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2019年 29冊目『源氏物語の教え――もし紫式部があなたの家庭教師だったら』


私は源氏物語をきちんと読んだことがありません。
でも、とても面白い本でした。

当時、貴族階級の家族で女性が生まれることはとても重要なことでした。

将来天皇の子どもを産み、もしもお世継ぎになれば、親戚として権勢を振るえるからでした。

しかし、当の女性にとっては、身分の少しの違いで差別を受ける生きにくい時代でもありました。

本人の資質だけではなく、それを支える周囲の力が無いと、差別、ねたみ、そねみ、を受けることも少なくありませんでした。

そのような時代に、源氏物語は、物語という手法を使い、女性に生きる知識を与えるために創られた本だというのです。

また、紫式部自身が高貴生まれだったのが、2代前の祖父の時代に没落したために、様々な差別を感じていたといいます。

源氏物語は、その紫式部の身分的な悔しさがベースにあるといいます。

紫式部は中宮彰子の女房でしたが、彰子の父で時の最高権力者・藤原道長の召人(女房として仕えながらセックスの相手もする者)だったというのです。

だから、紫式部と同じ受領の娘の「明石の君」に、紫式部身分が果たせなかった夢を実現させているというのです。

「明石の君は、源氏の妻たちの中で最も身分の低い女である。にもかかわらず、源氏の邸宅・六条院は、のちに彼女の子孫で埋め尽くされることになるという、物語随一の玉の輿と出世を果たした人でもある」。とあります。

明石の君が成功した物語を通じて、当時の女性に処世訓を伝えています。

①自分をよく知ること

②(身分が違うと差別が当たり前の時代に、とても難しかった)自分を大事にする、(誰も大事にしてくれなくても)自分だけでも自分のことを尊重する、

③相手が源氏のような高貴な男性でも、言うべきことはきちんと言う。

④「明石の姫」が東宮に入内した時、自らは乳母的存在に徹し、母親役は養母で正妻の紫の上に譲ることができる。

「自分を大事にする人は他人にも大事にされ、自分を大事にしない人は他人にも大事にされない。紫式部は明石の君や紫の上を通じて、そう女子に教えているのである」。「紫式部は、現代の精神医学や心理学で強調されている自己肯定の大切さを、千年以上前に気づいて教えてくれるのだ」。

とあります。

『この世にはこんな差別的な男がいるんだよ。どんなにイケメンで社会的地位が高くても、大貴族の中にはあなたを人間扱いしない男がいるんだから、気をつけて』。

源氏物語の後半の「宇治十帖」の登場人物たちは全て「ダメ人間」と断じ、ダメ人間代表の「浮舟」を通じてダメ人間からの脱却方法を示しています。

私はもう理想の女は書かない。豊富な財力と人を投入して育てられた権力者の娘より、恵まれない女が優れているなどという夢物語はもう書かない。

自分をだまして犯す男に惚れるようなふがいない女、はっきり男をはねのけられないような気弱な女、人に侮られるようなダメ女が、どうやって自分を取り戻し、幸せを感じるようになれるのか。紫式部の追究は続く」。と書いています。

「ヒロインとしては物語史上最低の身分、ぐずぐずした性格の『ダメ女』浮舟は、不幸や災厄をその身に集めて水に流す人形(ひとがた)に重ねられて登場。

人形よろしく宇治川の流れへ身を投じ、自殺を試みた末に、それまで現れたどの女君とも別種の、結婚しない道を選んで、よみがえる。その過程で、紫式部は数多くの『ダメ女』への教訓を披露している」。とあります。

「紫式部は、どんなダメ人間でも、人に侮られた人間でも、『生きる価値がある』と、命に軽重があった身分社会の時代に、声高らかに宣言するのである」。

「自分ではどうにもならない宿世や、他人が判断する『幸ひ』がその人の価値を決めていた当時、紫式部は自分自身で感じる『幸福感』こそ大事なのだ、と教えている」。

とても楽しく読めました。

現代にも通じる処世訓です。

お薦めです。

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