連載小説 魂の織りなす旅路#11/胎内⑴
【胎内⑴】
私は私に境界線があることを知らなかった。
無限に広がる胎内は、たくさんのさまざまな波動で満ちていて、私はこれらの波動と繋がり、混じり合う、無限に広がった大きなひとつの生命体だった。この生命力に溢れた穏やかな無限の広がりが、胎内にいる私をいつも優しく包み込んでくれていた。
母はいつも、私に話しかけてきてくれた。母の意識が波動を通じて伝わってくると、私も波動を通じてそれに応じる。そうして、私たちの波動は幾度も幾度も呼応し、共鳴し、抱擁し合った。
私には外の世界を感じ取る能力があったけれど、この能力が私だけのものなのか、胎児特有の能力で、どんな胎児にも備わっているものなのかはわからない。ただ、私はいつも、外の世界を見えない目で見ていた。
父の波動は、父の境界線の内側に閉じ込められていて、私の波動と呼応し、共鳴し、抱擁し合うことはできなかった。しかし、それは父に限ったことではなくて、医師も看護師も、誰もがそれぞれの境界線に波動が閉じ込められていて、私の波動と呼応し、共鳴し、抱擁し合える人は1人もいなかった。
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