知らなかった。

 無限に広がる胎内は、たくさんのさまざまな波動で満ちていて、私はこれらの波動と繋がり、混じり合う、無限に広がった大きなひとつの生命体だった。この生命力に溢れた穏やかな無限の広がりが、胎内にいる私をいつも優しく包み込んでくれていた。

 母はいつも、私に話しかけてきてくれた。母の意識が波動を通じて伝わってくると、私も波動を通じてそれに応じる

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連載小説 魂の織りなす旅路#12/胎内⑵

連載小説 魂の織りなす旅路#12/胎内⑵

【胎内⑵】

 それらの境界線はどれも似通った形をしていたけれど、ひとつも同じものはなくて、大きさもさまざまだった。共通点は上部が楕円で、左右にある細長いものが頻繁に動き、下部が2つに分かれていること。

 特に左右にある細長いものの動きは、見ていて飽きなかった。見ているといっても、映像として見ていたわけではないのだけれど。その細長いもので、ときおり母と私の波動に触れてくる父は、いつも波動ではなく

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連載小説 魂の織りなす旅路#13/14才の少年

連載小説 魂の織りなす旅路#13/14才の少年

【14才の少年】

 少年の目はどこも見ていない。隣室で寝ていた両親が土砂に巻き込まれた日、少年の時間は動きを止めた。

 母親の遺影を持った少年の横に、父親の遺影を持った伯父が立つ。弔問客を前に挨拶する伯父の声は、少年の耳には届かない。少年は静寂に耳を傾け、暗闇に身を沈めていた。
 以来、少年は伯父の家から学校に通っている。励まし寄り添ってくれていた友人たちは、無口で無表情になった少年からひとり

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連載小説 魂の織りなす旅路#14/7年分の涙⑴

連載小説 魂の織りなす旅路#14/7年分の涙⑴

【7年分の涙⑴】

 「こんにちは。」

 大学図書館の裏庭で本を読んでいた僕は、頭上から降ってきた突然の聞き慣れない声に驚き、体をビクリと痙攣させた。

 「驚かせてごめんね。あなた、いつもここで本を読んでいるでしょ? ずっと気になっていて。思い切って声かけちゃった。」

 本から目を外した僕は、彼女の人懐っこい笑顔にどぎまぎしながら、ぎこちなく答える。

 「ここは人気がなくて静かだから。」

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連載小説 魂の織りなす旅路#15/7年分の涙⑵

連載小説 魂の織りなす旅路#15/7年分の涙⑵

【7年分の涙⑵】

 陽が傾き空が赤く染まり始めたころ、折り畳み椅子を閉じた彼女は

 「ああ、ほんと! ここでの読書は気持ちがいいね。私もハマりそう。」

と背伸びをした。そうして折り畳み椅子を畳むと、また来るねと手を振り去っていった。

 以来、彼女は週に2回ほどのペースでここに来ている。初日に持ってきた簡易の小さな折り畳み椅子は、早々に、座り心地が良さそうな背もたれのある折り畳み椅子に代わり

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連載小説 魂の織りなす旅路#16/7年分の涙⑶

連載小説 魂の織りなす旅路#16/7年分の涙⑶

【7年分の涙⑶】

 ある日のこと、彼女はマグカップを2つ用意して、僕に熱々のコーヒーを注いでくれた。コーヒーからほろ苦い、芳ばしい香りが漂ってくる。飲み慣れているはずのコーヒーの豊かな香りに驚いていると、どこからか小さな水音が聞こえてきた。

 「この水の音、なんだろう?」

 「湧水でしょう? 大学の敷地内に湧水が湧いているなんて素敵だよね。」

 「湧水が湧いているの?」

 「うん。ここか

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連載小説 魂の織りなす旅路#17/老人⑴

連載小説 魂の織りなす旅路#17/老人⑴

【老人⑴】

 その老人は目が見えない。老人はソファーにもたれ掛かると、静かに瞼を閉じて追想に身を委ねた。

 「お父さん、あれに乗りたい!」

 赤い風船を持った娘が、父親の服の裾を引っ張った。父親は娘の手から風船を受け取ると、空中ブランコ乗り場へと娘を送り出す。
 今日、娘は何度このブランコに乗るだろうか。父親は近くのベンチに腰をおろし、回転しながら舞い上がっていく娘を眺めた。満面の笑顔で手を

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連載小説 魂の織りなす旅路#18/老人⑵

連載小説 魂の織りなす旅路#18/老人⑵

【老人⑵】

「君の言うとおりだったね。耀(ひかり)は女の子だ。」

 そう呟くと、父親は空中ブランコを見上げ、娘に手を振った。娘は嬉しそうに手を振り返す。明るく素直ないい子に育っている。
 妻はいつも、大きくなったお腹を愛おしそうにさすりながら、この子は特別なのと言っていた。父親は、自分の子どもが特別なのは当然だろうと思いつつ、妻がそう口にするたび妻のお腹をさすり、この子は特別だよと頷いた。
 

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連載小説 魂の織りなす旅路#19/お父さん

連載小説 魂の織りなす旅路#19/お父さん

【お父さん】

 係員のお兄さんが、腰ベルトをカチッと閉めた。ブザー音が鳴り響き、周りの景色が少しずつ動き始める。地面が遠のき、体が宙に浮いていくのが嬉しくて、私は足をブラブラさせた。視界が広がり、空がどんどんと大きくなっていく。

 私は波動を解放し、波動で風を感じた。波動で空の大きさを感じ、波動で空飛ぶ鳥を感じる。そうして私は、全身で波動の歓びを味わう。
 なんて気持ちがいいんだろう。私が手を

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