連載小説 魂の織りなす旅路#14/7年分の涙⑴
【7年分の涙⑴】
「こんにちは。」
大学図書館の裏庭で本を読んでいた僕は、頭上から降ってきた突然の聞き慣れない声に驚き、体をビクリと痙攣させた。
「驚かせてごめんね。あなた、いつもここで本を読んでいるでしょ? ずっと気になっていて。思い切って声かけちゃった。」
本から目を外した僕は、彼女の人懐っこい笑顔にどぎまぎしながら、ぎこちなく答える。
「ここは人気がなくて静かだから。」
「これ、キャンプ用の折り畳み椅子だよね。」
「あ、うん。」
「ベンチに座るでも芝生に座るでもなく、折り畳み椅子を持参してくるなんて、面白いね。」
「芝生はお尻が濡れることがあるし、ベンチのある場所は人通りがあって落ち着かないから。」
その翌日、折り畳み椅子を持参してきた彼女は、なんのためらいもなく僕の横にその折り畳み椅子を広げた。
1人になりたくてここにいる僕は正直迷惑に思ったが、彼女は屈託のない微笑みを見せると何も言わずに本を読み始めた。それから僕たちは、そのまま一言もしゃべらず本に読み耽った。
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